高等裁判所はシンベトのバル長官解任を凍結:公聴会は右派左派対立でカオスに 2025.4.10

Left: Shin Bet Chief Ronen Bar (Yonatan Sindel/Flash 90); Right: Prime Minister Benjamin Netanyahu. (Dudu Bachar/POOL)

イスラエル国内では、戦闘よりハマスとの交渉を優先して、人質を取り戻すべきだと考える人が、今の強硬右派に傾くネタニヤフ政権に危機感を持つ人も少なくない。

交渉より戦闘へと舵を切ったネタニヤフ首相は、どちらかというと、交渉の流れにあった左派よりで、シンベト(国内諜報局)のロネン・バル長官の解任を決めた。これについて、政権が過半数の国会も多数決で可決していた。

しかし、三権分立のイスラエルの法律では、シンベトほどの治安指導者を解任するには、司法が合意しなければならない。イスラエルの高等裁判所は、8日(火)、この件について、11時間にわたる公聴会を行った。

イスラエル社会は、今、ハマスとの交渉ではなく、ガザへの戦闘を開始したことに反発する市民デモが、頻繁に発生している。市民の声を重視する傾向にある司法は、基本的に政府と対立する形である。

加えて、シンベトは、現在、「カタールゲート疑惑」を捜査している。これはネタニヤフ首相の側近2人が、カタールから金をもらって、カタールに有利な情報を流したり、イスラエルの機密情報を漏らした件で、ネタニヤフ首相にも関連の疑いがかかっている。

今このタイミングで、バル長官を解任することに、ネタニヤフ首相に対する一抹の疑惑も拭えないわけである。また、ネタニヤフ首相自身も様々な汚職問題で法廷に立つ身の上にある。

しかし、公聴会では、政府の決断に反して、バル長官の解任を阻止しようとする司法に対し、右派の親政府、親ネタニヤフ首相たちが、「あなたたちにその権利はない」と叫び、混乱を巻き起こした。

反発をした人の中には、ハマスとの戦闘で息子を亡くした父親もいた。また与党リクード党のゴトリフ議員は、裁判の間中、ヤジを飛ばすなどして妨害したため、警備員に退出させられていた。

様々な議論があって、全部は理解も説明も困難だが、最終的に、イツハク・アミット最高裁裁所長官は、政府によるバル長官解任を認めず、次の指示があるまで在職するようにとの結論を出した。また、同時に、政府と司法長官に対し、4月20日までに、妥協点を見出すよう命じた。

イスラエルでは、政府の暴走を止めるためか、このように司法が、政府の決めたことを覆すことが少なくない。

政府の暴走を予防するためだが、このために、民主的に選ばれた政府の政策を、国民に選ばれたのではない司法が簡単に覆すことができる仕組みである。

このため、戦争前から、ネタニヤフ首相はこれを覆す、司法制度改革をすすめていたのであった。しかし、まだそれは完了していないため、今回も、バル長官の解任はできなかったということである。

www.timesofisrael.com/after-chaotic-hearing-high-court-rules-netanyahu-cant-fire-shin-bet-chief-bar-for-now/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。