
イスラエルでは、ガザとの戦争の2年の間に、2万2000人の負傷兵が出ている。
その半分以上にあたる58%は、PTSD(心的外相後ストレス症候群)と診断されている。
イスラエルは、このままであれば、2026年末までに、新たに1万人が負傷して、リハビリセンターに来ると予測している。
このため、政府のリハビリセンターへの予算、83億シェケルのうち、半分近い41億シェケルは、心理的ケアに充てられているという。イスラエル軍は、2024年3月に、兵士のメンタルケアの部署を立ち上げている。
それでも、イスラエルはまだガザや西岸地区、レバノンなど各地に、兵士を送り込まなければならない。イスラエル軍は、現在、厳しい人員不足に直面している。このため、いよいよ超正統派の若者を徴兵するかどうかで大揉めになっているところである。
こうした中、テルアビブ大学と、イスラエル軍医療部隊、アメリカ国防軍が、世界で初となる、PTSDを予防するプログラムのテストを行い、効果が認められたと発表した。

プログラムを開発したのは、テルアビブ大学の心理学神経科学スペシャリストで、国立トラウマ回復センターの代表者でもある、ヤイール・バル・ハイム博士である。
PTSDは、日頃から、自分に差し迫る危機に鈍感な人がなりやすいという傾向があるという。そういう人が、PTSDになると、危機的な状況でない時にも、自分の身に危機になるかもしれないことに注意を集中させてしまうことで、症状が出るという一面があるとも考えられている。
このため、ヤイール・バル・ハイム博士は、逆に危機的になりうる状況に慣れる訓練を考えたということである。いわば、PTSDのワクチンのようなものだろうか。
訓練は、コンピューターを通して、1回目は、普通の声と脅威の声を聞かせて、どちらが危機かを、すばやくクリックさせる。2回目は、普通の顔と脅威の顔を見せて、どちらが脅威かを選ばせる。一回につき160回で7分間、このプログラム4回を、日をおいて実施する。
プログラム自体は、単純で、ゲーム感覚とのことだが、兵士たちが、現場において、危機的状況に、より集中できるようになるという。
最初の調査は、2012年から始まり、2014年のガザとの戦争では、すでに実戦からの結果も得ていた。それによると、訓練を受けていた兵士でPTSDになった人は、2.6%だが、受けていなかった兵士は、7.8%だった。
その後、2022―2023年にかけて、イスラエル兵800人で行われたテストによると、このプログラムを受けていて、PTSDになった兵士は、1%だったのに対し、プログラムを受けていなかった兵士は5.3%と、5分の1に抑えられていた。
また、この時、オリジナルのプログラム、改善が加えられたプログラムと、プラセボの兵士でみたところ、最も予防効果を発していたのは、オリジナルのプログラムだったという。
このプログラムはまだ軍の、メンタルケアに取り入れられていないが、今後に期待がよせられている。
www.timesofisrael.com/computerized-prevention-program-could-lower-ptsd-to-1-of-former-combat-troops/
石のひとりごと
まさにPTSDのワクチンのような感じである。なので、ワクチンと同様、プログラムを受けておけば、PTSDをある程度予防できるとはいえ、なってしまう兵士もいる。
それにしても、訓練で使われる怖い顔をみただけで、すでに心に染みつきそうな感じもする。
記事を書きながら、日本人には、とうてい、ついていけそうもないと思わされたが、イスラエルが置かれている状況が、それほどに厳しいということも実感できるのではないだろうか。
受け入れ難い状況を、しっかり直視して、その対策をしていくという、いつものイスラエルの様相ともいえる。
