訪米直前にネタニヤフ首相がキブツ・ニール・オズを訪問:被害者たちの罵声の中 2025.7.4

Prime Minister Benjamin Netanyahu visits a destroyed home in Kibbutz Nir Oz, July 3, 2025. (Benjamin Netanyahu/X)

訪米直前の決断:ネタニヤフ首相が初めてキブツ・ニール・オズを訪問

ネタニヤフ首相は、米独立記念式典の翌日、7月7日(月)にホワイトハウスでトランプ大統領を訪問し、ガザの停戦とイラン問題について話し合うことになっている。

これに先立つ7月3日(木)、ネタニヤフ首相が、サラ夫人同伴で、ハマス奇襲の最大の被災地であるキブツ・ニール・オズを初めて訪問した。実に事件発生から636日後であった。

事件当時、キブツ・ニール・オズでは、住民400人のうち、117人が虐殺されるか、拉致された。今ガザに残されている人質50人のうち、9人がこのキブツの住民である。被災地の中でも最も被害が大きかった地点である。

ここにイスラエルの治安部隊が本格的に乗り込んできたのは、襲撃が始まってから6-7時間が経過してからであった。その背景には、それまでの国の失策やイスラエル軍の見通しの甘さ、事件発生後の失策など様々な問題が指摘されている。

on July 3, 2025. (Menahem Kahana/AFP)

にもかかわらず、ネタニヤフ首相は、今に至るまでこのキブツの査察に来ようともしなかったのである。さらには、ハマス殲滅を優先させ、人質解放は今まで後回しにしていたともみられるような対策をとってきたのである。

キブツの人々は、一行を丁重に迎えたのではあったが、ネタニヤフ首相への苦々しい思いはそのまま現れていた。

一行に向かっては、プラカードを掲げ、「恥さらし」「殺人者」「見捨てた者」などと罵声が相次いだ。

ネタニヤフ首相夫妻は、ハマスの襲撃そのままに残されている現場を視察し、被災者とも面会したが、握手を拒んだ人もいた。映像を見ると、ネタニヤフ首相の顔には苦渋としか言いようがない表情である。

人質になったが、2023年11月に解放されたニリ・マルガリットさんは、看護師として、解放される直前まで、一緒にいた、このキブツからの人質5人のケアにあたっていたという。

マルガリットさんは、ネタニヤフ首相に、「あなたには、責任がある。国家には、人質を救出する義務がある」と語り、来週ホワイトハウスに行ったら、人質全員を連れ戻すことで合意してほしいと、全員を強調して伝えた。

ネタニヤフ首相は、まだガザにいる人質、マタン・ザングーカーさん(25)の母親、エイナブ・ザングーカーさん、マタンさんのガールフレンドのイラナ・グリツスキーさん(2023年11月に人質から解放)にも面会していた。

エイナブさんは、継続したデモで、人質解放を訴える家族フォーラムの代表格の一人で、ネタニヤフ首相が何度も人質解放の機会を逃したと訴え続けている人である。ネタニヤフ首相との面会は穏やかだったようである。

しかし、被災者の一人で、妻と3人の幼い子供を殺されたあげく、自分だけ生き残って帰国した元人質のヤルデン・ビバスさんの兄、オフリさんは、ネタニヤフ首相の訪問は、遅すぎたと表明。

ネタニヤフ首相から、自分の責任を認める言葉や、「すみませんでした」も聞けなかったことから、結局は自分の政治的、個人的な目的のために来ただけだと語った。

しかし、これについては、野党のベニー・ガンツ氏は、遅くても来ないよりはマシだったと述べた。訪米直前になって、今、被災地を初めて訪問したことについて、ネタニヤフ首相が、人質を取り戻そうとする決意の現れだとの見方も出ている。

ネタニヤフ首相は、キブツ・ニール・オズ訪問後、首相府からのビデオメッセージで、人質50人全員を解放するという深い決意を表明した。

www.timesofisrael.com/anger-tears-demands-protests-as-netanyahu-finally-visits-nir-oz-worst-hit-oct-7-kibbutz/

人質家族たちの訴え:人質は全員解放を

この同じ3日(木)には、イスラエルの人質家族フォーラムが、包括的な停戦協定を求めて、人質たちの映像を44秒のクリップにまとめて発表した。その中には、これまで公開されていなかった、人質2人の映像が含まれていた。

2人は、ノバ音楽フェスから拉致されていた、マキシム・ハーキンさん(35)とバル・クーパースタインさん(22)で、クリップは4月にハマスが送りつけてきたが、公になったのは今になっていたものである。2人は「私たちは歩く死人だ」と言っている。

人質家族たちは、人質は一度に全員が解放されるべきだと訴えている。仮に今の交渉が、合意に至ったとしても、人質が全員解放されるわけではない。残される人質の解放についての見通しは全く経っておらず、そのまま見捨てられる可能性も懸念される。

ではどの人質が10人に入るのか。イスラエル政府も非常に繊細な問題に直面することになる。このクリップはその苦難をイスラエルとアメリカ、世界に訴えようとするものとみられている。

www.timesofisrael.com/pleading-for-deal-families-okay-clips-showing-hostages-maxim-herkin-bar-kuperstein/

石のひとりごと

キブツ・ニール・オズを訪問後、ネタニヤフ首相は、50人全員の解放への決意を表明している。

今のままでは、全員とはならないのだが、ガザでの激しい攻撃や、外からの圧力で、ハマスがついに降参することもありえないことではないかもしれあない。トランプ大統領もその気になっている。

来週訪米するネタニヤフ首相。奇跡の全員解放を取り付けることができるよう祈る。

参考までに以下は、筆者が2024年6月にキブツ・ニール・オズを訪問した時の記事

mtolive.net/イスラエル人人質4人死亡確認:キブツ・ニール・/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。