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西岸地区・パレスチナ人とユダヤ人の暴力の応酬エスカレート中
ここしばらく、ユダヤ人に死傷者が出るパレスチナ人によるテロが8件と急増している。この中には、ハマスによる銃撃テロや、車両突っ込みなどで死者も出るような深刻なものもある。
また、8件のうち4件は、東エルサレムで発生しており、このうち最後は、14歳のパレスチナ少女が、ユダヤ人の子供をつれた母親を刺すという悲惨な事件であった。少女は逮捕されている。
一方、西岸地区では、過激なユダヤ人入植者グループが報復(値札行為)に出て、パレスチナ人に負傷者が出ている。またテロ事件が発生するたびに、イスラエル軍が、西岸地区に入り、パレスチナ人を多数逮捕するが、その際の衝突で死亡するパレスチナ人も出ている。
こうした緊張の中、16日、西岸地区の前哨地(まだ正式な入植地ではない開拓中の土地)ホメシュで、パレスチナ人による銃撃事件が発生。イシバ(ユダヤ神学校)の学生1人が死亡した。
死亡したのは、ヤフダ・ディメントマンさん(25)。16日夜、ディメンドマンさんは、友人2人と車でホメシュを出たところ、待ち受けていたパレスチナ人の銃撃を浴び、ディメントマンさんは、首に直撃を受けて死亡。他の2人は、割れたガラスの破片に当たって軽傷を負った。
後の調べで、銃弾は少なくとも10発とみられている。ディメントマンさんは妻と9ヶ月になる子供の父親だった。
この数時間後、「値札」とみられる過激右派ユダヤ人のグループが、ナブルス南部のパレスチナ人の村カリュートになだれこみ、10数台の車を破壊。
一件の家に入って、家具を破壊した上、この家の十人であるワエル・モクベルさんをリンチした。ワエルさんは顔などにひどい怪我をしている。
その後18日朝には、ヘブロンのマクペラの洞窟付近で、ユダヤ人男性(38)が、パレスチナ人にナイフで顔を刺された。刺したのは65歳のパレスチナ人女性であった。女性は逮捕された。ヘブロンはユダヤ人地域とパレスチナ人地域があり、常に争いがある地域である。
ケンカ両成敗のイスラエル軍:犯人グループ逮捕・ホメシュ違法入植地撤去
1)パレスチナテログループ6人逮捕:主犯宅破壊で戦闘状況に
イスラエル軍はケンカ両成敗的な動きをしている。まずは、銃撃周辺を直ちに閉鎖し、大規模に犯人グループの捜索を開始。
直ちに3人が逮捕されたあと、事件発生から3日目の19日早朝、西岸地区パレスチナエリアのジェニン南部の村アル・ハリシャなど3箇所から6人を逮捕した。シンベト(国内治安維持組織)によると、6人は、イスラム聖戦関連とみられている。
www.timesofisrael.com/shin-bet-suspects-in-deadly-west-bank-shooting-are-members-of-islamic-jihad/
また、イスラエル軍は、ジェニン南部の村シラット・アル・ハリシヤで、逮捕した6人のうち、特に銃撃してディメントマンさんを殺害したとみられる、パレスチナ人の兄弟2人の家を破壊する作戦を開始した。パレスチナ人らが激しい銃撃や、投石、爆発物を投げるなどして、イスラエル軍に激しく抵抗したという。
なお、破壊に先立ち、イスラエル軍は前もって書面で家族に伝え、家を出る時間も与えているとともに、裁判所に訴える機会も与えている。しかし、実際に裁判所に訴えて何かが変わるケースはほとんどないとのこと。
イスラエル政府は、テロリストの家をただちに破壊することについて、次にテロを計画している者を思いとどまらせる効果があると考えている。しかし、実際には、恨みをますだけで、裁判もなしに家を破壊することには人権侵害との意見もある。
1)違法入植地ホメシュの建物を撤去(全部ではないもよう)
一方、違法なユダヤ人入植地ホメシュについては、建物のいくつかを撤去した。前哨地ホメシュは、2005年、シャロン故首相が、一方的撤退を断行した際、撤退を命じられた地域であったが、その後、違法にイシバ(ユダヤ教神学校)が立ち上がり、右派入植者たちが運営を続けていた。
17日、ホメシュで行われたディメントマンさんの葬儀には、右派ら数百人が集まっていた。右派シオニスト政党のスモルトビッチ氏は、「ホメシュを合法化しなければんらない。ディメンとマンさんは、神がそれを伝えるために来てくれたのだ。」と述べ、戦う姿勢を表明していた。
しかし、政府はこれを受け入れず、違法であるとして、建物を撤去したのであった。
撤去作業の際、イスラエル軍兵士らは、投石するパレスチナ人と、撤去に反発するユダヤ人入植者双方からの罵声と暴力に直面している。
www.jpost.com/breaking-news/idf-settlers-clash-again-in-homesh-689217
西岸地区の深刻な現状
最近増えているテロは、すべてハマスの傘の下で行われていると、前COGAT(イスラエル軍でイスラエルとパレスチナの支援物資など国境事務調整役)担当のエイタン・ダンゴット氏は解説する。
ハマスは、イスラエルと戦い続け、エルサレムをイスラエルから解放するといった正義とも聞こえる主張で、パレスチナ人の支持を集めており、今やガザでは、他派をもまとめる勢いで、指導的立場にあるとのこと。
西岸地区では、パレスチナ自治政府のアッバス議長が、今年も2回、総選挙をキャンセルしたことで、これまでからも明らかな汚職問題を抱える自治政府への支持率が一段と低下している。このため、西岸地区でもハマスは、勢力を拡大している。
ダンゴット氏は、イスラエルはテロを未然に防ぐために優れた働きをしているものの、100%防げないという。ハマスなど組織以外にも、ソーシャルメディアなどに影響された個人的なテロについては、防ぎようがないからである。
一方で、西岸地区では、過激右派ユダヤ人グループによるパレスチナ人への暴力も悪化している。ユダヤ人によるパレスチナ人への落書き行為や暴力は2020年に272件、2021年はこれまでにすでに397件発生している。パレスチナ人たちにとっては、過激入植者(一部であり、多くの入植者はパレスチナ人との共存を願っていることに注意)は恐ろしい存在なのである。
親パレスチナ団体によると、このような過激右派ユダヤ人たちが、暴力を働いても訴えられることはほとんどなく、処罰されないままになっていると訴えている。ラピード外相は、先月、アメリカのインタビューに答えて、「この動きは、政治とは無関係の犯罪だ。イデオロギーはや政治問題は言い訳にならない。このような動きは、イスラエルの“シミ”だ。」との認識を語っていた。
www.timesofisrael.com/lapid-settler-violence-is-a-stain-on-israel-there-should-be-zero-tolerance/
今に始まったことではないが、西岸地区内部は、今また、急速に暴力の応酬がエスカレートする状況に向かっていると懸念されている。両者の間に立つイスラエル軍兵士たちの心と命が守られるように。