緊迫続くエジプト情勢とイスラエルとの関連 2013.7.9

6月30日に始まったエジプトでの政変。昨日午前、ムルシ大統領が拘束されているエジプト軍本部前に集結し、座り込みデモを行っていたムスリム同胞団(以後MBと省略)とエジプト軍が衝突。MBのデモ隊が少なくとも51人死亡した。

エジプト軍によると、今回は先にMBの1人が実弾で攻撃してきたことに対する反撃だったと主張している。実際に物陰から軍に向かって実弾で射撃する人物の様子がネットでも公開されている。

しかしMBは、「軍はエジプトをシリアのようにしようとしている。シジ将軍(エジプト軍総長)はアラーの敵だ」として激しく反発。アラーに祈りながら、徹底交戦を宣言、MB支持者らに、立ち上がって戦うよう呼びかけている。今日は、軍に殺害された者たちの葬儀があるため、カイロ市内は緊張している。

<暫定政権のこれからのタイムテーブル>

新しい政府設立に時間がかかればかかるほど、衝突は泥沼化していく。国民に早く将来の道筋をしめさなければならない。暫定政権のマンスール氏は、この衝突の直後、これからのタイムテーブルを国民に発表した。

それによると、まずは15日以内に、現在停止となった憲法の修正を検討する委員会を立ち上げる。新しい憲法の草案をまとめて4ヶ月以内に国民投票を行う。

新しい憲法に基づき、2014年早期に議会選挙を実施。議会が完成すれば、大統領選挙を行う。

MBはもちろんこれに反発し、受け入れる様子はない。

<イスラエルはどう見ているのか>

1.シナイ半島の治安が最重要事項

イスラエルは、エジプトとシナイ半島を介して南部で国境を接している。万が一に備えて南部の警戒を続けているが、シナイ半島が混乱しない限り、イスラエルに大きな影響はない。

そのシナイ半島には、先週から本格的にエジプト軍が駐留して警戒している。ここ数日、ガザとシナイ半島国境、北部の町で衝突が起こっているが、この地域は前から無法状態になっていたため、これらの衝突が今回のカイロでの政変と関係があるかどうかは不明である。

チャンネル2の防衛関係解説者のロニ・ダニエル氏によると、エジプト軍は、だれが大統領になろうが、独自でかなりの権力を維持している。そのため、イスラエルとしてはエジプト軍との関係を良好に保ち、シナイ半島が平穏なら、それ以上、口出ししないのが得策だと語った。

しかし、アメリカが、今回のクーデターを受けてエジプト軍への年間13億ドルに及ぶ軍事支援を保留するといっている件については、イスラエルは、エジプトへの軍事支援を続けるように訴えている。エジプト軍が弱体化すれば、混乱がシナイ半島からイスラエルにも広がる可能性につながっていくからである。

2.MBではなく民間人による政権のほうが好ましい

今回のエジプトでイスラム主義独裁的政権がエジプト市民に拒絶されたことについて、ダニエル氏は、トルコでイスラム主義独裁的政権になりかかっているエルドアン首相に市民が反発していることとも合わせて、「基本的に人間はイスラム主義独裁を受け入れない。」という事を現していると語った。

こうした流れはイスラエルには好ましい流れだとダニエル氏は言う。

ただし、「今の民間人による暫定政権がエジプトを支配するようになれば、急にイスラエルとの関係が改善していくと言っているのではない。しかしどちらかといえば、MBではなく、民間人による世俗な今の暫定政権が残る方が、イスラエルには対処しやすいということだ」と語った。

<エジプト経済の懸念>

2011年からの政変で、エジプトの経済は落ちる一方である。しかし、エジプト経済が回復するかどうかはイスラエルの治安に関わってくる問題である。イスラエルとエジプトが和平条約を結んだ時のエジプト人口は3200万人だった。ところが今は8300万人である。

その8300万人が、1億人になるのはそう遠い未来ではない。このまま政府が混乱し続け、経済が回復しなければ、1億人が飢えて、イスラエルへなだれ込んでくる可能性もあるという。エジプトに、民主国家が立ち上がり、経済を回復することは、イスラエルの問題でもあるいということである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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