緊急時訓練・ターニングポイント 15 2015.6.3

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4663968,00.html

イスラエルでは昨日から今週木曜まで、毎年恒例の緊急時訓練が全国で行われている。名付けてターニングポイント15。

緊急時訓練と行っても、いわゆる日本でよく行われるところの市民を対象とした避難訓練ではない。緊急事態にシステムや連携がうまく稼働するか、そのシステムに落ち度はないかなど、いわばハード面を確認し、必要な改善を行うための訓練である。

具体的には、サイレンの確認、消防署や病院、学校と家庭、警察、軍との連携に問題はないかという検証、またそうした組織と政府中央との連携に問題はないかということの確認である。

この他、水道、ガス、電気が停止した場合に、それぞれの担当部署はどのように対処するのか、市民生活をどう維持するのかといった具体的な訓練も含まれている。

さらに、毎年同じことをやっているのではない。一昨年は、シリアからの化学兵器に備えるということに重点が置かれた。病院では、実際にガス攻撃を受けた場合の患者の受け入れ訓練を行った。今年は、北部シリアと南部ハマスから同時に攻撃があった場合に備えるという訓練である。

イスラエルはこの訓練に先立ち、ハマスと、ヒズボラに対し、「これは、毎年の訓練であってイスラエルが攻撃に出る準備をしているのではない。」というメッセージを発信している。不要に相手を刺激しないようにするためである。

なお、市民の避難訓練については、軍の部署としてホームフロントコマンドという部署があり、日頃から市民の教育、準備を行っている。

ホームフロントのHPを開くと、各地域の避難所の他、具体的にどう避難するのか、赤ちゃんはどうするのか、ペットはどうするのかまで,非常にわかりやすく、ビデオも含めたインストラクションが公開されている。

言語は中国語を含めて13カ国語で対応している。http://www.oref.org.il/894-en/Pakar.aspx

常日頃からいつ何がおこってもおかしくない国なので、いざの時には、それぞれ自分の身を守る準備は、かなりのレベルでできているといえる。

<最近のイスラエル周辺の状況>

北部レバノンとの国境にいるヒズボラは、10万発以上のGPS機能つきのミサイルをイスラエル全国に標的を合わせて攻撃準備を整えている状態がすでに何年も続いている。

幸い、ヒズボラは、シリアの内戦でアサド大統領に加勢して、イスラエルどころではなくなっている。最近、アサド大統領が勢力を失いつつある中、ヒズボラは、予想以上にシリアで戦力を失っていると伝えられている。それはイスラエルには好都合である。

しかし、アサド政権を支援するイランが、内戦の混乱と、ISISとの戦闘を名目にシリアに進出しており、ヒズボラを使ってイスラエルをまきこもうとする可能性は否定できない。

またゴラン高原では、反政府勢力のアルカイダ系アルヌスラとアサド大統領勢力、ISISが三つどもえで、イスラエルとの国境すぐそばで戦闘をくりひろげている。時々流れ弾がイスラエル領内にも着弾している。

こうした非常に複雑な状況において、イスラエルは全力をあげて諜報活動を行い、イスラエル攻撃につながりそうな出来事があれば、シリア領内であっても躊躇せず、空軍機をさっと派遣して危険な武器や人物の暗殺を行って帰って来るという作戦を繰り返している。

2日前にもそうした攻撃が、シリアとレバノン国境付近で行われたとレバノンのメディアは伝えた。当然イスラエルは黙秘。ヒズボラも今の所イスラエルと一戦を交える余裕はないのか、攻撃を受けた覚えはないと否定している。

一方、南部のハマスは、イスラエルとの国境すぐわきの道路を舗装するなどあやしい動きが続く。単発的にミサイルをイスラエル領内に飛ばして来るが、ハマス以外の団体だとしらばっくれる。

ハマスは、今、ISISとの問題に直面しているようである。ハマスはISISと同じスンニ派なのだが、ISISからみれば、ハマスは世俗すぎるイスラムである。ISISに危機感を持つハマスは、ISISの分子を逮捕、殺害するなどしている。

Yネットなどによると、ISISは、昨日からハマスに対し、「ISISから手を引け」とする48時間の最後通告を行った。その48時間以内にもハマスはISIS分子を殺害している。今後ISISがハマスとガザ地区に対してどのような動きに出るのか、注目される。

<石のひとりごと>

イスラエルの国家非難時の準備態勢には、いつもながら関心させられる。イスラエルには「最悪の事態」を直視する能力がある。最悪を見ても落ち込まずに準備する。心も準備する。だからこそ、最悪が来ても、すばやく対処でき、立ち上がりも早い。

イスラエルでは、たとえばテルアビブ360万人を非難させ、その後どのようにその人々を養い、それぞれの支援金はいくらかまで具体的な計画が進んでいるという。それでもなお、完璧ではないので、毎年テストを行っているのである。

日本では、近々大地震が来る事は確実となっている。しかし、日本政府としての準備は、イスラエルのスタンダードからするとゼロ以下と感じざるをえない。メディアでは、NHKも含め、東京直下型地震が来るとどうなるかといった番組は流しているが、ではどう行動したらいいのかというような具体策はほとんど提供していないように思う。

日本政府の特徴は、何がか実際に起こるのを見るまで、予算をさいて準備することができないということである。だから対処が後手となり、被害は拡大し、立ち上がりも遅い。

各省庁の連携も準備・訓練不足である。淡路阪神大震災では、すぐ隣の大阪の病院が準備していたのに、連携が悪いために患者はなかなか搬送されて来なかった。そういうことは今、改善されているのだろうか。

しかし、根本的には、私たち日本人には、一般的に国レベルでの危機感があまりにもないということが課題ではないだろうか。我々日本人は、いったん危機感を持つと、それに飲み込まれてしまう傾向にある。だから国民は、危機をできるだけ見ないようにし、政府も、それをできるだけ隠そうとするか、次期政権に後回しにする。

危機とそのその先を見据えて、最悪の事態に備えることは、決してネガティブなことではない。逆に強さであると筆者はかねがねイスラエルから学んでいるところである。

日本では今、あちこちで火山が噴火し、全土が揺り動くような以上な地震が発生している。平和な日常はあたりまえではない。できるならば、日本政府が、危機管理世界一のイスラエルから学んでほしいと願うばかりである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

コメントを残す

*