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連日続く東エルサレムでの激しい衝突
ラマダン中のパレスチナ人とイスラエルの治安部隊が、東エルサレムの神殿の丘、ダマスカス門で、毎夜、暴力的な衝突を繰り返していることはお伝えしている通り。金曜夜に治安部隊17人、パレスチナ人200人以上が負傷する事態になっていたが、8日夜も、神殿の丘に9万人とも見られる群衆が集結する中、紛争が発生となり、パレスチナ人80人が負傷。9日夜も、パレスチナ人が少なくとも25人負傷。23人が逮捕された。
以下は、9日夜のイスラエルの主要テレビニュース、チャンネル12の取材。パレスチナ人(イスラエル国籍のアラブ人)ユースが、イスラエルが、アルアクサ(神殿の丘)での祈りを妨害すると、いきりたっているのがわかる。
パレスチナ人らが、治安部隊拠点に投石をしている様子。イスラエルの治安部隊は、事態を悪化させないよう、悪臭を出すスカンク放水車や、威嚇弾などで対応しており、実弾を使っていない。今のところ、重症者や死者が出ていないのは奇跡だとも言われている。
צמד לוחמי מג״ב בעמדה בשער שכם עם עצור. מספר צעירים ללא היסוס מיידים לעברם אבנים ובקבוקים pic.twitter.com/FNiy52A6s3
— לירן תמרי | Liran Tamari (@liran__tamari) May 9, 2021
*10日エルサレム統一記念日のシオニスト・マーチが懸念(今日のニュースを配信後、続いて夕刻にはニュースを投稿する予定・配信は明日になる)
こうした中、本日月曜、10日は、イスラエルの第54回目のエルサレム統一記念日を迎える。例年通りなら、シオニストの若者たちの群れが、イスラエルの旗を振りながらパレードを行い、ダマスカス門から入場して嘆きの壁に向かう。神殿の丘にあがるグループもあり、警察は毎年、制止に翻弄させらる。
今年は、ラマダン行事とも重なり、パレスチナ人もこの日だけで3回、祈りの時があるという。治安関係当局は、今年は、統一記念日に、ユダヤ人が神殿の丘に上がることを禁止した。
パレードそのものは、キャンセルも検討されているとのことだが、最終的な判断はまだ出されていない。パレードが実施されるとしたら、10日朝から(日本時間午後遅く)になる見込み。
www.timesofisrael.com/25-wounded-23-arrested-as-palestinians-arab-israelis-protest-across-israel/
イスラエル国内他地域にも広がった紛争
東エルサレムでの紛争はイスラエル国内にも飛び火した。東エルサレムのシェイカ・ジャラから、パレスチナ人70家族が立退を命じられると予想されていることについて、イスラエル国内のアラブ人の中でも反発が広がった。
シェイカ・ジャラのみならず、紛争は近くのヘブライ大学周辺にまで及んだ。ヘブライ大学では、多くのアラブ人学生も学んでいるので、紛争になるのは、近年では珍しいという。
*ヘブライ大学入り口での衝突の様子
כיכר הכניסה הראשית לאוניברסיטה.
לא יודע מי צילם. pic.twitter.com/lEVpvX3N3V— نير حسون Nir Hasson ניר חסון (@nirhasson) May 9, 2021
この他、ナザレでは、数百人がメイン通りをマーチして、シェイカ・ジャラ住民の立退に反発するデモが行われた他、ハイファでも数百人のデモ隊と警察が衝突し、15人が逮捕された。
こうした事態を受けて、イスラエルの最高裁は、10日(月)に予定されていたシェイカ・ジャラの70家族中、4家族への退去命令に関する審議を保留、延期すると発表。30日以内に、次回、いつ審議を行うのかを決めるとのこと。
ガザからは、火炎風船による攻撃が激化している(事項参照)。西岸地区の入植地でも新たなテロや衝突になる可能性があるため、イスラエル軍は3部隊を派遣、増強した。
www.timesofisrael.com/idf-sends-3-more-battalions-to-west-bank-in-bid-to-curb-violence/
暴力を煽っているのは誰か
今回の紛争について、パレスチナ人は、イスラエルがラマダンの宗教行事を妨害したからだと言っている。このため、多方面から、イスラエルへの批判が高まっている。
日本のNHKでも、「神殿の丘」という言葉は使わず、「ハラム・アッシャリフ」という言葉で伝えられ、占領者イスラエルが、パレスチナ人に不当な暴力をふるっているという印象の伝え方であった。
しかし、当初、イスラエルがダマスカス門の出入りを制限したのは、ラマダンで紛争が懸念されたことと、コロナ感染拡大予防対策であったと記憶している。(西岸地区、ガザでもワクチン接種が進んでいないが、感染は微妙に減少する傾向にはある)
イスラエルは、信教の自由を認める国であり、これまでの歩みからすると、ラマダンの宗教行事を妨害するという理由だけで、パレスチナ人の動きを制限することはあり得ない。実際のところ、イスラエルは、東エルサレムのパレスチナ人にも、ワクチン接種を初め、医療ケア、貧困ケアを行ってきた。これは、東エルサレムのパレスチナ人自身が言っていたことである。
その東エルサレムのパレスチナ人たちが、今、イスラエルに牙を向いているということである。その背後にハマスの扇動があることも考えるべきであろう。
1)2つ問題から吹き出すエルサレム問題
今回の紛争には2つ以上のポイントがあることを、本来は分けて考えなければならない。一つは、神殿の丘(ハラム・アッシャリフ)という宗教が絡む場所の問題で、もう一つは、東エルサレムのシェイカ・ジャラの退去問題である。
しかし、いずれも、1967年の第三次中東戦争(六日戦争)後に、イスラエルが東西エルサレムを統一したことに関係していることから、一つのこと、根本的にイスラエルが、エルサレムに居座っていること事態が悪いとパレスチナ人の潜在的な激怒を煽る形になっているということである。
パレスチナ人自身に聞いたところによると、この根本的な憎しみは、イスラエルが東エルサレムに対する福祉や社会保障をいくら実施しても変わることがないということなのである。
2)パレスチナ人の怒りとハマス
これをもとに、今の暴力を煽っていると考えられるのがハマスである。実際、イスラエルへの敵意をいち早く口にしたのはハマスであった。
ハマスは、エルサレムでの紛争を使って、イスラエルへの攻撃を正当防衛か何かのように訴え、ガザからロケット弾を発射してきている他、ここ数日の間は、火炎風船を飛ばしてきて、大きな被害を与えている。(事項参照)
一報によると、イスラエルは、エジプトを仲介者として、紛争を沈静化させようとしたようだが、ハマスは、これを拒絶したと発表した。
確かに、暴力を激化させた大きな一因には、ラマダン中にも関わらず、過激なユダヤ人たちが、「アラブ人は死ね」などと言いながらダマスカス門に入ったことは否定できない。しかし、その前には、西岸地区でユダヤ人学生が殺害された他、ユダヤ人市民が、パレスチナ人グループに暴行を受ける様子がいくつかSNSに流されて、過激ユダヤ人を煽ったという一面もある。
今週末の神殿の丘での祈りでは、群衆が「我々はハマスだ。」と言いながら、ハマスの旗が多数翻っていたことから、ハマスが、暴力の機運を煽っているということも決して無視してはならない。ハマスは今、エルサレムでの衝突をフルに使って、イスラエルへの攻撃を正当化しようとしているのである。
しかし、証拠はないものの、ハマスの背後に、今国際社会と対峙し、論議が壁にぶち当たっているイランの問題にもつながる可能性も指摘されている。今の事態が、これまでのような限局したパレスチナ問題にとどまらず、今後さまざまな分野に波及していく可能性が指摘されている。
www.jpost.com/middle-east/iran-hamas-hezbollah-join-to-incite-terror-against-israel-analysis-667585
中東・国際社会からイスラエルへの批判:国連安保理で議論(10日)
アメリカのバイデン大統領は、先週、東エルサレムのシェイカ・ジャラのパレスチナ人70家族が、右派ユダヤ人らの訴えで、退去命令を出される可能性があることに深い懸念を表明した。これが神殿の丘での衝突につながっているという認識である。
同様の表明は、ヨーロッパ諸国、湾岸諸国、サウジアラビア、アブラハム合意を結んでいるUAEとバーレーンからも出た。湾岸諸国もパレスチナ人の退去に関して反発している。
www.timesofisrael.com/in-swipe-at-biden-netanyahu-pledges-to-build-in-jerusalem-despite-pressure/
神殿の丘の管理者であるヨルダンは9日、アル・アクサの礼拝者に対する“野蛮な”攻撃をやめるよう、イスラエルに伝えた。イスラエルは、礼拝者と国際法に乗っ取り、アラブ人の人権を守るべきであると言っている。
もう一つの和平締結国、エジプトの外相もエルサレムでの暴力を非難し、「イスラエルは、聖地アルアクサへの暴力をすぐに停止するべきだ。今ある入植地を拡大したり、パレスチナ人を退去させることは国際法に違反するものであり、2国家2民族共の目標を難しくするものである。」との声明を出した。
トルコのエルドアン大統領は、イスラエルは、法律を使って、長い時間をかけながら、少しづつパレスチナ人を排斥している。イスラエルを「テロ国家」と呼び、アラブ諸国は行動を起こすべきだとの過激な発言をした。
10日、中東アラブ世界は、アルアクサ(神殿の丘)での大規模な衝突で負傷者が出ていることについて、イスラエルの警察を批判する声明を出した。
また、イスラエル国内のイスラム教運動組織は、「今回の紛争は、イスラエルが存在していることによるもので、シェイカ・ジャラに対する入植者(右派ユダヤ人)による煽動が原因だ」との認識を表明した。
イランでは、エルサレムをイスラエルに奪われた日をクッズ(エルサレム)デーと呼び、憎しみを記念する。イスラム最高指導者のハメネイ師は、イスラエルとは戦い続けるべきだと述べた。イランでは、7日、この問題に関するデモが行われ、例年のごとくに、大きなイスラエルの旗に火がつけられたが、急に逆風が吹いて、その旗を持っていた男性に火が燃え移っている。
こうした流れから、10日、ちょうど、ユダヤ人たちがエルサレム統一記念日のマーチを開始する直前に、国連安保理は、この件に関する議論を開始することが決まった。
www.timesofisrael.com/un-security-council-to-hold-emergency-meet-on-escalating-jerusalem-violence/
イスラエルの反応:ネタニヤフ首相の決意
9日朝、ネタニヤフ首相は、エルサレム統一記念日の特別な閣議を開き、イスラエルは、全ての宗教の礼拝の自由を認めることを約束しながらも、公共の平和を乱すことをイスラエルは容認しないと述べた。
また、エルサレムと南部国境からイスラエルを攻撃が続いていることについて、「いかなる過激派にもエルサレムの平和を妨害することを許さない。」とし、特に、ハマスには、「ガザからのあらゆる暴力には、強力に対処する。」と釘を刺した。
エルサレムについては、聖書時代からのユダヤ人とその国の首都であったと述べ、世代が変わっても、ユダヤ人とエルサレムの深い関係に変わりはないと強調した。また、この54年、イスラエルが支配するようになってから、様々な宗教の自由が実現してきたと述べた。
東エルサレム、言い換えれば、1967年以前の国境線を越えた地域での建築を批判する欧州について、「イスラエルがエルサレムを建てあげることをやめることはない。諸国が首都を建てあげるように、イスラエルにも、その首都であるエルサレムを建てあげる権利がある。いかなる友人(アメリカ)からの圧力であっても、これをやめることはない。」と述べた。