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イスラエルが徹夜審議:人質解放の取引に応じることで可決
カタール、エジプト、アメリカが仲介して出てきたハマスとの人質解放に関する提案について、イスラエルの閣議(連立政権の議員たち)は、火曜夜から徹夜で審議し、22日(水)早朝、採択をとった。結果、賛成35、反対3でこれを受け入れることで可決したと発表した。
反対したのは、極右政党のベングヴィル氏と、シオニスト政党のスモトリッチ氏らで、「休戦はハマスに回復の時間を与えることになる。一部の人質は戻っても残りが戻らない可能性がある。結局、ハマスへの継続した圧力こそが人質全員の解放につながる。」と熱く反対意見を出していた。
しかし、ネタニヤフ首相とリクード、国民統一党、ユダヤ教政党、イスラエル軍、シンベト(国内諜報機関)、モサド(諜報機関)も賛成表を当時たことから、交渉を受け入れる形になったということである。以下は、その審議に出席した議員たちの様子。
תיעוד: ישיבת הממשלה הלילה בדרך לאישור עסקת החטופים pic.twitter.com/l1fcwPEMvk
— גלצ (@GLZRadio) November 21, 2023
これを受けて、カタールは、次の24時間以内、水曜朝までには、実際の人質解放の時間を発表すると発表した。
なお、この交渉は、イスラエル人の人質に限られている。たとえばタイ人など外国人人質については、それぞれの国がハマスと交渉するとしていた。しかし、最新のニュースでは、ハマスはタイ人も釈放するという情報もあり、流動的となっている。
イスラエルが合意したポイント
1)ハマスはイスラエル人人質を4日休戦で約50人解放する:1日休戦で追加10人可能性
イスラエルが合意したと言っている内容は、イスラエルが少なくとも4日間、攻撃を休止するなら、人質となっているイスラエル人(二重国籍の人はありうるが、イスラエル国籍がない外国人は含まない)の女性と子供約50人を、毎日12―13人づつ解放するというものである。
その後も休戦1日につき、10人を解放する(4日まで)可能性もあるとのこと。
イスラエルでは、これが無事遂行された場合、子供30人とその母親8人、その他の女性12人が解放されるとみている。
現在、人質は、ハマスの中のいくつものグループに分かれて210人、イスラム聖戦が30人(?)など、さまざまなグループの元に分散しているとみられている。
イスラエルは、ハマスが人質の居場所をすべて明確にすることを条件に挙げている。それにより、赤十字の訪問も可能になり、薬や医療を届けることになるとネタニヤフ首相は言っている。
2)イスラエルは刑務所にいるパレスチナ人150人(?)を東エルサレム・西岸地区へ釈放
その見返りとして、イスラエルは、イスラエルの刑務所にいるパレスチナ人の未成年者を、東エルサレムか西岸地区へ釈放する。人数は明確にしていないが、ハマスは150人と明記している。
その後、イスラエルは、イスラエルの刑務所にいる10代のパレスチナ人300人の名前を候補者として列挙したとのこと。なおこの中に殺人に関係した者は含まれていない。
3)イスラエルはガザ南部での偵察用ドローン使用を控える
ハマスは、休戦の中には、破壊的な攻撃だけでなく、ガザ南部での偵察用ドローンの使用をしないことも含めるとしている。
ガザ北部でドローンを使用は認めるが、飛行時間は午前10時から午後4時までの6時間に限定するとしている。
4)イスラエルは、ガザへの燃料と人道支援物資ドラック300台/日を許可する
イスラエルは、さらなる燃料と、人道支援物資を積んだトラックが1日300台、ガザ地区へ入ることを認める。
これからの流れ:動きは明日早朝か
イスラエルでは、政府の発表から24時間は、国民がこれに反対意見を出すことができる期間とされている。このため、この合意が実際に動き始めるのは、早くて、明日23日早朝とみられる。そのプロセスは以下の通り。
①ハマスが人質を赤十字に引き渡す。②赤十字からイスラエル軍に引き渡す。③医療チェックの後、イスラエル国内の5病院に振り分けられ、そこで家族を再会する。④医療と防衛のチームが判断し、可能な人質から聞き取りを行う。⑤人質全員に対し、治安関係者による聞き取りを行う。
www.timesofisrael.com/liveblog_entry/hostage-release-process-to-include-5-stages-report/
ネタニヤフ首相からイスラエル市民へ
ネタニヤフ首相は、人質交換に合意を決めた審議の前に、イスラエル市民に向けたメッセージを発していた。
その中で、ネタニヤフ首相は、「交渉に応じることで、戦争を止めるのではないかというナンセンスが出回っているが、それは正しくない。ハマスを殲滅する戦争は止めることはない。」とまずはその点を強調した。
また人質を取り戻すことについては、ユダヤ教の偉人ラビ・マイモンの教えから、人質をあがなうことの重要性を語り、それがイスラエルにとっていかに大事なことであるかも説明し、理解を求めた。
また友人であるバイデン大統領が、交渉を有利になるよう、努力してくれたとも説明した。しかし、最後には、もう一度、ハマスを殲滅するまで戦争はやめないと、強調した。
石のひとりごと:本当に苦渋の決断
10月7日以来、初めての人質交渉が成立したことにはなるが、これが戦争の終わりに向かうきっかけになるということはなさそうである。
ハマスは、人質の中のイスラエル兵については、返還するつもりはないと言っている。
ネタニヤフ首相も、この交渉への合意がいかに不条理で苦渋の決断であるかと述べ、あくまでもハマスを殲滅するまで戦争はやめないと強調している。
では、この交渉にはどんな意味があるのだろうか。
この交渉は、イスラエルが先手ではなく、ハマスからの提案による交渉であった。その中身をみると、イスラエルの方が譲歩が多いように見える。
イスラエルにとっては、この交渉に応じることで、たとえ一部だけでも人質を取り返しておきたいという選択なのだろうか。しかし、もしかしたら、それだけに終わるかもしれない。とはいえ、イスラエルにとっては、それを断る選択肢はないという状況ではないかと想像する。
囚われているこどもたちの写真を見て、またその家族たちに面会した後で、ネタニヤフ首相が、このチャンスを逃して1人も助けられなかったということは、とうてい受け入れられないことだからである。
かつてホロコーストの時代、国際社会は、ユダヤ人虐殺の事実を知りながら、ナチス撃滅を優先して、ユダヤ人救出を後回しにした。ユダヤ人たちは世界に見捨てられたという大きな痛みを経験している。それと同じことを、同胞に対して自らがすることはできないのだろう。
しかし、今、ガザで進められている軍事作戦をいったん保留にすることで、最前線では、ハマスを逃すか、さらなる罠をしかけられるか、よいことは一つもないだろう。戦死者は増えるかもしれない。
ネタニヤフ首相は、戦争をやめないと言っているのだが、どの時点で、どうやって戦争を再開させるかも難しい。
かつて、独立戦争を導いたベン・グリオン首相は言った。「イスラエルでは、奇跡を信じるということが現実的であるということだ。」240人全員の無事帰還とハマス殲滅を実現できるように祈る。