安息日に決断せまられたウクライナのラビたち 2022.2.26

ハリコフのシナゴーグ Chabad HPより

安息日・それぞれの決断

ロシア軍の侵攻が、本格的に始まったのは、金曜日、安息日入りの日であった。今はすでにアダルの月、プリムの祭り(聖書のエステル記を記念)がある月で、ユダヤ人は特に喜ぶよう、命じられている期間でもある。

ユダヤ人たちのシナゴーグがどうしたのかを記した記事等があったので、紹介する。

1)ハリコフ:現地シナゴーグで祈り

ウクライナ東部、ハリコフにあるハバッド派のシナゴーグは、これまでからも危機的な状況の中で、活動を続けてきたようだが、ロシア軍がいよいよ侵攻を開始した24日の週も、かわらず、シナゴーグでの安息日を守ったようである。

ハバッド派のHPのよると、25日の金曜は、外出制限がある中、シナゴーグには男性30人が集まっていた。その中には95歳の男性もいたという。

なお、ハバッド派が、現地に止まることを貫いているというわけではない。キエフに近いジトミルにあるハバッド派の孤児院では、子供100人を、国境に近いカルパチア山脈の避難させた。その後も子供は避難させているもようである。

これについて、責任者は、「パニックはないが、不確実性への恐れ」はあると語っている。戦争がどのぐらい長引くのか、すぐ終わるのか、だれにもわからないということである。

www.chabad.org/news/article_cdo/aid/5416109/jewish/We-Need-a-Miracle-Jews-of-Ukraine-Pray-for-Peace-as-Invasion-Commences.htm

2)キエフ:現地の避難先でも祈るよう呼びかけ

キエフ近郊のアナテヴカで、シナゴーグでユダヤ難民施設(2014年の戦争での難民)も運営しているラビ・モシェ・アズマンは、退避せずににとどまっている。

この安息日には、シナゴーグに来ることができず、地下のどこかに避難しているメンバーにむかって、「私もみなさんとともにいる。パニックにならないように。恐れず、全能の神に、平和をくださいと祈りましょう。」とフェイスブックを通じて伝えた。しかし、その直後に、キエフでは本格的な侵攻が始まったのだった。

別のラビは、メンバーのうちの数十の家族と共にキエフからの脱出を試みたが、戒厳令になり外出を止められて、脱出できなかった。今は家を出て郊外のキャンプにいるという。西のポーランドへ向かう予定とのこと。

昨日紹介した、逃げられない地元ユダヤ人のケアをしているラビたちは、この状況下で、キエフにいる。とりなしを!

2)オデッサ:安息日移動で早期に隣国へ避難・これから支援活動に使命

一方、オデッサの主要なシナゴーグのラビ・アアロン・モツズは、23日のうちに、メンバー200人とともに、隣国ポーランドへの脱出を開始。安息日までに到着することはなかったが、それでも、全員の安全を守ることはできた。

ラビ・モツズが、安息日を破ってしまうことがわかっても脱出を急いだのは、18歳以上の男性がウクライナに足止めになることがわかったからである。これを避けるために、安息日にかかることも承知で、メンバーをバスに乗せ、全員で国境へ急いだとのことであった。

その後、このシナゴーグの街道管理者が、今、皆で脱出できた。でも安息日をやぶらなけれならなかった。助かった今、私たちは、すべてのユダヤ人を助ける責任を負っているということを覚えよう。主の守りに感謝しよう。」とフェイスブックに挙げていた。

www.timesofisrael.com/prayer-and-panic-as-ukrainian-rabbis-guide-their-communities-into-a-wartime-shabbat/

なお、昨日紹介した、孤児院はオデッサ市内に残っていると思われる

難民支援急ぐイスラエルとユダヤ団体とクリスチャン団体

世界のユダヤ人組織などは、こうしたユダヤ難民を支援するための献金を急ぎ行っている。ジョイントとも呼ばれるJDCは、400万ドル(4億2000万円)として緊急の献金を募ったところ、23日までにその4分の1がすでに集まったとのこと。

ユダヤ教で世界に最もラビを派遣しいるハバッド派は、ウクライナでは、30都市で活動している。ハバッド派は、特設のサイトを設けて、献金を募っている。

www.chabad.org/special/campaigns/ukraine/donate.htm

日本では、BFPJapanが、エルサレムの本部とともに、ウクライナへの特別献金を開始した。BFPは、ウクライナのユダヤ人との関わりが深く、現地でも活躍している。以下から献金可能。

www.bfpj.org/pdf/ukraine_support.pdf

BFPJapan

www.bfpj.org/

BFP本部

www.bridgesforpeace.com/

石のひとりごと

ホロコーストの時代、ユダヤ人は、西から来るドイツ軍から逃れようと、東のソ連側へと逃げていった。当時は、ソ連の方が、ナチスよりましだと思った人が多かったという。

しかし、それが間違いであることがわかった人が、たとえば杉原千畝の日本通過ビザをもらい、なんとかシベリア鉄道を経由して、ソ連をも決死の思いで脱して助かった。

今のウクライナ問題からは、この当時のことを彷彿とさせるものがある。今回、ユダヤ人は、ちょうど逆、ロシア(旧ソ連)から逃げて西のポーランドやもっというならドイツへ逃げようとしている。

プーチン大統領がもし本当に旧ソ連の復活を思い描いているとしたら、早くその支配下から逃れた方がいいのかもしれない。しかし、そうとも限らない。

まさに見えない先を判断しなければならない。ユダヤ教、特に正統派のシナゴーグは、家族的でグループで動くところが多いように思う。そうすると、そのリーダーの判断が多くの人のその後を決めることになる。

それはウクライナにあるキリストの教会もまた同じであろう。そういう立場にある人々の気力と支えと主の導きを察知する力が与ええられるようにと祈る。

また今、逃亡しようとしているグループや人々にその道が開かれるように、現金や食料があるうちに脱出できるように。もちろん、とどまることを決めたグループはその場で、守られ、必要のいっさいもまた与えられるように。

また、ウクライナでは、ロシア軍に加え、ウクライナ人による強奪などの犯罪が心配だという声がいくつも上がっている。今はもう警察がいない状態だからである。

すべての道をいく人々が、そうした犯罪からも守られるようにとの取りなしも必要である。

 

 

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。