政府が進めようとする司法制度改革問題。政府も反対派もまったく弾く気配はなく、争いが延々と続いている様相にある。今、審議の中心となっているのが、「合理性」問題である。
これは、政府が決めた法律や人事を司法である最高裁が、「合理的でない」と判断した場合、却下する権利を剥奪しようとする法案である。これによると、たとえ、最高裁が却下との意向を表明しても、政府はそれに従う義務はないとする形である。
すでに、国会での1回目の審議は賛成多数で通過し、あと2回、3回通過すると、正式に法律となるところまで行っており、今週中にも審議が行われる可能性があるとして、先週末も、主要道路を封鎖する大規模なデモが、テルアビブや、ベン・グリオン空港でも行われた。この日、77人が逮捕された。
しかし、週明けても審議は行われなかった。国会憲法委員会のロスマン委員長は、今週日曜、月曜で審議を行う、国会会期が終わる7月末までには必ず通過させると主張している。しかし、ネタニヤフ首相がどういう決断をするのかは、週明けにならないとわからないだろう。
この問題については、アメリカが、改革を進めるには、市民の幅広い合意が必要だと釘をさしたこともあり、ネタニヤフ首相は、政権内事情、反対デモの動向、アメリカとの関係、さらには、現在進行中の自身の裁判も天秤にかけながら、最終の決断をしているのである。
実際、この合理性法案が通った場合、ネタニヤフ首相自身の裁判にも大きくかかわってくることになる。たとえが、裁判所がネタニヤフ首相の汚職と背任を有罪との判決を出して、ネタニヤフ首相を首相に任命することは「非合理」だと辞職を求めても、政府はそれに従う義務はないということになる。
現時点では、まだ「合理性」法案は法律になっていないので、今、裁判所がそのように動けば、ネタニヤフ首相は辞任しなければならない。しかし、「合理性」法案が通ったあとであれば、いくら裁判所が辞任を要求しても、ネタニヤフ首相は、辞任する義務はない。言い換えれば、今後、ネタニヤフ首相は、ほぼ独裁に近い形で、政治をすすめることも可能となってくるということである。
この点もあいまって、市民、特に右派を支持しない左派系の人々は、必死にこれに反対している。特に注目されているのが、イスラエル軍のベテラン予備役兵たち、特に優秀なパイロットたちが多数、招集には応じないと言っている点である。反対派は、ロスマン委員長の主張に準じて、来週月曜日、木曜日に再び、「抵抗の日」と称する大規模デモを計画している。
しかし、ややこしいのは、現時点で、ネタニヤフ首相ほどに、首相を勤められるほどの人材がいないという現状である。しばらく、中道左派の国家結束(National Unity Party)党のガンツ氏(元イスラエル軍参謀総長)の支持率が、ネタニヤフ首相を上回っていたが、西岸地区情勢がエスカレートした後から、わずかではあるが、再びネタニヤフ首相が逆転するようになっている。
これを反映してか、この週末のデモは、テルアビブで大規模に、またベン・グリオン空港にまでデモ隊が集まったのではあるが、エルサレムでのデモは、縮小傾向にあったとTimes of Israelは伝えていた。エルサレムは、左派世俗派より、正統派など右派系の住民が多いことが反映しているとみられる。
その流れのためか、この法案を具体的にすすめるロスマン国会憲法委員会委員長は、「合理性」法案をさらに厳しくして、2回目、3回目審議に出そうとしている。どう厳しくなったのかというと、最高裁だけでなく、高等裁判所でも政府の法案に介入できないとする点である。
これに対しては、またネタニヤフ首相が、ヘルツォグ大統領の要請を受けて、検討中との情報もあり、やはりネタニヤフ首相が、これについても、ネタニヤフ首相がどんな判断をするかということになる。
www.timesofisrael.com/rothman-looking-to-push-through-reasonableness-bill-by-beginning-of-next-week/
この不安定な状況の中、チャンネル12が調査したところによると、内戦になる懸念があると答えた市民は、67%だったという。