国内からも停戦へ圧力:イスラエルはハマスと交渉中か 2024.1.23

人質家族東会談するネタニヤフ首相 GPO

ハン・ユニスでは、激戦となっているが、ガザ北部、中部では、撤退した部隊もあり、戦闘規模は以前よりは縮小している。しかし、まだハマス指導者の摘発も、人質の解放どころか、人質の情報も確保できていない中でのことである。

国内外からは、一時的にでも停戦交渉に応じて、人質を取り戻すことの方が重要ではないなのかという声が聞こえるようになっている。政府は、信頼を取り戻すためにも、総選挙するべきではないかとの声も出ている。

こうした中、イスラエルは、戦争を終わらせることはないと強調する中、カタールとエジプトの仲介を通じて、人質136人全員を段階を追って返還する代わりに、最大2ヶ月間、ハマスに対する戦闘を停止する案を進めているとの情報がある。

国内からの意見

1)ハマス殲滅は現実的ではない:エイセンコット前参謀総長

今回のガザでの戦闘で、息子と甥を失った、エイセンコット元参謀総長が、ハマスを完全に殲滅することは現実的ではないと述べた。エイセンコット氏は、今の政府は、国民に真実を語っていないと断言している。

また、政府は戦後のガザをどうするのかを決めなければならないが、それについて、ネタニヤフ首相は、ハイレベルの会議を開催しようとしていないと指摘した。エイセンコット氏は、国民の信頼を取り戻すためにも、数か月以内に選挙をやり直すべきだと語った。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/eisenkot-says-elections-necessary-within-months-to-renew-public-trust/

また、一部の軍司令官が、外交でない方法で人質を取り戻すことは不可能だと語ったとか、ハマス殲滅と人質奪回の目標達成が、同じほどには重要視されてないと言う軍関係者がいるとニューヨークタイムスが報じた。イスラエル軍はこれは軍の方針ではないと言っているが、物議にはなった。

しかし、軍関係の専門家、ヤアコブ・アミドロール氏は、ハン・ユニスという混雑した都市構造での戦闘は、非常に困難であると指摘。

軍を長期間、滞在させるのではなく、今後は、ちょうど西岸地区で今行われているように、よく訓練された部隊が、単発で交代するように入って、危険なテロリストやその関連施設を破壊しては戻って来るというやり方になっていくと語っており、軍が目標もなく、戦っているのではないと強調した。

2)人質家族が首相官邸前で泊まり込み訴え・国会で訴え

人質の家族たちは、政府が戦闘を停止しないので、人質の命が危険にさらされていると訴え、すぐにも停戦して、人質を取り戻すよう、訴えている。

安息日明けの20日には、テルアビブの主要幹線道路を停止させた他、エルサレムの首相官邸前で、デモを決行。そのままテントを張って泊まり込む様子も見られた。

www.timesofisrael.com/hostages-families-pitch-tents-outside-pms-private-home-demand-immediate-deal/

さらに21日には、国会の財政委員会に、プラカードを掲げて乱入し、「人質が死のうとしているのに、あなた方はここに座っている」と訴えた。

ずいぶん激しい反応だが、人質家族の中には、わずかだが、右派シオニスト系の家族もいる。その人々は、「これは私の息子だけの問題ではない。国全体の問題だ」として、イスラエル軍は戦闘をやめるべきではないと訴えていた。無論、こうした声は小さいということである。

ネタニヤフ首相は22日、人質家族代表らと会談。人質解放に向けた、ハマスの提案による現実的な交渉が進んでいるということについては否定した。ただ、まだ内容は明らかにはできないとしながらも、イスラエルが主導する交渉があると述べた。

人質家族たちは、ネタニヤフ首相に対し、人質には耐え抜く時間がもうあまりないとし、とにかく急いで欲しいと訴えた。父親を人質に取られているイズハール・リフシッツさんは、「人質にはもうあまり時間がない。政治問題が影響を及ぼす余裕はない。ネタニヤフ首相が交渉があるというなら、それを支持する側に立つしかない」と語っている。

www.timesofisrael.com/pm-tells-families-no-true-hamas-proposal-for-hostage-release-says-israel-made-offer/

人質136人全員解放と停戦2か月の案

ネタニヤフ首相は、現実的な交渉は行われていないと言ったが、ニュースサイトアクシオスというメディアが伝えたところによると、イスラエルは、カタールとエジプトを通じて、人質全員136人を段階的に解放する代わりに、その期間として、2か月間、ハマスへの攻撃を停止するという案が、現実味を帯びて来ていると発表した。

それによると、第一弾として子供と女性、60歳以上の男性、重症の人質が解放される。次に、女性兵士と兵士でない60歳以上の男性、最後に男性兵士と人質の遺体となっている。無論、今回も、イスラエルにいるパレスチナ人の釈放も並行するとみられる。

まだ決定した交渉ではないが、かなり進んでいるとのこと。ここ数日の間に何か動きがあるのかもしれない。

なお、人質全員を解放することの見返りとして、ガザのシンワルら指導者らが、全員ガザから出ることを認めるといった案もあったが、これについては、その後の情報はない。

www.timesofisrael.com/israel-said-to-offer-two-month-pause-in-gaza-fighting-for-staged-release-of-hostages/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。