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司法制度改革法案・1回目可決
イスラエルで国民の6割が反対、もしくは採択延期を望むと表明している司法制度改革法案。
市民の大規模な反対デモに加えて、ヘルツォグ大統領が、5項目からなる妥協案とともに、妥協案にむけた交渉を呼びかけていたが、功を奏することなく、昨日20日、予定通り、国会での議論と採択が行われた。
結果、賛成63、反対47で可決となった。イスラエルでは、法案が法律として成立するには、国会での採択で3回可決しなければならない。今回、1回目が通過したので、法案は、再び憲法・法・司法委員会に戻され、6週間後には2回目、続いて3回目の決議が行われる。
この法案を出したレビン法務相は、4月5日から始まる過越休暇までに、3回すべて完了したいとの意向を語っている。1回目をクリアしたことを受けて、ネタニヤフ首相は、「今日は偉大な日だ」と述べた。
www.jpost.com/israel-news/politics-and-diplomacy/article-732148
一方、ラピード筆頭野党党首は、「歴史が今夜のあなたがたを裁くだろう。イスラエルの民主主義、経済、治安に悪影響を与え、国家の分裂を見過ごしたのだ。」とのコメントを出した。
ガンツ前防衛相は、「民主主義にとって暗黒の日だ。明日朝からまた戦いがはじまる」と語った。
6時間以上の論議と混乱
国会での審議では、与党は、「この法案は民主主義を強化する」と主張。野党議員らは、イスラエルの旗をかかげて反対意見を述べ、物議をきわめ、途中で退席する様子もあった。議論は、午後16時から夜中0:30まで、6時間以上続いた。
מפגינים שנכנסו ליציע האורחים ניסו לצעוק ולדפוק על הזכוכיות תוך כדי דבריו של רוטמן שמציג את החוק,
והם מוצאים החוצה בכח- pic.twitter.com/8CDmChGk6w
— Noa Shpigel (@NoaShpigel) February 20, 2023
国会周辺での大規模デモ:議員自宅周辺にも反対派
20日は、朝からエルサレム・テルアビブ1号線、テルアビブ市内や、全国で、主要道路が封鎖されるデモが行われた。学校では子どもたち、親たちもデモに参加した。
リクード議員の家周辺でもデモが行われた。国内治安相ベン・グビル氏は、「アナーキスト(無政府主義者)に言論の自由はない」などと過激な発言も出た。
しかし、結局のところ、これほどの反対も与党を動かすことなく、採択は行われたということである。
国会を通過した法案とは
今回、国会で通過した法案は、最高裁の裁判官を決める制度の変更である。9人からなる選任委員会では、司法、行政、国会と3分野すべてから代表を出すとし、裁判官選任は過半数5人の賛成で決まるとされる。このため、よりすぐれた民主主義だと主張している。
確かに、9人の中には、野党議員も1人入ることにはなるのだが、9人のうちの過半数にあたる5人は、政権側に立つ人材にできる形になっていることから、結局のところ、野党議員1人の存在はほとんど意味をなさず、政権側の意向が常に通る形になる。
また、最高裁が、仮に政府が出してきた法案を却下しても、政府はそれを再度審議した上で、実施することが可能になる。これまで言われてきたように、実質的には、政府の動きを監視するものがなくなるということである。
これについて、たとえば日本では、政府が決めた法律を最高裁が却下するということはない。ただ衆議院と参議院、さらには、天皇が最終的な承認をしているので、それらが政府の独走を監視するシステムになっている。アメリカも同様、上院、下院があり、基本的には、大統領が独走できないシステムである。
しかし、イスラエルの場合は、国会が一つであり、国会過半数をとっている連立政権が政府をになっているので、過半数を基盤に常に法案が通ってしまう可能性が出てくる。だから、今も、これほどの反対意見が国内から出ているのに、政府を止めることができないということである。
加えて、これまでは、最高裁が、政府のやることが基本法から外れていないか、少数派や弱者の人権が守られているかなどの監視をしていたのが、これからは、このシステムも失われるということである。
大統領の権威にも影
今回、国が大きく分裂しつつあることを受け、ヘルツォグ大統領が、5項目の妥協案を出してまで、交渉を呼びかけたにもかかわらず、これが功を奏しなかったことも注目された。
大統領の妥協案について、野党は、まず与党がこの改革案を6ヶ月保留とするなら、交渉に応じると返答。与党は、これを受け入れたら、延々と延期になる可能性があるとして、保留にしないままでの交渉なら受け入れるとした。
結局、野党はこれを受け入れず、与党は、「野党はいかなる妥協にも応じなかった」として、交渉ができなかったのは、野党のせいだと言っていた。いずれにしても、大統領の権威にも影を落とした形である。
www.timesofisrael.com/the-sudden-surprising-indispensability-of-the-israeli-presidency/