北部緊張:ヒズボラ幹部・サミール・クンタール死亡 2015.12.22

ヒズボラは、シリア領内ダマスカス郊外で19日夜、ヒズボラ幹部サミール・クンタール(53)が死亡したと伝えた。ヒズボラは、クンタールがいたビルが爆破されている様子を公開し、イスラエルのピンポイント空爆で暗殺されたと主張している。

イスラエルは、クンタールの死亡を歓迎すると発表。イスラエルは暗殺を計画していたと言っているが、実際に暗殺したかどうかの明言はしていない。

この直後、イスラエル北部ゴラン高原イスラエル側にロケット弾2発が撃ち込まれ、アラームが鳴るさわぎとなったが、どちらも空き地に落ちて被害はなし。後にヒズボラではなく、パレスチナ系組織が犯行声明を出した。

しかしこの後、ヒズボラのナスララ党首が、イスラエルへ報復すると表明。イスラエルは、万が一に備え、諜報活動のレベルを上げるとともに、国境にブロックを並べて、侵入を防ぐなどを検討している。

元イスラエル軍諜報関係者で中東情勢の専門家モルデハイ・ケダール博士によると、ヒズボラは確かにシリアへの介入で、3分の1とも言われる兵力を失っているが、ミサイル部隊はまったく無傷だと指摘する。

イランの指導により、レバノン南部に設置された10万発以上とも言われるミサイルとその操作部隊は、将来のイスラエルとの戦争のために無傷で残されているという。

ケダール博士は、ヒズボラが戦力を失っているからといって油断は決してできないと指摘する。

<残忍で執念深いテロリスト・中東の”時限爆弾”>

サミール・クンタール(当時16才・ドルーズ族)は、1979年、ネタニヤに不法侵入し、警察官1人を殺害したあと民家に侵入。ダニー・ハランさんとその4才の娘エイナットちゃんを連れ出し、ダニーさんを射殺したあと、エイナットちゃんの頭を銃床で砕いて殺害した。

妻ともう一人の娘ヤエルちゃん(2)は狭い物陰にかくれていたが、ヤエルちゃんが声を上げそうになったので母親が口を塞いだために死亡するという悲惨きわまりないテロ事件だった。

この事件により、クンタール(当時16才)は、イスラエルの警察に逮捕され、その後30年もイスラエルの刑務所に服役していた。そのクンタールがイスラエルの刑務所を出たのは2008年。2006年のレバノン戦争で行方不明になり、結局殺害された2人のイスラエル兵の遺体と交換に、釈放されていた。

釈放されるやいなや、ヒズボラの司令官としてテロ活動に復帰。シリアのアサド大統領の協力する部隊の幹部として働くようになった。

しかし、その残虐性はそうとうなもので、ヒズボラにも反抗するようになってきたため、昨年末、ヒズボラはクンタールを更迭している。

更迭された後もクンタールはゴラン高原に残留し、ヒズボラとは別のグループ(イランの支援ありの可能性)を立ち上げて、かなり大きなイスラエルへの攻撃計画をすすめていたと西側情報筋とする情報をYネットが伝えている。

しかし、サミール・クンタールは、現時点ではイスラエルとの対立を望まないヒズボラや、アサド大統領にとって”時限爆弾”だった。もしクンタールがイスラエルをゴラン高原から攻撃した場合、ヒズボラ、アサド政権、さらにはイランとイスラエルとの戦争の口火を切ることになる可能性があったからである。

サミール・クンタールは、イスラエルだけでなく、ヒズボラ自身をはじめ、アサド政権、シリア反政府勢力、どれもが”死んでもらった方が助かる”人物だったということである。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4741514,00.html
ケダール博士インタビュー:http://www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/205280#.VnkQeKUWnA8

<ロシアとイスラエル>

今回、バクダッド郊外でこうした暗殺事件が発生したわけだが、これは今、シリアに介入し、バグダッド周辺に駐留しているロシアが、暗黙の了解を出したということを暗示している。

イスラエルが攻撃したかどうかは不明だが、事件当初、プーチン大統領はイスラエルの暗殺を黙認したといった情報も流れた。

ネタニヤフ首相は11月30日にパリで、プーチン大統領と会談を行っており、イスラエルとロシアは、シリア情勢に関して、情報交換を行っているみられている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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