全国で人質解放訴えるストとデモ:ネタニヤフ首相はデモは人質解放を遠ざけると警告 2025.8.18

Huge crowds in and around Hostages Square in Tel Aviv for a rally at the end of a day of strikes and protests nationwide urging a deal for the release of all hostages held by Hamas in Gaza, August 17, 2025. (Yair Palti / Pro-Democracy Protest Movement)

イスラエル人たちの全国規模ストとデモ

Protesters demanding a hostage and ceasefire deal block Begin Highway in Jerusalem on August 17, 2025. (Charlie Summers/Times of Israel)

8月17日(日)、早朝から、イスラエル政府に対し、ガザへの攻撃ではなく、人質交渉を進めよう求めるデモが、ストを伴って全国規模で行われた。

今ガザへの攻撃を激化すれば、人質は殺されることになるとして、断固反対を呼びかけているのである。

また、ネタニヤフ首相が、人質解放になったかもしれない交渉を拒否してきたことなど、この2年近くの政府の対応を非難の声をあげた。

ストに参加したのは、全国の市町村、大学、企業、IT企業などであった。交通系が麻痺するなど、全国を巻き込む1日となった。

www.timesofisrael.com/commuters-face-serious-delays-as-damage-to-train-lines-coincides-with-strike-for-hostages/

デモは、テルアビブの人質広場と、各地の主要道路を封鎖するデモが行われ、警察とも衝突となり、少なくとも38人が逮捕された。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/police-say-number-arrested-at-hostage-protests-now-up-to-38/

夜には、テルアビブの人質広場で大規模な集会が行われた。人質家族フォーラムによると、夜の集会に参加した人は、40万とも50万人で、朝からの参加者を含めるとおよそ100万人が参加したと推測されている。

www.timesofisrael.com/hundreds-of-thousands-gather-in-tel-aviv-to-mark-end-of-nationwide-day-of-hostage-protests/

大統領からガル・ガドットさんまで同胞を思うイスラエル人たち

この日は、現職、歴代大統領がデモに参加してメッセージを発信した他、イスラエル人で世界的に有名なハリウッド・スターのガル・ガドットさんも支援を表明するなど、まさに国を上げて、「人質を見捨てるな」のラリーとなった。

in Hostages Square in Tel Aviv as part of a nationwide protest, August 17, 2025. (President’s Office)

ヘルツォグ大統領は、17日(日)日中、テルアビブの人質広場を家族とともに訪問した。

人質の帰国を望んでいないイスラエル人はいないと述べ、まだガザに残っている人質50人(うち20人)に対し、「私たちはあなたたちの事を一瞬たりとも忘れていない。あなたたちが家に帰れるように、あらゆる努力を続けている」と表明した。

また世界に向けて、「偽善者にならないでほしい。ハマスに無条件に人質を解放するよう圧力をかけてほしい」と訴えた。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/at-hostages-square-during-nationwide-strike-herzog-urges-global-pressure-on-hamas/

in a hostages’ families protest tent in Jerusalem on August 17, 2025. (Screenshot/Hostages and Missing Families Forum)

リブリン前大統領は、17日(日)、エルサレムでの集会に現れ、「このデモは政治的なものではない。自分が来たのも政治的なことのためではない」と語り、次のように述べた。

「イスラエル人は、私たちを愛する国と、そうでない国の中に住んでいる。ただ今の状況は、後者だけになっている。右翼は反ユダヤ主義に傾き、その反対の左派は、私たちの戦いを非難している。

今、世界から非難される中、私たちは、「最優先すべきは、人質となっている私たちの国民と私たちと一緒にいた外国人の解放だと訴えることだ。この人々は、イスラエル領内にいて拉致されたのだ」と述べた。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/former-president-rivlin-visits-jerusalem-hostage-protest-says-demonstrations-are-not-political/

Hostages Square in Tel Aviv, August,17, 2025.
(photo credit: Hostages Families Forum)

17日(日)の夜の集会には、ガル・ガドットさんが立ち寄り、人質オムリ・ミラン(48)さんの妻、ミランさんと対話し、抱き締める様子がSNSに流されていた。

オムリさんは、10月7日、妻と幼い娘2人を残して、ハマスに拉致されたままである。4月下旬に、ハマスからその姿のビデオが送られてきていた。

この他、人質家族の代表的な存在として知られる、マタン・ザンガウカーさんの母親、エイナブさんとも会っていた。

www.jpost.com/israel-news/article-864456

マタンさんの家族は、この日、ハマスによる、マタンさんのプロパガンダビデオを公開していた。このクリップは、イスラエル軍がガザで発見し押収したもので、撮影日は不明だという。おそらく半年以上前か、もしかしたら戦争が始まったことの可能性もあるという。

家族たちに会いたいと述べ、(救出のため?)立ち上がってほしいと訴えている。

, on August 17, 2025, in Hostages Square in Tel Aviv (Paulina Patimer / Hostages and Missing Families Forum)

マタンさんのガールフレンド、イラーナさんは、テルアビブのイベントで、フッパの下、花嫁の衣装をつけて、マタンさんの写真の横に立ち、「今あなたがここにいたら、私たちは結婚していた。私はあきらめない」と述べた。

イラーナさんは、マタンさんと共に拉致されたがさきに解放されていた。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/mock-wedding-held-for-hostage-matan-zangauker-and-his-girlfriend-former-captive-ilana-gritzewsky/

デモ中にイエメンから弾道ミサイルのサイレン

in Tel Aviv, August. 17, 2025. (AP Photo/Maya Levin)

この日、デモが各地で展開している中、午後4時半、イエメンから弾道ミサイルの発射があり、テルアビブを含む広範囲でサイレンが鳴った。デモをしていた人々も伏せるなどしていたが、迎撃して被害はなかった。

www.timesofisrael.com/idf-intercepts-missile-from-yemen-hours-after-israeli-navy-hit-houthi-power-plant/

国を上げてのストは人質解放を遠ざけるとネタニヤフ首相

Prime Minister Benjamin Netanyahu speaks at the weekly cabinet meeting on August 17, 2025. (Screenshot/GPO)

ネタニヤフ首相は、8月17日(日)、全国的なデモが、ハマスとの停戦交渉に良い影響を与えることはないと述べた。

ネタニヤフ首相は、閣議の始まりにおいて、次のようにのべた。

「ハマス撃滅なしに、戦争を終わるべきという人々は、ハマスの立場を擁護するだけでなく、人質解放の可能性を遠ざけている。

また10月7日の虐殺を何度も自分の身に招こうとしている。また私たちの息子や娘が、終わりのない戦いを強いられるようにしている。」と述べた。

確かに、このような、政府のガザ攻撃方針に対し、全国レベルで反発を表明している様子を一番先に報じていたのは、アル・ジャジーラだった。

その後世界で、日本でも報じられ、イスラエル政府、特にネタニヤフ首相への非難が拡大している。

ハマスは、イスラエルがガザ市への攻撃準備をしていることを受けて、生存する人質をガザ市内に移動させると表明した。人質がもし死んだ場合、責任は、イスラエル政府にあると非難するためであるとみられる。

その後、ネタニヤフ首相は、首相府において、「人質解放を進め、ガザがイスラエルにとって脅威でなくなるためには、ハマス打倒という使命を達成しなければならない」と述べ、ガザ市制圧に始まるガザ制圧の方針に変わりはないと表明した。

www.timesofisrael.com/netanyahu-says-nationwide-strike-is-distancing-the-release-of-our-hostages/

石のひとりごと

世界と政府に人質のことを訴える、これだけの国民を上げてのデモ。これは、イスラエルにしかありえない、特記すべきことだと思う。

ネタニヤフ首相に反発するイスラエル人たちの様子からは、出エジプトの後、モーセに反発したイスラエルの民の様子を連想させられた(民数記16章)。

ネタニヤフ首相が正しいのに人々が反発していると言っているわけではない。市民たちが、国を思う中で、リーダーにも物を言うというのが、イスラエル人なのである。今の様子は、昔からのイスラエルの典型的な様子を見ているような感じである。

覚えなくてはならないことは、人々の訴えが、自分勝手な個人的な要求ではなく、それぞれが国や同胞を思う中での訴えだということである。

イスラエル人たちは、2年たっても人質のことは、直接関係者でなくても覚え、痛みを感じている。たとえ国に危険が迫ることになっても、自分の身に危険がくるかも知れなくても、たとえ一人でも絶対に見捨ててはならないという感覚。

イスラエル人たちのこの反応は、日本ではまずあり得ないことだろう。いや、世界のどの国にもないと思う。これは、創造主なる神の民の一つの証ではないかと感動させられる。

人質家族たちは、デモとストに参加した人々すべてに対し、深い感謝を表明していた。ガザのどこかにいる人質本人もきっと励まされていることだろう。主が、この人々の思いを受け取り、人質をなんとしても無事返してくださるようにと祈る。

今、現代において、イスラエルの王として立てられているネタニヤフ首相。非常に苦しい立場に立っている。もう、さじを投げてもおかしくないだろう。

しかし、ネタニヤフ首相は、今、たとえ自分自身は国民の多くに憎まれても、自分が、イスラエルのために正しいと確信することを進めようとしている。

今後どうなっていくのかは、すべて主の手にある。なんとしても生きている人質が、無事、救出されるように祈る。また本当にガザのハマスを撃退する道が、早急に開かれて、泥沼化しないように。戦場にいる兵士たちが守られるよう、主に懇願する。

 

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。