人質3人それぞれの帰国:喜び・悲しみ・不安 2025.2.16

解放された3人の人質とその家族たち

人質は、ガザでのパレードに引き出された後、赤十字の車に乗せられ、国境でイスラエル軍に引き渡された。そこで家族と面会し、そこから病院までヘリコプターで移動。その後、それぞれの家族・親族と再会することとなった。

テルアビブでは、今回も人質広場で大勢の人が解放を見守っていた。

しかし、3人それぞれの状況は違っており、喜び、慟哭、不安と、極端ともいえる感情を経験することになった。

1)サギ・デケル・チェンさん(36):初めて聞く3番目の子供の名前

サギ・デケル・チェンさんは、妻のアビタルさんと両親と再会を果たした。この時、デケルさんは、自身が拉致された2か月後に生まれた女の子の名前を聞いた。名前は、シャハル・マザル(夜明けの幸運)である。

デケルさんには、2人の娘、バリさん、ガリさんが父親の帰りを喜んでいる。

2)イヤル・ホーンさん(38):兄はまだガザに

イヤル・ホーンさんは、母親のルースさんと、兄弟のアモスさんに迎えられた。その後、病院に入院中の父親のところに行って再会を果たした。

しかし、この家族には、まだイヤルさんの兄のエイタンさんが、まだ人質になったままである。以下は、その後親族と再会する様子。

3)サーシャ・コーヘンさん(29):父の死を聞いて号泣

サーシャ・トルハノフさん(29)は、母親のエレナさんと、ガールフレンドのサピル・コーヘンさんに迎えられた。

解放されたときに、初めて父親が殺されていたと聞き、号泣したという。

サーシャさんはロシア系ユダヤ人で、解放の背景にはロシアの働きもあったと言われている。解放されて数時間後には、ヴィクトロフ駐イスラエル・ロシア大使が、サーシャさんと面会した。

www.timesofisrael.com/a-new-daughter-a-murdered-father-a-brother-captive-joy-and-anguish-as-hostages-released/

過酷なガザでの498日間

3人は、2023年10月7日に、キブツ・ニール・オズから拉致されていた。サーシャさんは、イスラム聖戦に、サギさんとイヤルさんは、ハマスに捉えられていた。

しかし、3人とも、キブツ・ニール・オズからわずか数百メートルしか離れていない、カン・ユニスの地下トンネルやアパートを移動させられながら、この498日を過ごしていた。

サギさんとイヤルさんは、他の人質と一緒だったが、イスラム聖戦に囚われていたサーシャさんはずっと一人だった。

サーシャさんには、テレビもラジオもなく、家族がどうなっているのか、ほとんどわからないままに置かれたが、2023年の11月の交渉で、祖母、母親と恋人の2人は解放されたことは、たまたまラジオから聞いて知っていた。父親の死は知らなかった。

www.timesofisrael.com/hours-after-release-freed-hostages-talk-of-hamas-torture-psychological-torment/

人質の健康について

これまでに解放された人質は19人だが、非常に衰弱した様相の人もいれば、笑顔で、健康そうに見える人もいる。ガザで15か月もの間、異常事態の中に置かれていた人質の健康はどうみればいいのだろうか。

Ynetは、飢餓や栄養失調、孤立、拷問といった異常事態からの解放という極端な状況の中で、心拍数を加速させ、筋肉への血流を改善するような一時的な多幸状態にするホルモンが関係していると解説している。

しかし、これは一時的であり、疲労感や鬱状態に陥る可能性もあるという。長期の監禁によるトラウマからの回復には、段階的なリハビリが必要になる。

www.jpost.com/israel-news/article-842247#google_vignette

また、以下の記事でも、監禁によるトラウマは、長期にわたる心理的、身体的、機能的障害を産むことになると説明している。

これに加えて、帰還した時に妻と娘2人が殺されていたことがわかった人質もいる。多くは、コミュニティ全部が破壊されたことに直面しなければならない。また自分は解放されても、まだガザに残されている人がいる以上、先に解放されたことへの罪意識もある。

しかし、トラウマのエキスパート、イスラエル精神外傷センターメティヴの創設所長のダニー・ブロム博士は、人間には、多くの苦しみを負った後でも立ち上がること、回復力があることも示唆している。

たとえば、ホロコーストで生き残った人でも大多数は、精神病に陥っていないとのこと。記憶が消えるのではないが、その痛みを抱えながらでも前に進み、生きていくことは可能だということである。

ただそのためには、上がったり下がったりと、時間がかかることを理解しなければならないという。

アメリカ軍には、元人質や誘拐被害者を支援するPISAと呼ばれるプログラムがある。それは10日間のプログラムで、元受刑者(人質は受刑者ではないが監禁されていたということにおいて)には、身体的解放とは別に、精神的に解放される時間が必要だということを理解するようにということが含まれている。

あせらず、周囲も犠牲者たちに、回復の時間を提供することが必要になるということである。

このためか、イスラエルでは、元人質に対するメディア報道などはほとんどなく、人質の個人的なこともほとんどとりあげていない。時々出てくる情報は、元人質が家族に話したことを、家族が許可した時にのみ、公になっている。

www.timesofisrael.com/traumatized-and-tortured-freed-hostages-face-arduous-road-to-recovery/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。