人質解放と停戦交渉・最新情報:ハマス次第とサリバン米国家安全保障顧問 2024.12.19

人質の一人の誕生日を思い、解放を願う家族たち December 18, 2024. (photo credit: NEVET KAHANA)

ヒズボラが事実上崩壊に近づき、シリアではアサド政権が崩壊、イランも撤退という事態になり、ハマスとイスラエルの停戦、人質解放にも大きな期待がかかっている。

カタールでの交渉は最終段階??また??

交渉は、カイロから今は、またカタールの首都ドーハに戻って行われている。アメリカも積極的に動いており、サリバン国家安全保障顧問が、エジプト、カタール、イスラエルを訪問したのに続いて、今日はCIAのバーンズ長官がドーハ入りしている。

これを受けて、ネタニヤフ首相も19日、閣議を開催する予定で、話が進むようであれば、イスラエルの代表もドーハに向かうとみられている。

3か国を訪問したサリバン氏によると、今交渉にあがっている条件について、イスラエルはおおむね合意していることから、あとはハマス次第だと言っている。

ハマスにとっての最大の焦点は、イスラエル軍の撤退を含む、完全な停戦、つまり、戦争の終結の約束を得ることである。しかし、イスラエルは、正味な話、最終的にはガザにハマスが残留することを認めない方針である。

このため、停戦になっても、問題あればすぐにも戦闘を再開する権利を維持することからは絶対に譲らないので、これまで話が前にすすまなかった。しかし、今、ハマスがこの点で、柔軟な姿勢になっているという。

となると、今度はどのように人質を解放するのか、停戦の期間や程度の話し合いになる。では今の条件とはどういうものかというと、いろいろ飛び交う情報から察すると、ポイントは以下の通りである。

①第一段階として42日間の間に人質34人(IDF女性兵士、病人、高齢者など)を解放する。イスラエルはその見返りとして、イスラエルは、ハマスが要求する囚人を解放する。

②第一段階でイスラエル軍は、人口密度が高い地域から撤退するが、南部フィラデルフィ回廊、中央の  回廊には駐留を継続する。

www.timesofisrael.com/netanyahu-said-set-to-huddle-with-top-brass-thursday-to-discuss-gaza-deal-latest/

Marwan Barghouti (Photo: AP)

しかし、問題は、ハマスが、見返りに解放を要求しているパレスチナ囚人が、あまりにも極悪であるという点である。

その中には、ハマスではないが、ファタハ(パレスチナ自治政府の土台組織)のカリスマ指導者マルワン・バルグーティ(65)。

イスラエル人殺害と、多数のテロ事件関与で、2002年に逮捕され、5回の終身刑+懲役40年の判決を受けている。

イスラエルの大臣を暗殺したPFLPのアフマド・サダト(71)。2008年に逮捕され、懲役30年の判決を受けている。もう一人はアブダラ・バルグーティ(45)。ハマスの西岸地区を担当する高官で、多数のテロ事件を担当した人物。終身刑を67回も受けている。

また、同じくハマス高官で、終身刑を46回受けている、ハッサン・サラメ、終身刑36回のアッバス・アル・サイード(58)など、最悪の凶悪犯の名前が多数となっている。

釈放されたあとは、第三国のトルコか、イランに追放されるとみられている。

www.ynetnews.com/article/bykadherkx

イスラエル国内では、左派世俗派勢と、世論の過半数が、とにかく人質を取り戻すことを最優先にと願っているのに対し、ベングビル氏、スモトリッチ氏といった極右、宗教右派政治家は、ハマスとの交渉、妥協は、イスラエルにとって大きな危機を招く失敗だと訴えている。

今後、強硬右派たちが、交渉の邪魔をする可能性があるとして、ネタニヤフ首相は、閣議など方針に関する情報が外へ出ないようにと厳しく指示したとのこと。

しかし、実際のところ、カッツ防衛相が言っているように、イスラエル人へのテロを防ぐためには、西岸地区と同様、ガザでも、治安維持をイスラエルが管理すること以外にないというのが、ネタニヤフ政権の本音であると思われる。しかし、同時に人質も取り戻さなければならない。

ネタニヤフ首相とその側近たちは、知恵を振り絞って先を見越した策略ともいえる何かを考えていることだろう。

*ガザ14ヶ月戦闘後の今

現在、ガザにいる人質は96人。このうち、34人が死亡しているとみられている。まだ60人ほどが、残虐な環境の中で生きているということになる。

14ヶ月に及ぶ戦闘で、ガザ保健省は、ガザの死者数は4万5000人以上と主張。イスラエル軍は、これまでに1万8000人の戦闘員と、当初のイスラエル南部での戦闘で1000人が死亡したと報告している。*ハマス保健省の数字が誇張であるという認識が、国際社会でもぽつぽつと出始めている。

ガザ内部では、人道支援物資が強奪される事件が相次ぎ、今や搬入システムが崩壊状態にある。北部では、40日間、物資がまともに届いていないという。食料配布には長蛇の列になっている。

寒い時期を迎え、テント村で、感染症が拡大することも避けられず、もはや、停戦しないという選択肢はない様相である。

石のひとりごと

一般庶民である人質を取り戻すのに、なぜこれほどの極悪犯を釈放することが、公然と話し合われるのかと思わされる。なんとアメリカはこれを希望的な見方で語っているのである。これを不条理以外のことばで表せるだろうか。

右派閣僚たちが言うことも一理あることは間違いないが、ではハマスを全滅できるのかという到達点の不明瞭さに加え、国内世論からすると、人質を見捨てることもできない。トランプ次期大統領からの圧力もあると伝えられている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。