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3年半ぶりに予算案を成立させたことは、ベネット政権にとっては大きな勝利であった。国にとってもようやく安定した政府ができたことになる。6日夜、ベネット首相は、ラピード外相、予算案に取り組んだリーバーマン経済相と並んで、記者会見を行った。
ベネット首相は、ようやく政権が安定したと述べ、ともに働いたラピード外相、リーバーマン経済相への敬意を表するとともに、この政権は必ず任期(4年)をまっとうし、約束通り、2年後にはラピード外相と首相を交代することを誓うと述べた。
また、この安定を活用し、これまで棚上げになっていた問題に取り組んでいくと述べた。右派左派、アラブ政党も含むベネット政権の、特にパレスチナ問題への取り組みは、これまでの右派一点張であったネタニヤフ政権とは大きく違ってはいる。
しかし、左派だけが強いというわけでもなく、右派主張もまた同時に維持しているというのが、その特徴である。
www.gov.il/en/departments/news/event_press061121
エルサレムはイスラエルだけの首都:ベネット首相(右派)とラピード外相(左派)共同宣言
6日、ベネット首相とラピード外相は、政権が安定したとアピールする共同記者会見の中で、エルサレムにアメリカ領事館を再開させるというアメリカの意向を受け入れないと明確に表明した。
エルサレムは、イスラエルだけの首都であり、パレスチナの外交窓口があるべきではないというのが理由である。
かつてアメリカの大使館が、まだテルアビブにあったころ、エルサレムには、アメリカ領事館が置かれていた。
ここでは、イスラエル人だけでなく、パレスチナ人のアメリカ入国ビザの発行なども行っていた。このため、エルサレムの領事館は、実質、パレスチナの外交事務所的な役割を担っていたのであった。
しかし、トランプ前大統領が、2018年にアメリカの大使館をエルサレムに移動させると、エルサレムの領事館は閉鎖され、その機能は大使館が、統一して担うようになった。これにより、エルサレムがイスラエルの首都であるというイメージが強化されたのであった。
ところが、バイデン政権になると、再びエルサレムのアメリカ領事館を再開させると言い始めた。今、ベネット首相とラピード外相は、「アメリカは領事館を開設するのであれば、ラマラ(自治政府がある)に開設するべきだ」と述べた。
www.timesofisrael.com/bennett-lapid-in-united-front-no-place-for-us-consulate-in-jerusalem/
パレスチナ問題にはアメとムチで合意
ベネット政権には、左派政権とアラブ系政党も含まれている。首相を担うベネット首相は右派で、とラピード外相は中道左派である。しかし、パレスチナ問題では、一致して毅然とした態度をとり続けている。
ベネット首相は、アッバス議長がイスラエルを、犯罪国だと国際法廷に訴えている以上、今は和平交渉する時ではないと明言し、現時点で和平交渉に進む動きは全く見せていない。
そればかりか、西岸地区にユダヤ人住宅の建設にゴーサインを出し、親パレスチナ人権NGO団体など6団体をテロ組織の資金口だとして世界に訴えたりした。まるまる右派的な動きである。
しかし、同時に、左派や中道のガンツ国防相らを追じて、西岸地区、ガザ地区双方のパレスチナ人に労働ビザを多数発行し、イスラエル国内で働けるようにした。
また、西岸地区の対象地区に住むパレスチナ人には、住民票を出し、住宅建設を行うなどの実質支援も行っている。
石のひとりごと:イスラエルの新しい顔
イスラエルにようやく正式な政権が発足した。今のところではあるが、右派のベネット首相とリーバーマン経済相、中道左派のラピード外相、ガンツ防衛相、それぞれの意見がバランスよく発揮されているような形である。
この形を受け入れられない右派勢力が、ラピード外相の命を狙っているといったニュースも流れている。しかし、今のところ、暴力や分裂からもなんとか守られ、非常に興味深い政権運営になっている。
一人の指導者だけで立っていない今の政権。イスラエル史上、まったくなかった形であり、このバランスがいつまで続くのかは不明ではあるが、非常に興味深い、新しいイスラエルの顔である。