元二重スパイであったロシア人のセルゲイ・スクリパリ氏(66)が、3月4日、亡命先のイギリス、サリスベリーで、娘とともに神経剤とみられる武器に攻撃されたとみられ、意識不明の重体になっている事件。
ベンチで倒れている2人を発見した警察官ニック・メイリー氏も、重症となっている。この他市民46人が、病院で検査を受けた。BBCによると、2人と接触した可能性がある人は計131人だが、重症となっている3人以外は今の所全員無事。
事件後、サルスベリーでは、大規模な除染作業を強いられるなど、イギリスは大きな被害を受けた。
事件で使われた神経剤が、兵器レベルのものであったことと、ロシア軍が使う種類であったことから、イギリスは、ロシアが背後にいるとみて、ロシア政府に、期限つきで説明を求めた。
しかし、ロシアが期限までに返答してこなかったことから、メイ首相は12日、ロシア外交官23人を追放すると発表した。これを受けて17日、ロシアも、モスクワでイギリスの大使を呼び出し、イギリス人外交官23人を追放すると伝えた。
<フランス、ドイツ、アメリカはイギリスに味方>
こうした中、フランス、ドイツ、アメリカが、「これはロシアが背後にいると見るのが自然である。」とイギリスを擁護する立場を表明。NATO代表のストロテンバーグ氏は、「イギリスは孤立していない。ロシアはイギリスの同盟国を軽く見ている。」と語った。
この後、イギリスの要請で、国連安全保障理事会が開催されたが、アメリカのヘイリー代表は、「安保理では、化学兵器の使用を禁じている。にもかかわらず、それを他国で使用したロシアを無罪放免にするなら、この理事会の存在異議はなくなる。」と強くロシアを非難した。
対するロシアは、「目に見える証拠を出してもらいたい。証拠がない以上、ロシアが背後にいるとはいえないはずだ。」と言い返した。
今回のイギリスとロシアのやりとりにおいては、イギリスがロシアになめられたとみる分析を多くみかけた。
イギリスはEU離脱することになっており、ロシアにとってはもはや脅威ではない。プーチン大統領は、明日大統領選挙を控えており、この時期に事件をおこして、イギリスを軽くあしらうことで、強さを国民に強調したのではないかとの見方もある。
<イスラエルは傍観の構え>
イスラエル外務省は、この事件を重く見るとしながらも、ロシアを名指しせず、介入しない立場を表明した。これを受けて、西エルサレムに大使館を置いているロシアは、「イスラエルはよい道を選んだ」と称賛するコメントを出している。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5174987,00.html
<裏切り者は決して赦さない?ロシア>
ロシアが元スパイや、反体制派を毒で暗殺するのは、今回が初めてではない。過去20年ほどの間に、ロシアが、イギリス領内で実行したとみられるロシア人の毒殺事件は14ケースもある。(ワシントンポスト)
これらの事件では、ロシアの毒殺が疑われたが、その度に闇に葬られてきた。理由は、ロシアの報復を恐れたとか、警察が無能だからとも考えらるが、イギリスは、ロシアがイギリスの銀行に保管している資金を確保したいという弱みがあったからではないかと言われている。
イギリスは今、EUからの独立の途上にあり、資金はこれまで以上に必要な時期である。今回もロシアに財産を引き上げられてしまうのは困る。しかし、面子も保たなければならず、今後イギリスが、どういう動きに出てくるのか、ロシアと欧米の溝が深まっていくのか注目される。
また、ロシアが、すでに退役したスパイでも殺害するということを暗に示して、現役のスパイたちの裏切りに釘をさしたのではないか、などとも言われている。メディアが騒ぎすぎる部分も確かにあるが、プーチン大統領、なかなかの曲者のようである。