レバノン国境侵攻IDFがヒズボラ軍事設備を公開:ヒズボラとの衝突なし 2024.10.2

IDF on October 1, 2024. (Israel Defense Forces)

レバノン南部にあったヒズボラの「ガリラヤ制覇作戦」を阻止・公開

イスラエル軍は、1日から国境線全域から一気に国境を越えて、レバノン南部に入った。

そこで、膨大なヒズボラのトンネルや軍事活動の拠点を押さえて、世界に公開した。この作業の間、ヒズボラによる反撃はなく、イスラエル軍に死傷者は出なかった。

イスラエル軍によると、今回、初めて国境を越えたのではなく、数ヶ月前から極秘に何度も国境を越えており、今回入る以前に、国境からヒズボラを数キロ北へ押し返していたとのこと。

イスラエル軍によると、ハマスが10月7日にイスラエルへ侵攻した数日後、ヒズボラのラドワン部隊2400人と、ラドワン部隊に特別に訓練されたパレスチナのイスラム聖戦メンバー500人の計3000人近くが国境に配置されていた。

2015年に発表していたガリラヤ地方へなだれ込んで、ガリラヤ地方を支配する計画「ガリラヤ制覇作戦」と決行するつもりだったとみられる。以下はIDFによる、この作戦の概要。5段階でイスラエル北部を制覇する計画である。

イスラエル軍はこれを事前に察知して攻撃し、ラドワン部隊を国境から数キロ後退させ、この作戦を阻止していた。追い出しただけでなく、イスラエルの特殊部隊は反撃に転じ、200夜にわたって攻撃し続けたという。

この攻撃で、イスラエル軍は、レバノンの村や、森の中にある数十本の地下トンネル(まだイスラエルにまでは到達していなかった)、ヒズボラの武器庫やバンカー軍事地点1000か所に到達していた。

今回入った軍は、ヒズボラと戦闘になることもなく、国境周辺にあったヒズボラの地下トンネルなどの施設1000か所に入り、世界に公表してから破壊したということである。

レバノンとの国境にあったヒズボラの高度な地下軍事施設

今回公表されたヒズボラのインフラは、地下トンネル、バンカー、武器は、軍用ライフル、マシンガン、対戦車砲、各種爆弾、地雷、ポケベルなど様々である。ガラント防衛相は、これらがみな、イスラエル人に向かって使われるところだったと語っている。

IDFのハガリ報道官は、2日、国境のヒズボラについて記者会見を行った。(英語は、20:30ぐらいから)

以下はハガリ報道官説明の一部

ヒズボラは、10月8日以降、9500発以上のロケット弾をイスラエル市民に向けて発射し、6万人が避難を余儀なくされている。

ヒズボラは、イスラエルを殲滅することを公言し、ハマスの10月7日侵攻よりもっと大きなスケールでイスラエルへ侵攻すると言っていた。これを「ガリラヤ制覇作戦」と呼んでいた。

ヒズボラはこの20年、そのために、国境にその準備を積み上げていた。また国境付近の村からイスラエルに向けてトンネルも掘っていた。

戦争が始まって以来、イスラエル軍は、国境のこれらの施設の破壊を行なってきた。その目的は、北部住民6万人が、脅威なく家に帰れるようになるということだ。

IDF兵士は、ヒズボラの地下施設に入り、極秘の武器庫を摘発。イラン製の武器もあった。これまでに700か所の拠点を摘発、破壊した。しかし、これはまだほんの一部だった。

今回の侵攻で、3つの作戦を結構した。一つはキリアットシモナ(市民2000人が避難中)から数百メートルしか離れていない村、メイス・エル・ジャベルで数百か所のヒズボラ地点を破壊した。

この村の住民も避難して不在だが、ある一般住民の家の下は、イスラエルへ侵入する時の武器庫と武装組織の拠点になっていた。この下には150メートルのトンネルがあった。陸空軍が協力してこの建物を破壊した。

IDF

もう一つは、メトゥラのすぐ近くにあるレバノン側のクファルキアである。ここにもヒズボラ拠点があり、メトゥラは、最も激しく攻撃された街の一つである。

クファルキアにあった家は、子供部屋が地下トンネルへの入り口になっていた。地下には100メートルのトンネルがあり、その中の部屋には、ヒズボラがイスラエル侵攻の際に使うはずだった武器が大量にあった。イスラエル陸空軍は、協力してこの家と地下トンネルをすべて破壊した。

もう一つは、レバノン国境の村アイタ・アシュ・シャブである。イスラエルはこの地域でかなりの破壊を実施したが、この村の外の地下には、まさにヒズボラの本格的な基地があった。

ルートをたどったところ、その基地は、村の下に位置していた。大量の武器だけでなく、テロリストたちの生活の場にもなっていた。

最後にハガリ報道官は、ヒズボラの地図を見せた。大規模にイスラエルに侵入するガリラヤ制覇作戦にむけて、イスラエルの村やイスラエル軍がどこにいるなど詳細な地図である。

ヒズボラは本気で、北部での10月7日を数千人規模で計画していたが、幸い、イスラエルはこれを未然に防ぐことができた。

ハガリ報道官は、この戦争はヒズボラを国境から追放し、脅威にならないようにして、イスラエルの北部住民が、帰宅できるようにする戦いだと強調。

ベイルートやレバノンの都市にまで侵攻することはないと述べ、作戦は、ヒズボラが使っている村であり、できるだけ短く終える予定だと語った。

しかし、別の分析では、今回破壊したヒズボラの武器は全体のまだ1%にも及んでいないとされ、まだ膨大な数のロケッ弾やミサイルを保存している。

イスラエル北部の脅威をなくすまでに、どのぐらい時間がかかるのかはわからない。数週間、数ヶ月とかかる可能性もある。イスラエルは北部の部隊を増やすため、あらたに予備役を招集すると発表している。

石のひとりごと

ここでもヒズボラの攻撃を阻止したイスラエルの優れた情報収集とその管理能力に驚かされる。これだけでの大惨事を阻止できて、本当によかった。

しかし、ハガリ報道官の報告を聞きながら、ヒズボラがイスラエルを亡き者にするために費やした資金と物資、時間などを考え、両手を投げだすほどにあきれてしまった。なんとも愚かすぎる。

自分たちのすべてを犠牲にしてまで、どうやって、そこまでイスラエルを憎めるのか。これは異常事態でしかない。

イスラエル人は、普通に人生を生きていきたいだけでなく、できれば隣人とも楽しく立っていきたいと思っている人々である。この異常な憎しみに付き合わされているイスラエルのしんどさは尋常ではないといえる。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。