レバノン反政府デモで一時外務省占拠:ナスララ党首の絞首像も 2020.8.10

ベイルートのデモ 8月10日 アルジャジーラスクリーンキャプチャhttps://www.youtube.com/watch?v=KeGUI6fGJxY

レバノン国家非常事態宣言

ベイルートの港での大爆発から5日になる。爆発によってできたクレーターは43メートルに及ぶことがわかり、その甚大さを物語っている。破壊された建物は6200棟に及び、被害額は100億ドルとも150億ドルとも言われている。

行方不明者の捜索には、フランス、ドイツ、ロシア、カタール他の国々が捜索活動に協力した。しかし、生存率が極端に下がる3日後以降、捜索は停止されている。これまでの死者は158人。負傷者は6000人以上となった。

www.timesofisrael.com/lebanese-army-says-theres-little-or-no-hope-of-finding-survivors-at-blast-site/

この港が、レバノンに食料を調達する玄関口であったことから、WHP(国連世界食料計画)は、今後レバノンが厳しい食料難に突入すると警告している。レバノン政府は、国家緊急事態宣言を発令した。

国際社会は、合計3億ドルの支援を申し出ているが、フランスなどは、汚職にまみれた政府の改革を要請している。

アウン大統領が国際社会の調査を拒否

今回の大爆発は、ベイルートの港にあった2750トンもの硝酸アンモニウムが原因であったことがわかっている。原因は、2014年にロシア系ビジネスマンの船から押収された2750トンもの硝酸アンモニウムであることがわかっている。

レバノンのアウン大統領は、国際社会による大爆発の原因に関する調査を拒否し、調査は自国で行うと主張。爆発を誘発させたのは、ミサイルなど”敵”によるものである可能性を否定しないと示唆している。しかし、これは市民の怒りをそらす目的であるとみられている。

8日大規模反政府デモ:一時外務省占拠

予想を超える甚大な被害から、危険物資のずさんな管理、政府役人によるはなはだしい汚職に対する市民の怒りが爆発し、6日、議会周辺でデモが発生していた。続く8日(土)、予告されていた通り、爆破現場に近い国会周辺で、数千人が参加する大規模な反政府デモが発生した。

最初は平和的であったが、やがて、デモ隊は、投石や火炎瓶を投げるなどで、治安部隊と暴力的な衝突となった。退役軍人ら200人ほどのグループは、一時外務省を占拠。経財相、エネルギー省などにも押し入った。この衝突で、警察官1人が死亡。700人以上が負傷した。

ベイルート殉教者広場で政治家らの絞首刑を訴える装置
アルジャジーラ スクリーンショット

デモ隊は、殉教者広場に集まり、レバノンの政治家たちの実物の写真像に縄をかけて、絞首刑にするとのアピールを行った。その中には、ヒズボラのナスララ党首も含まれており、住民の怒りはナスララ党首にも向けられていることが明らかとなった。

こうした事態を受けて、閣僚の一人、マナル・アブデル・サマッド情報相が、辞任を表明。国民に政府の不備を詫びた。ディアブ首相は、早期の選挙実施しかないと述べている。

www.timesofisrael.com/cutout-of-hezbollahs-nasrallah-hung-in-noose-during-protest-over-beirut-blast/

硝酸アンモニウムとヒズボラの疑惑

この硝酸アンモニウムだが、ヒズボラが、将来、イスラエルとの戦争の際にイスラエルに対して使おうとしていた可能性が浮上している。

しかし、ヒズボラのナスララ党首は、港にあった硝化アンモニウムとヒズボラは、まったく無関係であること、またヒズボラは、港には武器を一切置いていないと発表した。国内のヒズボラへの激しい批判をさけるためとみられる。

www.timesofisrael.com/nasrallah-categorically-denies-hezbollah-stored-any-weapons-in-beirut-port/

しかし、イスラエルのチャンネル13が流した情報によると、ヒズボラは、過去に、硝酸アンモニウム関係で、問題を起こしていた。たとえば、2015年、イスラエルのスパイ組織モサドは、ヒズボラが、ロンドンに3トンの硝酸アンモニウムを所持していると、英政府に情報を流した。同様の経過はドイツでもあったとのこと。

こうした経過から、ヒズボラは、硝酸アンモナイトと無関係ではなく、もしかしたら、次のイスラエルとの戦争の際に使おうとして備蓄していた可能性もあるとチャンネル13は伝えた。

www.timesofisrael.com/israel-tv-hezbollah-apparently-wanted-beiruts-ammonium-nitrate-for-israel-war/

レバノンは、いまや国際社会の支援なしには、立ち上がることはできないが、そのためには、政府の改革を期待されている。レバノンが、国民の叫びと国際社会の呼びかけに応じて変化するか、もしくは、ヒズボラがイランやロシア、中国の支えで、逆にレバノンを制覇してしまうか、今後のレバノンが注目される。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。