目次
ヒズボラのポケベルが一斉に爆発
17日午後3時45分(現地)、レバノンの首都ベイルート南部と東ベカー高原、また隣国シリアのヒズボラ拠点周辺で、ヒズボラの司令官以上レベルのメンバーが持っていたポケベルが、爆発しはじめた。爆発は、1時間ほど、4時半ごろまで続いたという。
一つ一つの爆発の規模はそれほど大きくなかったため、火災や建物の破壊は報告されていない。
しかし、ベイルートにいたレバノンの国会議員(ヒズボラメンバーの息子)アリ・アマル氏とその娘1人(10歳)を含め、ヒズボラ高官ら12人が死亡。2700人以上が負傷した。このうち200人は重傷である。
A video circulating on social media purports to show the moment that a pager used by a Hezbollah operative exploded in Lebanon. According to Lebanese media, dozens were injured after Israel allegedly hacked the devices and detonated them. t.co/1RMiF8wqAA pic.twitter.com/b07wTuRQ0N
— Emanuel (Mannie) Fabian (@manniefabian) September 17, 2024
ポケベルなので、所持者は、体に密着したポケットに入れていたり、身近に置いていた。
爆発前にポケベルがなったケースもあり、ポケベルを手にとった瞬間や、耳に当てた状態で爆発したものもあった。負傷者は腰や、指、顔に重傷を負っている。
負傷者の中には、駐レバノンのイラン大使モジタバ・アマニ氏がおり、爆発で片側の目を失い、反対側も相当な重傷だという。急ぎテヘランへ移送すると報じられている。
当初、ヒズボラのナスララ党首が死傷したとの情報も出回ったが、ナスララ党首は負傷していないと言われている。レバノンの病院は、負傷者でごったがえし、恐怖とパニックに陥っている。
爆発は、シリアにいるヒズボラの間でも発生していた。イラン系メディアによると、シリア領内のヒズボラ拠点で7人が死亡したとのこと。
今回爆発したポケベルは、一般社会ではもうほとんど使われなくなっている、いわば時代遅れの機材である。しかし、スマホと違って、位置情報を発信することなく、簡単なメッセージは発信できる。このため、軍事諜報機関には、非常に有益な機材とされる。
したがって、今回死傷したのは、司令官レベル以上のヒズボラメンバーである。ヒズボラへの打撃はかなり大きいとみられる。
ヒズボラは、直ちにイスラエルによるものと非難するとともに、報復を宣言した。レバノンは、情報関連の大臣が、これはイスラエルの侵略行為だと非難する声明を出した。
www.timesofisrael.com/several-killed-thousands-hurt-as-wave-of-pager-explosions-strikes-hezbollah/
イスラエルは、ノーコメントでこれを認めるとも認めないとも言っていない。
どうやって?恐るべし技術力と作戦
レバノンの治安当局によると、ヒズボラは、台湾の会社からこのポケベル5000個を購入。約3ヶ月前からメンバーにこのポケベルを配布していた。ではどのように、それらが同時期に爆発したのか。
爆発は、ポケベルの中にあるリチウム電池が、オーバーヒートすることで発生していた。
それを誘発したのは、各デバイスに、非常に少量の1-2グラムのTNT爆弾が仕掛けられており、それが発火したとみられている。
バルイラン大学(ベギンセンター)の防衛・諜報関係エキスパートのエイヤル・ピンコ博士によると、ポケベルの場合、番号さえわかっていれば、サイバー攻撃までいかずとも、国外からでも容易に遠隔起爆させることが可能だとのこと。
しかしそうなると、まずポケベルの中に爆弾を仕掛けるために製造関連や、それをヒズボラが購入した際の販売ルートにも足掛かりが必要になる。作戦はかなり前から進められていたと考えられる。
まだ未確認だが、出荷前にイスラエルの諜報部モサドの手に渡り、イスラエルの工場で改造したとの情報もある。製造元の台湾の会社は、強力に関与を否定している。またアメリカも関与を否定した。
詳しい経緯はまだこれから明らかになると思われるが、いずれにしても、これが可能な情報収集能力や、技術力があるとすれば、イスラエルしか考えられないということになる。
タイミングについて:ヒズボラに発覚する前に急ぎ決行か
イスラエルは、ここ数日、ヒズボラへの本格的大規模攻撃を表明しながら準備する様相にあった。ギャラント防衛相は、アメリカのオースティン国防相に、電話で、外交的な解決は限界にきつつあると伝えた。
国会では、ヒズボラへの大規模攻撃の目標は、北部国境から避難を余儀なくされてもう1年になる6万人以上の住民を帰宅させるということで一致。
ネタニヤフ首相は、16日に、アメリカ政府からレバノン一帯での外交を担当するアモス・ホフタイン氏と会談した際、北部で大きな変化がない限り、国境から避難している6万人を自宅に帰すことはできない(ヒズボラとの大規模な戦闘は不可避)と伝えていた。
しかし、国内では、ネタニヤフ首相と一枚岩になりきれていないギャラント防衛相を解任し、野党のギドン・サル氏に交代させるといった大きな人事異動の動きが、取り沙汰されるる事態にもなっていた。
今回のレバノンでの攻撃が、イスラエルとヒズボラの大きな戦争へのはじまりにになるかどうかはまだわからないが、17日の時点ではまだ、大きな戦闘に突入するとは予想されていない時であった。
レバノンでのポケベルの攻撃事態はおそらく1年半ぐらい前から、綿密に準備がすすめられていたとみられている。
時間が経つごとに、情報が出てくるのだが、アメリカ政府筋情報によると、今、この時に、この作戦が決行されたのは、ヒズボラにこの作戦が発覚しそうだったので、その前にと決行が急がれたとのこと。もし発覚されたら、すべてが失敗に終わるからである。
これからどうなるのか:ヒズボラは打撃・イスラエルは実力証明か
もし今回のポケベル爆発がイスラエルによるものであったとすれば、イスラエルはヒズボラの内部事情を相当深くまで把握しているだけでなく、想定外の計画力、実施力があることという底知れない恐ろしさを提示しているといえる。
これに先立ち、イスラエルは、上級司令官アル・ファクルを暗殺し、その翌日には、テヘランでハマスのハニエを暗殺していた。正確な位置と時間を把握しているということも示唆していた。
これらは、10月7日にハマスの侵入を許してしまったイスラエル軍の失態を、塗り替えている結果になっているとの分析もある。
しかし、当然ながら、これでヒズボラを十分無力化したとは言い切れず、15万発ともいわれるミサイルはまだ温存状態にある。
避難を余儀なくされている、北部国境の住民6万人を帰宅させることはできない。いずれは決定的な攻撃も必要になる。それが今回なのか、いつになるかは、まだわからない。
今、ヒズボラは3000人に近い高官が死傷しており、すぐには反撃が難しいと考えられる。もし攻撃するなら、今が一番と言えるが、今後、イスラエルとヒズボラの間に大きな戦闘にはならないのではないかと、バルイラン大学のエキスパート、ビンコ博士は、個人的だとする予測を語っている。
その理由として、イスラエル政府が、この事件の後、国民に対し、これまでと同様の警戒態勢を継続すると指示したことを挙げている。今日も子供たちは普通に学校へ通学しているとのこと。
ルフトハンザ、エアフランスなど海外の航空便は、イスラエルへの乗り入れをキャンセルしはじめているが、イスラエルのエルアル航空は通常通りである。
大きな戦闘は、ヒズボラやイランも含め、世界諸国も中東での大規模な戦争を避けたいと考えている。アメリカは、イランに手出ししないようにと警告も出している。
これからどうなるのか。ヒズボラが、大規模に反撃してくるか、イスラエルに恐れをなして、攻撃を縮小するか。事件発生から48時間が鍵だとして、世界が注目している。
石のひとりごと
連絡手段であるポケベルが、もはや安全でないとすれば、今後、ヒズボラ(結局はイラン)はどう連絡を取り合うのだろうか。スマホにすれば、情報は今よりイスラエルにダダ漏れになるだろう。
負傷者は手や顔、腰とかなり負傷はかなり厳しい後を残すだろう。被害はレバノン市民には及んでいないとみられるが、市民としては携帯を持つのも恐怖になりうる。
底知れぬ恐怖という、ヒズボラやイランにはかなりの打撃になったことは間違いない。その分、反撃が末恐ろしい。とりなしを!