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ラピード外相がバーレーンを初の公式訪問:マナマにイスラエル大使館開設
今週初頭、ベネット首相が、国連総会出席の際、ニューヨークで、UAEのアル・マラール外相と、バーレーンのアル・ザヤニ外相と会談したのに続いて、9月30日、ラピード外相が、イスラエル外相として初めてバーレーンのマナマを訪問した。
ラピード外相は、イスラエルとバーレーンの国旗、オリーブの木が描かれた飛行機で到着。アル・ザヤニ外相に迎えられた。その後、王宮では、サルマン・ビン・ハマッド皇太子と面談後、ハミッド・ビン・イサ・アル・カリファ国王に会い、水資源、環境、スポーツや両国直行便などに関する合意に署名した。
その後、ザヤニ外相の立ち会いの中、在マナマのイスラエル大使館を設立した。
昨年、アブラハム合意で成立した両国の国交正常化に基づく動きである。
アル・カリファ国王は、ラピード外相に、パレスチナ問題について追求したが、ラピード外相は、今はその時ではないが、自身は2国家2民族案(パレスチナ人の国の設立)を支持していると答えた。
ラピード外相は、今世界は、命を尊ぶ文化と、死を尊ぶ文化がぶつかり合う時代と述べ、湾岸諸国とともに、平穏で寛容な未来の繁栄をめざす、穏健な道を歩んでいきたいと語った。その中で、パレスチナ市民の生活環境を改善することへの意欲も表明した。
www.timesofisrael.com/lapid-holds-historic-meetings-with-bahrains-king-crown-prince/
ところで、イスラエルとの国交正常化にUAEは国をあげて歓迎していたが、バーレーンはそうではなかった。当初は国内からこれに反対するデモも発生していたのである。それが今は、国王が歓迎する形になっている。
バーレーンのジャーナリスト、アフマド・アル・サヤードさんは、デモは発生していたが、国民の多くはすでに、イスラエルという国を否定し、反発する時代は終わったと感じていると語る。国民はイスラエルとの新しい関係をとても楽しみにしていると語っている。
*テルアビブのバーレーン大使館は先に設立
バーレーンの大使館は、すでにテルアビブに設立されており、カリッド・ヨセフ・アル・ジャラフマ大使が就任。ヘルツォグ大統領の承認も受けている。
マナマとテルアビブ直行便就航
合意に基づき、ラピード外相がバーレーンに到着した木曜朝、マナマを出発した旅客機がテルアビブのベングリオン空港に到着した。乗客の中には、ガルフエア社長と、バーレーンでレストランを経営しているユダヤ人シェフが里帰りのために、初の直行便に乗っていたとのこと。
直行便は週二回(月曜と木曜)で、価格は199ドル。
中東情勢におけるバーレーンとイスラエルの国交正常化の重要性
昨年、アブラハム合意が成立してから、イスラエルとUAE、そしてバーレーンが、互いに大使を置く関係となった。モロッコもラピード外相が訪問し、直行便が開通。先の2国に続くみこみである。中東での新しい動きである。
エルサレムのJCPA(Jerusalem Center for Public Affair)のサギブ・ストレンバーグ報道官は、バーレーンとイスラエルの国交正常化は、歴史的にも非常に重要だと指摘する。今、アメリカが、アフガニスタンから撤退し、イラクの米軍も大幅に縮小する方向に向かっている。
そうなると、今後は、バーレーンにいる米軍が大きな鍵になってくるという。もしアメリカが、バーレーンからも撤退すると、中東は、いよいよイランの思う壺になるとスレンバーグ氏は指摘する。
そのバーレーンに、アメリカの有効国で軍事的にも中東で最強と言われるイスラエルの存在があることは、イランへの一定のブレーキになりうる。イスラエルにとっても、イランのすぐ近くのバーレーンに、その存在を置くことは、防衛的視点においても有益であるといえる。
これを強調するためか、ラピード外相は、バーレーンでアメリカの戦艦を訪問している。
同じ流れで、イラク国内からもアブラハム合意に参加して、イスラエルとの国交正常化を求める声も出たが、イラク政府はこれを弾圧しはじめた。アブラハム合意参加を訴えるカンファレンスに出席した要人たちは今、これを否定するなど自衛と、いいわけに必死になっているようである。イラクが、アブラハム合意に参加するのは、現時点では考えにくい。
サウジアラビアは何を考えているか?アメリカ不在に向けた中東
中東で最も大きく、力があるのはメッカを擁するサウジアラビアである。ネタニヤフ前首相は、サウジアラビアをアブラハム合意に引き入れるべく、関係強化を目指していた。しかし、今の所、その後の進展は報じられていない。
その背景には、サウジアラビアとアメリカの関係の悪化が響いていると考えられる。トランプ前大統領は、サウジアラビアとの関係構築に力をいれたが、バイデン大統領は就任早々、サウジアラビアへの軍事支援を停止した。バイデン政権になって以来、サウジアラビアの話はめっきりきこえなくなった。イスラエルとの対話もほとんど聞かれなくなった。
バイデン政権になって以後、まもなく、サウジアラビアが、水面下で、イランとの交渉を始めたと伝えられていた。無論、サウジアラビア(スンニ派代表)とイラン(シーア派代表)が、手を組むことはまずないので、大きな衝突にならないよう、最低ラインの話をしているということであろう。また、サウジアラビアが、イランの背後にいるロシアや中国に接近しようとしているのではないかとの見方もある。
こうした中、サウジアラビアが、イランとも関係の深いカタールと、これまでは敵であったにもかかわらず、対話を行っていることが、明らかになった。
写真は、サウジアラビアのビン・サルマン皇太子(中央)私服姿で立ち、その左は、カタールのタミム・ビン・ハマド・サニ首長、右はUAEのビン・ザイード外相である。サルマン皇太子は、「友のような関係」としてこの写真を公表したとのこと。かなり意外な写真ではないだろうか。
لقاء ودي أخوي بالبحر الأحمر
يجمع سمو سيدي الأمير محمد بن سلمان وأمير دولة قطر الشيخ تميم بن حمد آل ثاني، ومستشار الأمن الوطني في دولة الإمارات الشيخ طحنون بن زايد آل نهيان. pic.twitter.com/2nAUJ8HPM5— بدر العساكر Bader Al Asaker (@Badermasaker) September 17, 2021
ベネット首相は、ニューヨークで、アブラハム合意を締結しているUAEとバーレーンに、イスラエルは、エジプトとヨルダンとも安定した関係があると伝えた。ベネット首相は訪米前に、両国を訪問してこの点を確認していたのである。
UAEとバーレーンには、アブラハム合意が中東で大きな安定した勢力になりつつあることを伝えて、合意への期待を高めようとしたと考えられる。今後、サウジアラビアとイスラエルとの関係がどうなっていくかも注目されるところである。
読売新聞は、アメリカなき今、中東が自衛のための融和を始めているとの分析を表明している。
www.yomiuri.co.jp/world/20211001-OYT1T50057/
石のひとりごと
中東の流れを見ながら思い出したのが、聖書のダニエル書で、バビロンのネブカデネザル王が見た夢である。王は、夢の中で、大きな像を見た。頭は純金、胸と両腕とは銀、腹とももは青銅、すねは鉄、足は一部が鉄、一部は粘土であった。これらは世界史を表すと解き明かされている。(ダニエル書2:31-45)その最後の部分、足については、以下のように書かれている。
・・・その足の指が一部は鉄、一部は粘土であったように、その国は一部は強く、一部はもろいでしょう。鉄とどろどろの粘土が混じり合っているのをあなたがご覧になったように、それらは人間の種によって、互いに混じり合うでしょう。しかし、鉄が粘土と混じり合わないように、それらが互いに団結することはありません。
この王たちの時代に、天は神の一つの国を起こされます。その国は永遠に滅ぼされることがなく、その国は永遠に滅ぼされることがなく、その国は他の民に渡されず、かえってこれらの国々をことごとく打ち砕いて、絶滅してしまいます。しかし、この国は永遠に立ち続けます。(ダニエル2:41-44)
いつか来る世の終わりには、一部が鉄、一部が粘土という、けっして交わることのない脆弱な世界になっているということである。まさに今の分裂の世界を表しているようだが、特に、イスラエルとスンニ派国、シーア派国が入り混じる中東の動きに、これを連想させられた。
世界はいつまでもあるわけではない。温暖化による異常気象とともに、世界の動きにも注目していきたい。聖書にも興味を持つ人がもっとおこされてもよいのにと思う。