ブリンケン米国務長官到着:イスラエルとパレスチナ自治政府訪問でバランスよく? 2021.5.26

ブリンケン国務長官とネタニヤフ首相 出典:Haim Zach (GPO)

ガザとの戦闘が停戦になった。ガザでは、多くのがれきの中、復興に向けて、国際社会の支援が始まっている。

しかし、東エルサレムでは、まだパレスチナ人とイスラエルの治安部隊との衝突が散発し、大きな紛争に発展する可能性もまだ終わっていない感が続いている。

こうした中、バイデン政権を代表して、ブリンケン米国務長官が、25日、イスラエルに到着した。バイデン政権発足後、初めてとなる、本格的なアメリカの中東和平への介入である。イスラエルの後、パレスチナ自治政府を訪問。続いて、エジプト、ヨルダンを訪問する。

今回訪問の目的

バイデン大統領は、先週のガザとの戦闘において、イスラエルに自衛権を認めると名言。しばらく時間をおいての介入であったため、イスラエルの理解では、ハマスの武力をかなりたたくことができた。イスラエルはバンデン大統領に感謝を表明している。

これと同時にバイデン大統領が名言したのが、2国家共存案である。イスラエルという国、パレスチナという国が共存する意外に、この地域に平和はないと断言する。しかし、ブリンケン国務長官は、今はまだ、このプロセスを開始する時ではないとの厳しい見方を語っていた。今回は、そのための足掛かり、土台を据えるというのが、ブリンケン米国務長官来訪の目的である。

知的バランスの外交?:バイデン政権の中東和平への取り組み

バイデン大統領は、「政治的な正しさ:ポリティカル・コレクト」の立場と言われているが、政治家50年の経験からか、アメリカ一国だけが突出しないよう国際社会との協調を重視しつつ、紛争仲介においては、双方への「バランス」を取りながらの外交をすすめているようにみえる。

とはいえ、イランに対しては、弱腰の妥協にはなっていないようであるし、中国、ロシアに対しては、かなり厳しい態度にも出ており、トランプ政権とは、かなり違う形でのアメリカ本来の指導力を見せているようにも見える。

こうした中でのバイデン政権の中東和平への介入ということである。現時点において見えてきているバイデン政権の中東和平骨子は、まず、パレスチナ人っが、イスラエルの存在を認めることを条件にしているという点である。

2国家共存を目指す上で、この点は、あたりまえながら必要不可欠である。ハマスはまずこの点で、バイデン政権からは、排斥される立場にある。

一方で、一応だが、イスラエルの存在を認めた上で、国際社会が認めたパレスチナ人の代表であるパレスチナ自治政府を正式な窓口にしていくというのが、バイデン政権の方針である。

いいかえれば、これからのガザ地区復興支援も、パレスチナ自治政府を窓口にする。この考え方は、先日紹介したイスラエルのエキスパート、アモス・ヤディン氏の考えに通じるものである。

この視点のもとでイスラエルを訪問したブリンケン国務長官の動きは次の通りである。

1)イスラエルへ:ハマスに資金が行かないようにガザの復興を支援すると約束

25日、イスラエルに到着したブリンケン国務長官は、空港で、アシュケナジ外相に迎えられ、ネタニヤフ首相、リブリン大統領と会談した。

ブリンケン国務長官は、ネタニヤフ首相との共同記者会見において、バイデン大統領は、“個人的にも”、イスラエルの治安維持を守ることを約束するとの意向を協調。今回の中東歴訪の目標として4つのポイントをあげた。

①アメリカはイスラエルの治安維持を重要視していることを伝える。②ヨルダン川西岸地区とエルサレムの緊張をほぐし、平穏に向けた土台を据える。③緊急にガザ地区の復興にむけた人道支援を支援する。④パレスチナ人とパレスチナ自治政府の関係を再構築する。

www.timesofisrael.com/blinken-in-jerusalem-us-will-aid-gaza-without-helping-hamas/

ブリンケン国務長官は、ガザ復興にアメリカも貢献するとし、支援が、ハマスに流れることがないようにすると約束。

「アメリカがめざすのは、ガザの人々を含むパレスチナ人に、自信、楽観、本物のチャンス到来という気持ちを持ってもらうことである。これにより、ハマスの支配力を弱体化することができると考えている。」と期待を語った。

ブリンケン国務長官は、この後、ラマラのアッバス議長との階段に向かったが、その前にアシュケナジ外相、ガンツ防衛相とも会談した。

www.timesofisrael.com/blinken-hamass-foothold-in-gaza-could-slip-if-us-led-rehabilitation-successful/

*ガザ地区の物的被害(ハマス報告)とアメリカの支援案認

破壊された建物:258棟(1042の住居含む)、ほぼ全壊で住居不能:769軒、半壊から軽度破壊:1万4536軒、破壊された病院17軒、学校53校。インフラの破壊も深刻である。国連によると、戦闘で避難した人は10万人で、今もまだホームレスになっている人は多数とみられる。

ブリンケン国務長官は、パレスチナ人の経済開発支援として、議会に7500万ドル(約80億円)を計上すると言っている。計画としては、550万ドル(約6億円)を緊急資金として直ちにガザび支援し、3200万ドル(約35億円)をUNRWA(パレスチナ難民救済事業機関)の人道支援に供出するとのこと。

ブリンケン国務長官は、また国際社会とともに、パレスチナ人への新型コロナワクチン150万回分の供給を実施すると述べた。

これまでにワクチン接種を受けたパレスチナ人は、西岸地区で11%、ガザ地区で2%にとどまっている。まず優先的に接種を受けたのが、アッバス議長や、自治政府政治家、ハマスメンバーなどであったことから、パレスチナ人の間には、指導者への不信が高まっている。

www.timesofisrael.com/in-ramallah-blinken-announces-plans-to-reopen-us-consulate-in-jerusalem/

2)ラマラでアッバス議長へ:東エルサレムに米領事館再開示唆(場所指定なし)

イスラエルへ到着した日の午後、ブリンケン国務長官はラマラを訪問。アッバス議長と会談した。

この会談に先立ち、エジプトの外相らが、アッバス議長と会談していた。その中で、アッバス議長は、ガザとの紛争が神殿の丘の問題が大きなきっかけになったとして、停戦に、ユダヤ人がアルアクサ(神殿の丘)に入ることを禁止するとの条項を加えるべきだと述べていた。

しかし、停戦については、双方、無条件でということでの合意なので、基本的に、これはありえない話である。

エジプト代表団は、アッバス議長に、「ヨルダンが、エルサレムの聖地(アルアクサモスク)でのイスラエルの暴力をやめさせると言っている。アメリカが目指すとする2国家案にアルアクサモスク(神殿の丘)をどうしていくのかをヨルダンとともに考えていかなければならない。」と伝えたという。

言い換えれば、ブリンケン国務長官に会うアッバス議長に対し、ヨルダンが共にいることを忘れるなと伝えたということであろう。

www.jpost.com/arab-israeli-conflict/abbas-ceasefire-must-include-end-to-jewish-temple-mount-incursions-669106

25日、ラマラに到着したブリンケン国務長官は、まず、2019年にトランプ大統領が、米大使館をエルサレムに移動した際に、統合するとして閉鎖した、エルサレムの米領事館を再開させる計画を伝えた。

アメリカは、かつて、東エルサレムにアメリカの領事館を置いおており、イスラエル人もパレスチナ人も、ここでアメリカ行きのビザを発行してもらっていたのであった。この領事館は、イスラエルが建国する前から存在していたもので、設立から175年にもなり、地域住民には馴染みの深い施設である。

しかし、トランプ大統領が、2018年、テルアビブにあった大使館を西エルサレムに移動させた際に、領事館も統合するとして、東エルサレムの領事館は閉鎖している。

しかし、大使館とは別に領事館を開設することについて、ブリンケン国務長官は、今後アメリカがパレスチナ人を支援していくにあたり重要なことだと述べた。しかし、領事館をどこに開設するかは明言していない。

東エルサレムを、パレスチナの首都にすることを主張するパレスチナ自治政府は、当然、領事館を前のように東エルサレムに再開させることを希望すると思われるが、東西エルサレムを統一したイスラエルの首都と主張するイスラエルはこれを受け入れない。無理をするとまた火種になる可能性がある。

また、ブリンケン国務長官は、ワシントンDCにおける、パレスチナ自治政府(PLOパレスチナ解放機構)の出張事務所を再開させる計画にも言及した。

しかし、この事務所は、パレスチナ自治政府が、国際刑事裁判所にイスラエルを訴えた時の窓口となっている。PLOが1987以来、テロ組織に指定されていることからも、2017年、アメリカ議会は、この事務所の閉鎖を命じたのであった。

ブリンケン国務長官は、先週のガザでの戦闘の間、これらの窓口がなかったために、アメリカが独自に仲介に入ることができなかったと述べているが、実際にこの案を実現するのは困難とみられる。

しかし、イランと今、外交上で対峙しているアメリカには、頑張ってもらわなければならないイスラエルに、アメリカが圧力をかけてくる可能性を示唆するエキスパートもいる。

石のひとりごと

中東和平問題について、アメリカは、基本的には、2国家共存案を目指しきた。歴代大統領は、皆、この考え方を基盤に、イスラエルとパレスチナの仲介に向けて努力してきたが、これまでのところ、誰一人、和平を前進させることができていない。

トランプ大統領は、これをゴリ押しで、また湾岸諸国を味方につけて、パレスチナ人を追い詰める形ですすめようとした。しかし、それはパレスチナ人とイスラエルはもとより、アメリカとも断絶する結果を招き、壁をさらに高くしただけであった感もある。

今バイデン大統領が、伝統的な2国家案に戻そうとしている。さすがはベテラン政治家らしい動きにはみえるが、果たしてきれいごとだけで、2国家案での中東和平を前進させることができるだろうか。バイデン流、中東和平。これからの動きに注目したい。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。