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緊迫する中東情勢の中でのヒズボラ情勢
中東では、アメリカ軍が、イラク・シリアへの攻撃を実施。イエメンでは米英軍が、フーシ派拠点への攻撃を実施し、昨日、2回目となるフーシ派攻撃に踏み切った。
アメリカは、これらの攻撃に直接の関連性は否定している。しかし、フーシ派は、団体スローガンが、「アメリカに死を。イスラエルに死を。ユダヤ教徒に呪いを。イスラムに勝利を」と言っている組織で、イスラエルを抹殺すると公言するイラン傀儡の団体である。
ガザでの戦争から、イランに支援を受ける様々なテロ組織が、関連してイスラエルを取り囲んでいる状況にある。
今最も注目は、イスラエルへの攻撃能力が最も高い、ヒズボラの動きである。ヒズボラも100%イラン傀儡であり、上記の米英との対立の中で、イランがヒズボラを使って、イスラエルをさらに引き込んで、米英との戦いに、正当性を強調しようとする可能性も懸念される。
ハマスとの戦争以来のヒズボラの動き
イスラエル軍のハガリ報道官が、特に、北部ヒズボラ情勢とイランとの関わりについて、イスラエルの対策と方針について、非常にわかりやすく解説しているので紹介する。
ハマスとの戦争が始まって以来、ヒズボラは、ハマスに協力するとして、レバノン国境からイスラエル北部(一般住民地域と軍関係施設)へ、ロケット弾、迫撃砲、対戦車ミサイルなどによる攻撃を続けている。このため、北部住民は、避難を強いられ、まだ帰れる状態にない。
このため、イスラエルは次の3つの目的をもって、ヒズボラへの攻撃を開始した。
ヒズボラに対する対策
1)防衛のため(Defense)
2006年のヒズボラとイスラエルによる第二次レバノン戦争の後、国連安保理は決議1701を採択した。それによると、ヒズボラは、レバノンのリタニ川より南に進出してはならないとされた。(青ライン)
ところが、ヒズボラはこれに従わず、イスラエルとの国境すぐそばにまで進出し、軍事拠点や見張り地点を多数立ち上げた。
それらから、イスラエルに向けてロケット弾を発射してくるだけでなく、ハマスのように、イスラエルへ侵入する可能性も出て来ている。
そこでイスラエルは、レバノンとの国境に沿って、陸海空軍、諜報機関を稼働しての強力な防衛ラインを設立していた。
そうした中、昨年10月7日に、ハマスとの戦争が始まると、ヒズボラは実際にイスラエルへの攻撃を開始してきたので、イスラエルは、レバノン南部のヒズボラの軍事力を破壊する作戦を開始した。市民をロケット弾などによる攻撃から守り、テロリストの侵入を防ぐためである。
これまでに、南レバノンにいた50のテログループを攻撃し、テロリストとその司令官ら200人(ヒズボラは177人と発表)を無力化した。私たちを殺そうとする者には、確実に対処するということだ。
2)先制攻撃のため(Offense)
①国境付近のヒズボラの戦力を削ぐ
ハマスとの戦争以来、イスラエルは、南レバノン全域にあったヒズボラの軍事拠点3400か所を破壊した。
攻撃したのは、国境に沿ったイスラエルへのロケット弾発射地、また約120か所の見張り地点である。また、国境ラインにずらりと並んでいる、ミサイルやドローン、様々な武器保管場所40か所を破壊した。
次にヒズボラの指令拠点40か所のほか、ヒズボラにとって重要とみられるインフラも破壊した。
特にイスラエルに発射されている攻撃用ドローンの操作基地を破壊した際、ヒズボラの南レバノン地区ドローン関連司令官アリ・フセイン・ブルジが死亡。
ハガリ報道官は、ちょうどヒズボラが、イスラエルに向けて、ドローンが発射される直前に上空から攻撃する様子や、ヒズボラが、民家に入ってそこからドローンを発射しようとする直前にイスラエルの攻撃が行われた様子などをビデオで紹介した。
また、ヒズボラが地対空ミサイルを隠しているが、それらも破壊したと報告した。
*レバノン市民に犠牲者なし
南レバノンに住む住民たちはほとんどが、シーア派で、ハマスと同様、その建物はヒズボラが利用しており、人間の盾状態にある。しかし、イスラエルは諜報活動からの情報を得て、焦点の当たった攻撃をしているので、市民に犠牲者は出ていない。*大部分の南レバノン住民も避難していることも考えられる。
②イランからヒズボラへの支援を防御する
ハガリ報道官は、ヒズボラへのイランからの武器支援と、それに対するイスラエルの対策についても解説した。イランからの水面下でのヒズボラへの武器支援は、イラク、シリアを通して届けられている。これは明らかに、国連決議1701に違反するものである。
この武器支援が及ぼす影響はイスラエルにとどまらず、中東全体、国際社会全体を危機に陥れるものである。ハマス戦闘員がレバノンにイランの武器を、シリア経由で移送していたことがある。イスラエルはこれを察知し、ヒズボラに届く前に対処した。
シリアには、ヒズボラ関連地点が多数あり、これらを破壊して来たが、ハマスとの戦争以降だけで、その数は50か所以上に上がっている。ヒズボラがそれらを再建しないようにも対策を取っている。
*この攻撃の一貫でダマスカスも攻撃しているが、最近の攻撃で、イラン革命防衛隊メンバーが死亡している。
ヒズボラが中東のどこにいようとも、イスラエルはこれを見逃さず、破壊する。
3)大規模戦争への備え
イスラエルは外交努力の方が良いと思うが、戦争になることも辞さない。イスラエル軍は陸海空、諜報機関とともに、戦争になった場合の体制を整え、訓練も行っている。指示が出れば、すぐにも作戦に移行できる体制にある。この体制は変わることがない。10月6日以前の治安維持状況に戻ることはない。
ハガリ報道官は、イスラエルは、イスラエルを攻撃する者と戦っているのであり、いかなる妥協もない。イスラエルが、その市民を守る責任があるように、ヒズボラは、レバノン市民すべての犠牲の責任を負うことになると語った。
戦争以外の選択肢:ヒズボラは南レバノンから撤退するか?
北部情勢が沸騰状況にあるが、アメリカからこの地域へ派遣されているホフスタイン特使は、ヒズボラが、国連安保理決議1701に従い、南レバノンから撤退する可能性を示唆しているという記事がある。
アメリカが示唆している案は、①イスラエルとの国境8-10キロ地点から、ヒズボラが撤退することに合意する。②その空いた所に国連軍とレバノン軍が追加配備される、③避難しているイスラエルとレバノンの避難民が帰宅する。となっている。
まだまだ確定にはほど遠いが、アメリカのブリンケン国務長官が、現在、中東入りしており、なんらかの動きがあるかもしれない。