(元ジャーナリスト・パレスチナ問題専門家ベン・メナヘム氏ブリーフィングより)
イスラエルとパレスチナ自治政府は、昨年夏に、ケリー国務長官が1年がかりですすめた和平交渉が頓挫して以来、なんのコミュニケーションもないままとなっている。
交渉が頓挫した当初はテロとともに、神殿の丘での衝突が続いて、宗教戦争につながっていくイメージがあったが、神殿の丘に監視カメラを設置することで、衝突はすっかりなくなった。
イスラエルは、最も挑発の要因となる神殿の丘を問題外に押し出すことで、今のパレスチナ人テロの問題と宗教を切り離すことに成功したといえる。
また、若者によるテロについては、国際社会では全く無視されている状態で、イスラエル人も、テロは悲惨ではあるが、自爆テロほどではないし、それぞれが銃を携行するなどの自衛策を講じて通常の生活を続けている。今やその状況にも慣れっこになりつつあるといえる。
パレスチナ自治政府としては、自らの若者が死んでいる割には、まったくなんの益にもなっていないというのが、悲しい現状である。
パレスチナ自治政府がテロを煽っているのは否定できないが、実際にはテロを阻止する動きもある。若者のテロは自治政府にとっても何の益にもならないからである。
少しづつ明らかになって来ている情報によると、イスラエルの治安部隊とパレスチナ自治政府警察は、テロを防止するための連携が行われている。パレスチナ自治政府によると、これまでに200のテロを未遂で防ぎ、100人を逮捕したという。*ただし、テロをおこしてパレスチナ自治政府に自首した者の中には、イスラエルの追求から逃れる手段として自首したものもいる。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4755387,00.html
www.haaretz.com/israel-news/.premium-1.698615
では、テロの扇動か?抑止か? パレスチナ自治政府は、いったいどうしたいのだろうか。
パレスチナ問題の専門家ヨニ・ベン・メナヘム氏によると、パレスチナ自治政府はどうにも混乱した状態で、結局今は再び、国際社会に対して、イスラエルを法的に訴える準備を再開しているという。しかし、それも、実質の結果を期待するというよりは、ではなく、内部の圧力を交わす目的もあるとみられる。
国際社会への訴えは、単に対症療法であり、パレスチナ自治政府が抱える問題は、もっと大きい。それは、有能な指導者の不在という問題である。
<最悪のシナリオ?:自治政府崩壊>
アッバス議長は一時、指導者をやめて、自治政府も解散すると脅迫じみた発言をしていた。自治政府がなくなれば、過激派が台頭し、状況はもっと悪くなると脅した形である。しかし、今は、そういう発言はなくなり、むしろ、自治政府を継続させることに力を注いでいるといった様子を見せている。
和平交渉の破綻、汚職などで、パレスチナ市民のアッバス議長への絶望感は深い。統計によると、今選挙をした場合、選択の余地がないという理由で、ハマスのリーダー、ハニエが最大得票を得るという結果になっている。
ハマスにも絶望しているが、今の自治政府(PLOファタハ)には、ハマスを圧倒するようなカリスマを持つ指導者がいないのである。
強いて言うなら、イスラエルの刑務所にいるマルワン・バルグーティである。バルグーティには、カリスマがあるため、南アフリカのネルソン・マンデラのように刑務所から出たあと、国の改革をしてくれるのではないか・・ともささやかれている。しかし、バルグーティはあまりにも危険人物であるため、イスラエルが彼を釈放することはまずない。
さらにアッバス議長は今年84才。いつなんどき倒れてもおかしくはない。アラブ社会の場合、リーダーは退いたが最後、殺される可能性がある。アッバス議長はその時にそなえて、PLOでファタハの長老サエブ・エレカット氏をなんとか時期議長にしようとしている。
エレカット氏なら、退いた後も操りやすく、アッバス議長を殺すこともないとみられるからである。
しかし、いかんせん、エレカット氏は、パレスチナ市民に全く人気がない。そこで、アッバス議長は、段階をおってまずは副議長の座に据えようとした。
しかし、今月16日、エレカット氏周辺で、これまで20年にわたり、イスラエルに協力していたとのスパイ容疑が明るみにで出て、それもうまくいかなくなっている。
イスラエルの隣人は非常にあやうい状況にあるといえる。
<中国がパレスチナ独立支援を表明> http://www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/206859#.VqQoAKUWnA-
中国の習主席は先週、カイロを訪問し、アラブ同盟に対して東エルサレムを主都とするパレスチナ国家を指示する立場を明らかにした。またパレスチナ自治政府に760万ドル(約9億円)の支援を約束した。
エジプト紙によると、さらに2016中に、シリア、ヨルダン、レバノン、リビア、イエメンに対して3000万ドル(約36億円)の人道支援を、またアラブ諸国が、法治国家となり警察官を訓練するための費用として3億ドル(360億円)支援すると約束した。