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トランプ大統領のガザ停戦案にネタニヤフ首相が合意表明
9月29日(月)、ネタニヤフ首相はワシントンDCに移動し、ホワイトハウスでトランプ大統領と会談した。この会談は、トランプ大統領が、ネタニヤフ首相を招いて、ガザの停戦案を提示し、合意を求めるための会談であった。
1)イスラエル軍の段階的撤退と72時間以内の人質解放
その案とは、昨日紹介した21項目からなる和平案である。(実際には1項目削除されて20項目になったとのことだが、どれが削除されたかは不明)会談後、両首脳は共同記者会見を実施した。
ネタニヤフ首相は、イスラエルがガザでの戦闘で目標としていたことが、全部含まれているとして、この案を受け入れると発表した。
その目標とは、次の5点。①人質全員解放、②ハマス非武装化、③ガザ非武装化、④今の所はイスラエルが治安維持を担当する、⑤ガザ地区の管理はハマス、パレスチナ自治政府以外の文民が行う。
これに対し、トランプ大統領が提示した20項目の中には、以下が含まれていた。
①イスラエル軍は段階的に撤退するが、完全撤退ではなく、当分ガザに残留することになる。(地図)
②最初の撤退後、72時間以内に、人質全員が解放される。ただし、これに対して、イスラエルは、終身刑レベルのパレスチナ囚人250人と、ガザで拘束した1700人、15人のガザからの遺体を釈放する。
③戦後のガザの治安維持のためにが、国際安定化軍(ISF)が設けられる。その総責任者はトランプ大統領で、トニー・ブレア元英首相など世界的に著名な人々が加わる国際組織になる。
④戦後のガザ統治にハマスは関わらない。文民系のパレスチナ人が担う。
トランプ大統領の20項目によると、将来的には、パレスチナ自治政府が関わることになっているが、その前に、改革が行われることが条件になっている。
今のパレスチナ自治政府は、イスラエルにテロ攻撃をした者やその家族に報酬が与えられている。汚職もあり、支持率は最低である。こうした問題点の改革が条件となっている。
しかし、ネタニヤフ首相は、パレスチナ自治政府が、戦後ガザの統治に加わることは、明確に拒否を表明している。トランプ大統領もそれは承知しているとネタニヤフ首相は強調している。
2)ハマスが合意しない場合は戦闘再開・アメリカはイスラエルを支援
もしハマスが、この案を受け入れない場合は、イスラエルは自力で戦闘を再開し、目標を達成すると強調した。トランプ大統領は、もしそうなった場合は、アメリカがイスラエルの側に立って戦うと語った。
トランプ大統領は、イスラエルはその地に留まるのであり、消えることはないと強調。ハマスはこの案を受け入れるべきだと語った。
これは非常に歴史的な時だと語り、これはガザだけで終わらず、中東の平和につながることだと語った。トランプ大統領は、2020年にイスラエルとアラブ諸国との間で始まった、アブラハム合意による繁栄の可能性を強調した。
中東のアラブ諸国イスラム諸国には、(イスラエルを認めず、中東の平和を脅かす)ハマスと対峙する機会が与えられるべきだと語った。
トランプ大統領によると、この和平案の策定には、アラブ諸国、イスラム諸国、ヨーロッパの多くの同盟国も協力したとのこと。それらの国々に感謝を表明した。
以下は両首脳の会見の全文
ニューヨークタイムスは、これは要するに、アメリカとイスラエルが、ハマスに、これを受け入れるよう詰め寄っているのであり、もし受け入れないなら、ハマスはいよいよ破滅だと言っているということだと分析している。
アラブ諸国、ヨーロッパ諸国から称賛:パレスチナ自治政府も歓迎を表明
トランプ大統領の20項目からなるガザ停戦案は、29日(月)朝、ネタニヤフ首相との会談の直前に正式に公表された。
これを受けて、イスラム教徒が8割を占めるアラブ・イスラムの8カ国外相が、「戦争を終わらせるためのトランプ大統領の誠実な努力を歓迎する」と、これを称賛する共同声明を出した。

その8カ国とは、サウジアラビア、ヨルダン、UAE、インドネシア、パキスタン、トルコ、カタール、エジプト。これらのアラブ諸国が、ガザの平穏を見守ることになるとみられる。
一方、ネタニヤフ首相が、この案を受け入れると表明すると、ヨーロッパからも称賛が相次いだ。フランス、イタリア、イギリスが、ハマスに武器を置いて、この提案を受け入れるようにとの声明を出した。
www.timesofisrael.com/europe-hails-trumps-plan-to-end-gaza-war-as-turning-point-for-the-region/
パレスチナ自治政府にとっては、ライバルであるハマスが消えることは歓迎することである。自治政府も、トランプ大統領の案を歓迎すると表明。アメリカや国際社会と協力すると表明した。
イスラエル国内の反応:人質家族と野党左派は歓迎・右派は?
トランプ大統領の停戦案が公表され、ネタニヤフ首相が合意したとの知らせを受けると、人質家族たちは、ユダヤの祝福の祈りをもって感謝を表明した。また野党議員たちも、称賛を表明した。
現地からの報告によると、希望の空気が漂ってはいるものの、この20項目の順番が明確でなく、ハマスの武装解除がいつなのかなどが明確でなく、専門家の間では、実現性について懐疑的な声が多い。
連立与党からは、ユダヤ教政党のシャス党は、合意を歓迎したが、その他の右派系議員は、この案が実現するのかどうか懐疑的である。極右政治家のベン・グヴィル氏や、スモトリッチ氏たちは、30日(火)緊急の会議を開催するとしており、対応を出してくるとみられる。
なお、極右勢力が進めようとしている西岸地区の併合について、トランプ大統領は、「それは絶対にありえない」と宣言している。この強硬右派たちが、トランプ大統領の案を妨害するような動きに出る可能性も否定できない。
ハマスの反応は?イスラム聖戦は逆に地域に火をつけることになると警告

ハマスもこの条件を受け取ったとして、責任持って検討すると言っている。ただ、どうみても、ハマスには不利なので、これを受け入れるかどうかは懐疑的である。
実際、この案が出る前に、ハマスは、人質2人を見失ったと表明しており、48人をきっちり出せない可能性もある。
もしハマスがこの案を受け入れない場合、ガザ地区にはこれまで以上の攻撃になるので、イスラム聖戦などは、トランプ大統領の案は地域に火をつけることになると言っている。ガザの人々からも、停戦とは逆の動きになることへの懸念の声が出ているとのこと。
石のひとりごと
膨大な記事を読みまくって、一体何が起こっているのか、理解しようと試みている。
先週から始まっている国連総会で、イスラエルとアメリカは、世界から攻められ孤立する様相にあった。それがなにやら、逆転したかのように、この件では、トランプ大統領と称賛し、これに合意したネタニヤフ首相にも、満足な様相になっている。
ガザの戦後復興にハマスとパレスチナ自治政府も加わらないことや、ガザにイスラエル軍が駐留を続けること。これを、サウジアラビアを含むアラブ、イスラム諸国が認め、協力するとまで言っている点も、驚きである。
また、ハマスがもし、合意しなかった場合、イスラエルは、準備している大規模なハマス殲滅作戦を、“国際社会の理解のもと”で、計画通り10月7日にも開始することも可能になる。
どちらに転んでも、イスラエルには有利に進むようには見える。トランプ大統領の停戦案は、指摘されているように、ハマスに降参を突きつける形ではないかと思う。
ただこの20項目については、本当に、計画通りに進むかどうかはわからない。中東では予想外のことばかりが起こるので、特にハマスがどう出てくるのかに注目しつつ、お伝えしていきたいと思う。
