ハマスが人質名簿出さず交渉は破綻寸前か:ハリス米副大統領がイスラエルを批判 2024.3.4

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イスラエルはカイロでの交渉に出向かず

中央がバルネア長官、右がバル長官 左は米CIAのバーンズ長官 (AFP)

先週、パリでイスラエル、アメリカ、エジプト、カタールで、一部の人質解放と6週間の停戦案が出され、続くカタールでの交渉でイスラエルも合意したと伝えられていた。

ボールはハマス側にあるとして、ハマスの解答を待つ中、次の交渉場であるカイロに、アメリカ、エジプト、カタール、そしてハマスの代表団が集まった。

ところが、カタールが、ハマスは、イスラエルが求めていた生存している人質の名簿の提出と交換に何人のパレスチナ人テロリストを釈放してほしいのかという質問に関する解答を拒否していると伝えてきた。またハマスは相変わらず、イスラエルがガザから完全撤退することを要求しているとのことであった。

これを受けて、戦時内閣と専門家会議、全会一致で、イスラエルはカイロに代表団を派遣しないということになった。
3月10日に始まるラマダンに突入する前に、なんとか停戦をと考えている国際社会に落胆となっている。

しかし、Times of Israelによると、イスラエル国内では、そもそもシンワルの方でも交渉にそのまま応じないという強気姿勢からして、このままラマダンに突入して、西岸地区や東エルサレムでも戦闘拡大になることを狙っているのではないかとの懸念も出ている。

www.timesofisrael.com/israel-wont-send-team-to-cairo-after-hamas-refuses-to-offer-list-of-living-hostages/

アメリカのハリス副大統領が公式にイスラエルを非難

White House, February 16, 2024, in Washington. (AP Photo/Evan Vucci)

アメリカは、戦火拡大を抑えようと、ラマダンまでに停戦を成立させることを必死に推し進めている。

また、同時に、停戦後は、西岸地区とガザ地区を合わせて、ハマス抜きで、パレスチナ自治政府が主導してのパレスチナ人による主権国を作るとことが永続的な平和につながると主張している。

これに対し、イスラエル(ネタニヤフ首相)は、もう少しでハマスを解体できるというのに、今停戦することはできない。ハマスを生き延びさせてはならないとして、あくまでもガザでの戦闘を続行する方針を続けている。

またアメリカが言うパレスチナ国家について、イスラエルは、今のパレスチナ自治政府にそこまでの求心力がもはやなく、西岸地区では、イスラエル軍との衝突がエスカレートしていること、

また西岸地区のパレスチナ人の70%以上(ガザ地区の倍)が、ハマスの10月7日の奇襲を支持すると表明していることを挙げて、この案が永続的な平穏につながるというアメリカの考えは、非現実的だと主張している。これについては、右派左派政党ともに同じ考えである。

しかし、ガザの人道状況は悲惨を続けており、ハマスによると、ガザ北部では、子供16人が栄養失調で死亡したとのこと。イスラエルの空爆で、一家14人が全員死亡するなどして、ガザでの死者数は3万人を超えた。(ただし1万4000人はハマスであり、ハマスのロケット弾の誤爆による死者も含まれている。)

(photo credit: REUTERS/Megan Varner)

アメリカのハリス副大統領は、3日日曜、アラバマ州でのイベントでの講演で、「ガザの悲惨すぎる人道状況を考えれば、ハマスは人質を解放するべきであり、イスラエルは即時停戦に応じるべきである。イスラエルは、物資搬入に十分な努力をしていない。」とイスラエルを批判した。アメリカがここまで明確に公式にイスラエルを批判するのは初めてである。

www.timesofisrael.com/calling-for-ceasefire-us-vp-harris-says-israel-not-doing-enough-to-get-aid-to-gazans/

アメリカは、昨日、緊急人道支援だとして、ガザ北部へ、3万8000食を空から落下させている。イスラエルによる地上での戦闘で、物資搬入が妨害されていることへの強力な批判だと言われていた。

www.bbc.com/news/world-middle-east-68457937

アメリカはイスラエルの同盟国として、できる限りのことをしていると思うが、同時にキリスト教民主主義国家として、ガザ民間人の苦悩を放置することもまたイデオロギー的に難しいと言うジレンマに立っているようである。

ある中東専門家が、イスラムが主流の中東では、強力な指導者が先制主義的に人々を抑えて国を収めることが普通なのであり、そこに、キリスト教的な民主主義的な正義を持ち込んでも意味がないと言っていた。

その中東で、イスラム諸国に囲まれながら、イスラエルが、聖書的なイデオロギーで生き延びているということが、どれほどにありえないかということを考えるべきだろう。イスラエルはその中東の本質を、少なくともアメリカよりは経験、理解しているものと思う。

ガンツ氏が単独渡米:ハリス副大統領とブリンケン国務長官と会談予定

(photo credit: MARC ISRAEL SELLEM/THE JERUSALEM POST)

こうした中、ベニー・ガンツ氏が、緊急に渡米。本日ハリス副大統領と、ブリンケン国務長官と会談することになっている。イスラエル国内メディアによると、ガンツ氏の都米は、ネタニヤフ首相に承認がないままの、独断による行動だという。

ガンツ氏は、中道左派政治家で、国民には幅広い支持がある政治家で、強硬右派のネタニヤフ政権とは微妙に対立する立場にある。ネタニヤフ首相は、ガンツ氏の渡米を公に非難した。このため、イスラエル国内の分断が、世界に明らかになってしまった形である。

イスラエル国内では、人質家族らが、人質解放を優先させるよう訴える4日間のマーチを行い、2日土曜、エルサレムに着いた。参加していた人々は1万5000〜2万人にのぼっていた。訴えの中には、ネタニヤフ首相退陣と総選挙を求める声もあった。

ガンツ氏と、ハリス副大統領たちとの間でどんな話になるのか注目される。

www.haaretz.com/israel-news/2024-03-03/ty-article/.premium/not-ideological-personal-gantzs-u-s-visit-underscores-utter-distrust-in-netanyahu/0000018e-0606-d5ee-a78e-36c6523b0000

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。