政府・国会がシンベトのバル長官解任決定:イスラエル内乱の危機か2025.3.21

Prime Minister Benjamin Netanyahu (left) and Shin Bet chief Ronen Bar, on April 4, 2023. (Kobi Gideon/GPO/File)

政府と国会がシンベトのロネン・バル長官解任決定

ネタニヤフ首相とその内閣は、16日(日)、国内安全保障諜報機関シンベトのロネン・バル長官を解任する方針を発表した。理由は、ネタニヤフ首相とバル長官との間に信頼関係が欠落していることを挙げている。

この発表を受けて、全国では反発とデモが発生。司法長官からは、シンベト長官職を含む7つの高位公務員の解任にあたっては、上級人事諮問委員会の承認が必要だと反論した。

しかし、ネタニヤフ首相は、昨日夜9時半、強行的に、国会でのバル長官の解任の審議を行い、与党過半数の中でこれを決定した。退任日は4月20日としている。政府が治安機関のトップを解任するのは、イスラエル史上初になる。

www.timesofisrael.com/cabinet-fires-shin-bet-chief-pm-claims-lack-of-trust-in-bar-who-calls-move-invalid/

この間、国会前では、夜で、雨が降る中、数千人の市民によるデモが続き、治安部隊との衝突も発生した。デモは2日続けてになっている。

www.timesofisrael.com/war-of-survival-thousands-rally-in-rain-as-cabinet-meets-to-oust-shin-bet-head/

今回のこの国内の衝突は、内乱に発展するのではないかとの懸念が出始めている。それは、ネタニヤフ首相とその政権が、急速に独裁的な右派政権に向かう様相にあるからである。

戦争中に内乱の危機・懸念表明:ヘルツォグ大統領とバラク前最高裁番長

ヘルツォグ大統領は、政府が、独自に決断を進め、人質がまだガザにいるのに、戦争を再開したこと、シンベトのバル長官の解任を決めたことに懸念を表明する声明を発表した。

10月7日がなぜ発生したのかは、しっかりとその経過と責任は確認しなければならないと言っている。

www.timesofisrael.com/deeply-troubled-herzog-pans-government-for-divisive-policies-amid-war/

また、イスラエルでは敬意を払われている前最高裁番長のアロン・バラク氏は、インタビューの中で、バル長官の解任を含む政府の動きは、国を内乱に導くかもしれないとの懸念を表明した。

ネタニヤフ首相への反発の背景にあるもの:ネタニヤフ首相は陰謀だと反論

1)バル長官解任の背後に見えるネタニヤフ首相のカタールとの問題

ネタニヤフ首相への不審は、積み上がったものがある。ネタニヤフ首相は、ガザのハマスとの衝突が始まる前から、汚職問題で左派勢からの反発と、司法との対立に直面していた。

その後、10月7日のハマスの侵攻が発生。イスラエル軍、諜報機関、そしてネタニヤフ首相も、ハマスのこの計画への報告があったにもかかわらず、対処していなかったという失策疑惑で、今も捜査が続けられている。

これまでに、ハレヴィ参謀総長はじめ、複数の軍関係者が引責して辞任。しかし、ネタニヤフ首相は、責任は認めながらも、今は辞任する時ではないと言っている。

シンベトのバル長官も責任を認めており、最終的には引責して辞任すると表明している。しかし、今、シンベトは、ネタニヤフ首相に関する深刻な問題を審議中で、もし今辞任したら、ネタニヤフ首相が、都合の良い人物を後継者に据える可能性があるため、この件に関する正式な諮問委員会が設立されるまでは、辞任しないとの意向を表明している。

その疑惑とは、ネタニヤフ首相元報道官で、補佐官でもあったエリ・フェルドスタインが、カタールから金を受け取っていたという問題である。「カタールゲート」と呼ばれ、イスラエル国内で問題となっている。

先週19日(水)。イスラエルの放送局カンが、この件に関与したアメリカ人ビジネスマンの証言の録音を公開した。その後急速にこの問題が表に出るようになり、警察はこの件に関する2人を逮捕し、捜査をすすめている。

ネタニヤフ首相がこの件にどのぐらい関わっていたのかは不明だが、金を受け取っていたのが首相補佐官なので、疑いは、ネタニヤフ首相にも向いている。ネタニヤフ首相がシンベトのバル長官の解雇を表明したのが、この3日後であったことから、国民の間では、ネタニヤフ首相が隠蔽を図っているのではないかとの疑惑が広がっているのである。

ナフタリ・ベネット前首相は、カタール(基本的に敵国)とのつながりが疑われている今、ネタニヤフ首相が首相でいる権利はない。今すぐ辞任するべきではないかと語っている。

2)急速に右派に傾く政府への懸念:独裁だとの声も

民主主義国家の基本は、三権分立である。政府、司法、国会は、それぞれの権利を維持しなければならない。しかし、この原則に基づき、イスラエルでは、政府の決めたことを司法の最高裁が簡単に却下することが可能であるため、ネタニヤフ首相は、かなり苦労させられている。イスラエルの司法は特に左派であり、右派系のネタニヤフ首相とは意見を違にすることが多いのである。

このため、さまざまな法案、人事を出して、国会が承認しても、その後で最高裁が却下してしまう。いわば、司法が政府の上に立っている状態だとネタニヤフ首相は言っていた。

ネタニヤフ首相は、最高裁が却下した法案が、復活するシステム、司法制度改革法案を打ち出して、司法にあたる最高裁と対立。国内では、意見が大きく分かれるようになった。

このように、国内がもめていた時に、ハマスがイスラエルへの襲撃を行ったということである。この司法との対立問題は、しばし棚上げとなった。

それ以降、ネタニヤフ政権は、戦争に集中。国内はどんどん右派に傾くことになっていった。こうした流れから、ネタニヤフ首相は、自分の主義主張を守るために、戦争を始める(防がない)のではないかという疑いも出てくるようになった。

今、ネタニヤフ政権は、トランプ大統領の後押しを受けて、ガザについては、これまでの交渉から、戦闘へと大きく舵を切った。今ごろ人質がどんな拷問にあっているかもわからない。さらに、こうした中で、極右と悪名高いベングヴィル氏の政権復帰と、国内治安の役職にまで復帰させている、

今政府が、国民の意思に反して、独裁、右派に傾いているとの懸念が、イスラエル国内で広がっているということである。

こうした動きに反応して、ネタニヤフ首相は昨日、トランプ大統領が対立する左派暗闇勢力、ディープステートが関わる陰謀だと反発する声明を発表した。左派勢の陰謀が、本気で国を守ろうとする右派勢を陥れようとしていると言っているのである。

石のひとりごと

いやはや、戦争に直面する中、とんでもない動きになってきた。こういう様子をイスラエルの敵が見たらどう思うだろうか。敵に嘲笑いをもたらす結果になることは避けられないだろう。新たな失敗に陥らないか心配だ。

ま実際のところ、一体何が起こっているのかというと、左派と右派の対立という構図になっているが、これはまた世俗派とユダヤ教派との対立にもなっている。

デモをしている人々は、世俗派の左派勢である。ユダヤ教派の右派勢か、中道右派の人々はこうしたデモには、ほとんど参加していない。となるとこれは、霊的な問題にも関わっているのかもしれない。とはいえ、だからといって、ネタニヤフ首相に、闇があることもまた否定しきれない。

何をどう祈ったらいいかわからない時は、「主よ。なんでもいいから何かしてください。(Lord, Do something!)」と祈れと聞いたことがある。主のなさることはともかくも、最終的にはよいことだからである。イスラエルをあわれみ、あなたの名のゆえに、イスラエルにとってよきに計らってください。。だとろうか。ダニエルは危機の中で次のように祈った。

主よ。聞いてください。主よ。お赦しください。主よ。心に留めて行ってください。私の神よ。あなたご自身のために遅らせないでください。

あなたの町と民とには、あなたの名がつけられているからです。(ダニエル9:18-19)

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。