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戦時中にネタニヤフ首相が刑事裁判で証言台に
国は戦争の只中だが、12月10日(火)、ネタニヤフ首相が、2019年に告発されていた、汚職問題等の刑事被告人として、テルアビブ地方裁判所で証言台に立った。
今後、12月末ぐらいまで、週3回、1回4時間、証言台に立つことになる。現職首相が刑事事件の証言台に立つのは、イスラエル史上、初めてのことである。
戦時下であることから、ネタニヤフ首相と治安閣僚のほぼ全員が、裁判所と、ガリ・バハラブ・ミアラ検事総長に対し、裁判を延期するよう要請していたが、は裁判決行に踏み切った形である。今後、首相の任務遂行に課題となることが懸念されている。
ネタニヤフ首相は何を訴えられているのか
今回、訴えられているのは、2019年に告訴されたネタニヤフ首相への訴えで、ケース1000、ケース2000、ケース4000と呼ばれる3件。
ケース1000は、ネタニヤフ首相が通信大臣だった時に億万長者アルノン・ミルツィン氏の有利を図ることで、見返りに高級な葉巻やシャンパン、妻のサラが高級な宝石を受けとったという収賄容疑である。
ケース2000は、ネタニヤフ首相が、イスラエルのメディア、イディオト・アハロノトの所有者アルノン・モーゼスに、自分に有利な記事、政敵に不利な記事を依頼していたという背任容疑である。
ケース4000は、この中で、最も重要視されている件で、ネタニヤフ首相が、イスラエルの大手通信会社ベセックに関係するメディア、ワラ!にネタニヤフ首相に有利な情報を流させ、その見返りにベゼックに有利な規制変更を行ったとする、詐欺、背任、収賄容疑である。
ネタニヤフ首相は証言台で訴えは「全くの嘘」と一蹴
裁判が始まる前日から、また証言台においても、ネタニヤフ首相はこの訴えを全面的に否定。まったくの嘘だと一蹴した。また公の場で反論する日を8年間待ったと述べた。
また、裁判所には、リクードの議員らがかけつけ、検察側に野次をとばした。またテルアビブ地方裁判所外では、今この時期に裁判することに反対するネタニヤフ首相支持者と、ネタニヤフ首相に反発する人々、それぞれ100人ずつぐらいが、デモを行った。
ネタニヤフ首相と司法の争い:右派と左派対立の構図
戦争中にもかかわらず、ネタニヤフ首相を刑事裁判で証言させるなど、およそ考えられないことである。その背後には、イスラエル国内にある深い疑いと分断の構造がある。
今回、裁判にかけられるのは、上記3ケースだが、上記3ケースとともに、もう一つあった。ケース3000と呼ばれ、2003年に以降、ネタニヤフ首相が、ドイツの単一の造船会社から潜水艦4隻という、必要以上に購入していたことから、国を利用して、贈収賄を行っていたのではないかという疑惑である。
これについては、証拠不十分ということもあり、論議は終了となっていたが、疑惑は続いていた。実際、この問題は、今年2024年6月に、国の治安を脅かした可能性があるとして、別の方向から再度問題に上げられている。
こうしたどろどろの疑惑の中、ネタニヤフ首相は、2021年から首相を退陣し、リクードは野党となった。この間、ベネット首相とラピード首相が政権を担ったが、わずか1年後の2022年、ネタニヤフ首相は首相として返り咲いたのであった。
ネタニヤフ首相は、再就任するとすぐ、司法が首相を監視し、裁判にかけ、最終的には解任する権限まで持っている、既存の司法制度そのものを改革する、司法制度改革案を出した。
これが成立すると、政府を見張る者がなくなり、ネタニヤフ首相はその座を追われることはなくなる。しかし、独走を許す可能性も出てくることや、国の性質を変える重大事項であるため、イスラエル国内では、大きな論議となり、成立にはいたっていない。
その後、2024年10月7日、ハマスの奇襲が発生し、主に左派で、世俗派の若者たちが壮絶な被害を受けることになった。
これについては、ネタニヤフ首相のこれまでのガザに対する政策の防衛に問題があったことが明らかであった。このため、人質家族など、左派世俗派たちの反ネタニヤフ感情に火がつくことになった。
最近では、ハマスのシンワルに関する情報をネタニヤフ首相府報道官の一人、エリ・フェデルスタインがドイツのメディアに機密情報を漏洩したことが発覚。フェデルスタインは、刑務所で自殺未遂にまで追い込まれたが、これについては、ネタニヤフ首相は無関係とされている。しかし、実際は、ネタニヤフ首相の指示だったのではないかとの疑惑も出ていた。
石のひとりごと
長年、ネタニヤフ首相に関するニュースを追いかけているが、ネタニヤフ首相は、絶対にイスラエルを守り切るという執念を持っていると感じる。
何があっても、首相のポジションに留まり続けているのは、その確信があるからである。そのせいか、危機をぎりぎりに、予想外にすり抜ける様子もあり、主が背後におられるのではと思わされることもあった。
いずれにしても、中東でイスラエルを守っていこうとするネタニヤフ首相が、12年も首相にとどまり続ける中、海千山千で、悪知恵も使いこなす、超超ベテランの政治家、戦略家であることは間違いない。
今回の裁判も起訴されているのは、比較的軽いものばかりで、逆にネタニヤフ首相が、公の場で、容疑を覆す場として、あえて、こういう動きにさせたのではないかとも思ってしまうほどである。戦争がもっとも繊細な時期なので、国民も深入りしない方がいいと思う時期でもある。
しかし、そうしたしたたかさが、人間的基準で正義を守ろうとする司法、また社会性を強調する左派たちの反感を買うことにもなる。
ネタニヤフ首相は、何があっても負けない。そうした正論の勢力を超えるほどのしたたかさを持ち合わせている、けっしてあなどれない人物であると思う。