選挙前日まで90%クリントン氏の勝利と伝えられておきながら、次期大統領に選出されたドナルト・トランプ氏(70)。世界中がこの話題でわきたち、なにやら妙な地球一体感まで感じるほどである。
トランプ氏が当選すると、メキシコなどアメリカの周辺諸国はじめ、シリアの反政府勢力から、アサド大統領、イラン、ロシアと対峙するウクライナ、NATO、EU離脱へ進むイギリス、・・・皆それぞれ「これからどうなる?」と考え、動き始めている。
日本も当然、例外ではない。沖縄米軍基地問題にTPP白紙か。。。トランプ氏の影響で、日本円が、わずか数日の間に8円も下がった。安倍首相は17日、世界の首脳としては最初にトランプ氏に会うことになっている。相手が「アメリカ一番」なら、こちらも「日本一番」で頑張ってもらいたいところである。
こうした中、前のオバマ政権+クリントン氏と違って、トランプ氏は、①中絶反対②同性結婚反対などの他、イスラエルに好意的ともみられ、福音派クリスチャンからの反応はおおむね良好のようである。しかし、現時点でそう言い切れるのか・・・?
<トランプ氏は右派・親イスラエルか!?:イスラエルの反応>
いうまでもなく、イスラエルは、アメリカに依存状態であるため、次期大統領の動きは死活問題である。トランプ氏が次期米大統領に決まって喜んだのは右派だった。
まず、トランプ氏は、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移動すると公約している。つまり、首都をエルサレムと認めるということで、これはイスラエルの悲願。これまでにこの公約をした人物が大統領になったことはなかった。
ネタニヤフ首相とオバマ大統領との関係がこじれたことで、イスラエルとアメリカの関係は、この8年の間に冷え切ったと言われているが、トランプ氏の登場で、まずはアメリカとの関係の改善が、期待されている。
次に、トランプ氏は共和党で、もともと国内重視の民主党より、右派強硬になる傾向があると考えられる点。今回、上下院とも共和党が多数となり、オバマ政権の時のねじれ国会ではなくなった。トランプ氏が動き易い環境になっている。
さらに、トランプ氏が次期政権移行・人選準備委員会のリーダー、また次期副大統領に選んだのが、マイク・ペンス氏である。ペンス氏は、カトリックのボーンアゲインクリスチャンで、自分を①クリスチャン②保守派③共和党と位置付けている。親イスラエルの立場とみられる。
トランプ氏の自慢の娘イバンカ氏は、美貌のモデルであると同時に、敏腕ビジネスウーマン。ユダヤ教に改宗し、ユダヤ人の夫と結婚している。このイバンカ氏がトランプ氏に持つ影響力は大きい。政権人事にも介入しているといわれる。
こうしてみると、次期トランプ政権は、かなりイスラエルに追い風になるのではないかとの楽観視が、イスラエルの右派勢の間にひろがっている。
強硬右派のユダヤの家党・党首ベネット氏は、西岸地区の入植地拡大に関するアメリカの軟化すると見て、「千載一遇のチャンスの時」、「パレスチナ国家の時代は終わった。」などとと述べ、イスラエルでも政策を変化させるべきと主張。
さっそく、アモナなど現時点では違法な西岸地区のユダヤ人入植地の合法化も可能になる”正常化”法案を提出し、国会への準備委員会を通過した。
しかし、トランプ氏に両手を上げて期待するのは右派のみで、トランプ氏が、経験不足は言うまでもなく、パレスチナ問題の基本的なことすら知らないとみられる点を懸念する声も少なくない。
中東のエキスパート、モルデカイ・ケダール博士も、トランプ氏のあまりの未知数に、「今は何を言っても、あとで後悔する。」と述べている。つまり、予想不能ということである。
www.israelnationalnews.com/Articles/Article.aspx/19740
<イスラエルからの今後の注目点>
1)パレスチナ問題
トランプ氏は、イスラエル支持の立場を非常に明確に述べ、就任早々にもネタニヤフ首相を招いて会談をする意向を表明している。また、トランプ氏は、国連で、イスラエルを否定するような決議が出た場合には、必ず拒否権を発動するとも言っている。
また、アメリカの大使館をエルサレムに移動を公約に掲げているが、これは、エルサレムをイスラエルの首都として認めることになると同時に、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家を否定することにもつながる。
これらが実際に、実現するかどうかは未知数であるが、もし公言通りであれば、パレスチナ人の反発、暴力が悪化するのは避けられず、トランプ氏が、イスラエル支持だからといって、平和が期待されるわけでもない。今はバランスを崩すことの方が危険なのである。
しかし、イスラエルが今、懸念するのは、トランプ氏が大統領に就任するまでの2ヶ月である。この間に、国連か、フランスがあらたなパレスチナ問題に関する和平交渉を持ち出す可能性がある。その場合、オバマ大統領は、イスラエルを見放して、支持しない可能性もある。
www.jpost.com/Israel-News/Trump-Israeli-Palestinian-peace-would-be-ultimate-deal-472404
2)イラン問題
トランプ氏は、オバマ大統領がすすめたイランとの核兵器に関する合意を”惨事”と酷評し、これを反故にすると言っている。イランと交渉し直すのか、新しい条件を提示するのかなど、詳細はまだ明らかでない。
3)ロシアとの関係
トランプ氏は、ロシアのプーチン大統領との関係改善を主張する。しかし、中東においては、単純にロシアとの関係だけにとどまらず、それに付随して様々な矛盾が生じてしまう。
まず、ロシアは、アサド政権維持を主張しながら、ISISのみならず、シリアの反政府勢力を攻撃している。
オバマ政権は、その反政府勢力を支援しているのだから、トランプ氏のロシアとの関係改善は、シリアの反政府勢力からすれば、いわば裏切り行為となる。アメリカは反政府勢力支援から手を引いていくことになるのか。。?
実際、トランプ氏が選挙で当選すると、プーチン大統領は早々とトランプ氏に祝いを述べて、両者は米ロの関係回復をアピールした。
この直後、まるでアメリカがゴーサインを出したかのごとく、ロシアは、アレッポの反政府勢力への激しい空爆を再開している。シリア反政府勢力は困惑しているはずである。
また、シリアのアサド大統領は、トランプ氏を「自然に味方になりうる」と考えていることが、ポルトガル・メディアのインタビューで明らかになった。
www.nytimes.com/2016/11/17/world/middleeast/assad-donald-trump-syria-natural-ally.html?_r=0
アサド大統領は、イスラエルを絶対的に敵視するヒズボラやイランとも組んでいる。したがって、イランとの合意を破棄し、イスラエルを支持するというトランプ氏の方針とは完全に矛盾する。
トランプ氏がいったいどこまで真剣に中東問題を考えているのか、どうでるつもりなのか、現時点では、やはりまだ判断不可能ということである。
もう一点、忘れてならないのが、ここ数年、アメリカ、NATOの協力を得てロシアと戦っているウクライナである。万が一、アメリカがロシアと接近し、ウクライナ支援、またNATOからも手を引くことがあれば、ウクライナはあっというまにロシアにとられてしまうだろう。
トランプ氏が巻き起こす変化は、本当に全世界を巻き込む大事になりうるということのようである。
<新世界秩序!?:ヨーロッパのラビたちが懸念>
トランプ氏には、どうしても、「白人優先」のイメージがつきまとう。メキシコとの間に壁を作ると主張したり、イスラム教徒を追い出すと公言するなど、白人の国粋主義ともとれる。
トランプ氏が次期大統領に決まると、一時、アメリカ各地で、イスラム教徒や、有色人種などが、「トランプは私の大統領ではない」と主張するデモも発生した。
アメリカには現在1100万人の違法滞在者がいるが、そのうち300万人が犯罪歴があり、アメリカから追い出される可能性が出てきた。すると、カナダやニュージーランド、オーストラリアへの移住に関するサイトのアクセス数がうなぎのぼりだという。
フランスでは、来春、新大統領が誕生することになるが、極右政党のマリア・ル・ペン氏が台頭しそうな勢いである。ル・ペン氏はトランプ氏が大統領になったことを称賛している。
ルペン氏は、イギリスに続いてフランスもEUから離脱するべきと訴えており、万が一、ルペン氏が大統領になった場合、国民投票を実施する構えである。フランスがEUから離脱すると、これはもうEUの崩壊と思わなければならない。
オバマ大統領は今、ギリシャからドイツへと、最後のヨーロッパ巡回訪問を行っているが、最初の寄港地、ギリシャでの演説で、世界のポピュリズム、国粋主義の台頭について、警告を発している。
こうした社会の流れは、有色人種や、イスラム教徒のみならず、反ユダヤ主義の台頭にもつながると懸念されている。
15日、ヨーロッパのラビたち700人が集まるのカンファレンスにおいて、代表のラビ・ピンハス・ゴールドシュミットは、ルペン氏をナチス以来の極右だと指摘。”新世界秩序”の始まりだと警告し、ユダヤ人の自由を守っていく決意を述べた。
www.jpost.com/Diaspora/Top-European-rabbi-Trump-victory-is-the-start-of-a-new-world-order-472687
<ニューヨークの講壇から:タイムズ・スクエア・チャーチ>
トランプ氏のお膝元ニューヨーク市には、「十字架と飛び出しナイフ」で知られたデービッド・ウイルカーソン氏が立ち上げたタイムズ・スクエア・チャーチがある。霊的すぎず、現実的すぎず、筆者個人の考えだが、堅実な伝道活動を行っている。
アメリカの大統領選挙直後の日曜、カーター・コンロン牧師は、黙示録3:7−11から「すこしばかりの力の責任」というメッセージを語った。
コンロン牧師は、世界がそれぞれの利益を追求しはじめ、やがては全世界は滅びにむかうと警告。それは実際に世界が崩壊するというよりも、もっと本質的な問題、霊的な永遠の滅びと、それに対する戦いが始まったばかりだと語る。
その激しい霊的な戦いの中で、教会は、実績などはなんのたよりにもならず、いよいよ自分ではなにもできない、自分は、実は取るに足りない小さな無力な存在だったという真実に到達する。しかし、それは決して悪いことではないとコンロン師。
「わたしは、だれも閉じることのできない門をあなたの前に開いておいた。なぜなら、あなたに少しばかりの力があって、わたしのことばを守り、わたしの名を否まなかったからである。(黙示録3:7−8)」
教会は決して偉大である必要はない。立派な功績を主がもとめておられるのではない。「自分は小さい」ということを、本当に自覚したときにこそ、主がすでに用意されている開いた扉から入って、主の栄光を表すことができる。
だからこそ、「自分は小さい」ということに落ち込むのではなく、そのときこそ、主の用意された扉から入っていけるのだと訴える。
この約束のもと、コンロン牧師は、私たちが私個人という視点だけではなく、個人を超えたところに属し、主の働きをしている視点と自覚があるかどうかと呼び掛けている。
コンロン牧師は、これからの困難な時代、地上で、主のからだとして建てられている教会の、主の栄光を表す器としての働きの重要性を訴えている。
www.tscnyc.org/media_center.php?pg=sermons
<石のひとりごと>
今回、アメリカ大統領選挙を通して、メディアによって右派か左派かで、記事の雰囲気がここまで違うのかということに驚かされた。
イギリスのBBCは明らかに左派であるため、トランプ氏の大どんでん返し当選のニュースを、「だれも望んでいなかったのに・・」とまるでお葬式のような雰囲気で伝えていた。
一方で、アメリカのフォックスニュースは明らかに右派。普段からBBCよりキャピキャピなのだが、トランプ氏の当選はまるで祝い行事のように伝えていた。
イスラエルのメディアでは、エルサレムポストは右で、ハアレツ紙は完全なる左である。当然、パレスチナメディアにも目を配らなければ、偏ってしまう。
トランプ氏当選以来、あまりにも様々な予想やコメントがあり、それらを読みあさるだけで、相当な時間をとられてしまった。これから終末時代を迎えるにあたり、まずは、メディアは一つではないということを肝に銘じる必要があると実感した。
一つの報道だけをうのみにせず、別の見方もあるということをよく知っておかなければ、私たちは、いとも簡単に間違った方向へと流されてしまうだろう。
海外からの報道が極端に視聴しにくい日本では、逆に守られるのかもしれないが、他を見ないだけに、政府の報道規制に気がつかないまま、政府の思うまま、またある特殊な組織の言うままに流されていく危険性はあると思う。
将来、反キリストが来たとき、メディアを利用するであろうことは容易に想像出来る。私たちは十分に危機感をもち、世界で何が起こっているかに取り残されず、かつ、主の声だけに聞き従っていく訓練をしておかなければならない。
今回、トランプ氏が、口だけかもしれないが、やたらイスラエルよりの発言が多いことから、はじめのうちはイスラエルと硬い契約を結び、途中から態度を激変させるという反キリストのパターンを彷彿とさせられた。
もちろん、トランプ氏が反キリストだと言っているのではない。しかし、表向きの言葉や政策だけで判断するのではなく、慎重に世界がどうむかっていくのかを見極める必要があるということは改めて実感させられた。
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