トランプ大統領:世紀の取引・中東和平案公開へ 2020.1.28

写真出展:GPO

第5回ホロコーストフォーラムが開催された23日、トランプ大統領が、独自の中東和平案”世紀の取引”を数日以内に明らかにするとして、ネタニヤフ首相と、そのライバル、青白党のガンツ党首とワシントンへ招待すると発表した。

ネタニヤフ首相は、ただちにこれを快諾。ガンツ氏も承諾したが、後に、ネタニヤフ首相の罠だと感じたのか、これを断るとのニュースも流れた。最終的には、ガンツ氏もワシントンに行くことになったが、ネタニヤフ首相とは別に、トランプ大統領と会談する。

27日夜、ネタニヤフ首相は、サラ夫人を伴って、ワシントンに到着。ガンツ氏は、別の飛行機で、27日日中に到着。28日、まず、ネタニヤフ首相がトランプ大統領と会談、その1時間半後にガンツ氏がトランプ大統領と会談する。翌28日、トランプ大統領とネタニヤフ首相がもう一度会談するという流れである。

www.nytimes.com/2020/01/23/world/middleeast/israel-peace-plan-kushner.html

この他、世紀の取引、中東和平案が発表されるにあたり、アラブ諸国の大使らもその場に招待されているとの情報もある。(チャンネル13)

<トランプ大統領中東和平案:世紀の取引とは?>

トランプ大統領が、親イスラエルであることは、明白であるため、トランプ大統領の中東和平案は、おおむねイスラエルに有利であるとみられているが、まだ何がおこるかは予想不可能と言っておいたほうがよいだろう。これまでに、メディアにもれて、明らかになっている点は以下の通り。

①イスラエルはヨルダン渓谷を合併。西岸地区のユダヤ人入植地にイスラエルの法律を適応する(つまり合併??)。
②エルサレムの一部(防護壁の外側)を首都とし、非武装のパレスチナ国家を設立する。

この双方とも、ネタニヤフ首相が、すでに訴えてきたことであるため、ネタニヤフ首相はこれを歓迎するとみられる。26日、ネタニヤフ首相はワシントンへ出発するにあたり、「この3年、イスラエル最大の友人、トランプ大統領とは数え切れないほど話し合ってきた。彼と共に、歴史をつくりに行ってくる。」と述べた。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/275139

一方、ガンツ氏は、トランプ大統領が、ネタニヤフ首相に対して、異様に好意的であることから、ワシントンで2人にまるめこまれないよう、警戒しているもようで、いったん招待を断るとのニュースも出たが、最終的には、ワシントンへ向かっている。

実際、トランプ大統領が、ネタニヤフ首相との会談を予定している28日、イスラエルの国会では、ネタニヤフ首相の汚職への起訴に関する決議が行われる。その日をあえて選んだかのごとく、ネタニヤフ首相をワシントンへ招待していることが、トランプ大統領とネタニヤフ首相の計略であるとも考えられるわけである。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Deal-of-the-Century-Does-Israel-know-what-it-wants-615456

<反発するパレスチナ:自治政府解散を脅迫>

パレスチナ自治政府のアッバス議長は、トランプ大統領の世紀の取引を全面的に拒否した上、アメリカとの交渉も全面的に拒否している。

今漏れ聞こえてくる取引の内容によると、パレスチナ国家ができたとしても、領土は今の70%になり、しかも非武装となっている。パレスチナ自治政府がこれを受け入れることはないだろう。

26日、パレスチナ自治政府の報道官は、高官らが、議論を続けており、自治政府を解散することや、オスロ合意の部分的破棄の可能性が上がっているという。いずれの場合も、和平どころか、混乱を引き起こすことになる。

また、パレスチナ自治政府のマルキ外相は、アラブ諸国との実質的な対処の話し合いが進んでいると述べた。

しかし、近年、パレスチナ人と同じスンニ派のアラブ諸国は、アメリカとイスラエルに近づく傾向にある。サウジアラビアにいたっては、イスラエルからの観光客を受け入れるとの話にもなっている。パレスチナ問題で、これらのアラブ諸国がどう出てくるか、先行きは見通せない。

ハマスもトランプ大統領の「世紀の取引が成立することはない。」と、これを拒否すると表明した。ハマスの指導者ハニエは、近くカイロで、ハマスとファタハ(パレスチナ自治政府)の会談が予定されていると言っている。

www.timesofisrael.com/savaging-trump-peace-plan-palestinians-again-threaten-to-dissolve-pa/

そのハマスだが、最近、またガザから、風船に爆発物を装着したものをイスラエル南部に飛ばしてきて、問題になっている。25日(土)には、ガザから40キロも離れたネゲブ地方の、キブツ・スデ・ボケルで、爆発物が装着されている風船が発見された。

これを受けて、イスラエル軍は、ガザ内部への空爆を行った。これによる負傷者は報告されていない。

www.timesofisrael.com/idf-jets-strike-gaza-targets-in-response-to-launch-of-incendiary-devices/

<ヨルダンのアブドラ国王:トランプ和平案に反対表明>

ヨルダンにとって、イスラエルがヨルダン渓谷を合併することは受け入れがたいことである。ヨルダンのアブダラ国王は、トランプ大統領の中東和平案には、まったく同意できないとする立場を強調した。

www.timesofisrael.com/jordanian-king-reiterates-opposition-to-us-peace-plan-ahead-of-release/

<本当の目的は?:和平案でも和平は期待せず?>

今回のトランプ大統領の世紀の取引の公表だが、本来はもっと早くに発表される予定だった。それが、イスラエルの総選挙で首相がいまだに決まっていない状況を受けて、発表ができなかったのである。

しかし、その概要は関係諸国には伝えられていたとみられ、すでに、パレスチナ側は、完全拒否を表明しているわけである。この状態で、イスラエルとパレスチナの間に、和平が実現するはずはない。とすると、トランプ大統領が、今この和平案を発表するとしても本当の目的は、和平の実現ではなさそうである。

アメリカでは、今年の大統領選挙を前に、トランプ大統領が弾劾の危機にある。今まだ、トランプ大統領の庇護があるうちに、イスラエルが、ヨルダン渓谷と、西岸地区の30%を合併してしまうということが目的とも考えられなくもない。

今回の和平案発表は、ちょうどエルサレムで、第5回世界ホロコースとフォーラムに46人の首脳が集結し、ホロコーストに思いをさせた直後である。イスラエルへの世界の同情が若干でも残されている時期であるとも考えらえる。

こうした要素から、今回のトランプ大統領の和平案発表の動きは、政治的にネタニヤフ首相を起訴から救い出して、次の総選挙での立場を有利にするとともに、トランプ大統領自身も、大統領選挙を前に、ユダヤ人や福音派の支持を得ようとする政治的なパフォーマンスだとの見方もある。

この同じ時期の先週、トランプ大統領は、現職大統領としては初めて、中絶反対のマーチ・フォー・ライフで、演説した。これについても、福音派の熱狂的な支持を得たとみられる。

<ISIS:イスラエルとユダヤ人を攻撃せよ>

それはまた、これを阻止しようとする力も大きいことからも察せられる点である。27日、ISが、トランプ大統領の和平案に反発し、イスラエルとユダヤ人(入植地)を攻撃するよう呼びかける録音の音声を流した。

ISは、パレスチナ人は、アラブの戦いの最前線にいるとし、「今日、我々は新しいステージに入った。我々の目は今、エルサレムに向けられた。」と宣言した。

www.ynetnews.com/article/SyL6pD2ZL

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。