ゼレンスキー大統領イスラエルへのスピーチ:政府はズーム・テルアビブは大型スクリーン 2022.2.21

ゼレンスキー大統領スピーチ:ズームで対応の政府

20日午後6時、ゼレンスキー大統領のオンライン・スピーチがエルサレムの議会に向けて行われた。

ゼレンスキー大統領は、国会での対応を希望していたが、イスラエルは、ちょうど5月8日まで国会は休会中、かつ修理中だとしてこれを断り、代わりに、ズームで議員たちが、参加する形で行われた。

イスラエルは、今の所、西側と歩調を合わせるようなロシアへのフルの経済制裁は行っていない。また、迎撃ミサイルなど防衛武器を含め、ウクライナへの武器搬入は、いっさいしていないなど、中立を継続している状態を維持している。

ゼレンスキー大統領が、イスラエルでのメッセージを依頼したと聞くと、ロシアは、「バランスを崩すようなことはしないほうがよい」との警告をイスラエルに発していたとのことで、最終的にはやはり、ズームでということになったもようである。

議員たちは、ズームの中で、ベネット首相は、単独で首相府からメッセージを聞いたという。また、アラブ議員は、市民を犠牲にしている戦争なので、どちらの立場も支持しないとして参加しなかった。

またユダヤ教政党議員ら16人はちょうどこの日、非常に重要なラビ・カニエフスキーの葬儀があるとして参加しなかった。

地元メディアによると、イスラエルに駐留する外国の大使なども参加を求めたが、イスラエル政府はこれを認めなかったとのこと。

結果的に、エルサレムの議会へのゼレンスキー大統領のスピーチは、劇的な写真もないまま、世界があまり報じないほどに目立たないものとなった。

www.timesofisrael.com/russia-said-to-warn-israel-not-to-be-unbalanced-ahead-of-zelensky-knesset-speech/

ホロコースト引用で議員らからは反発も

それで、そのメッセージの内容だが、懸念された通り、ホロコーストと不釣り合いな関連付けがあったことから、ベネット首相、ラピード外相はじめ議員たちの間でもあまり歓迎されたものではなかったということである。

このイスラエルの反応を受けて、ゼレンスキー大統領は、すぐに、ベネット首相が、水面化でプーチン大統領との仲介を続けていることに感謝を公に表明した。

また、今、ウクライナ、ロシアの首脳同士の直接交渉の場所として、エルサレムが最適だとの考えを改めて表明した。

www.timesofisrael.com/israeli-lawmakers-tear-into-zelensky-for-holocaust-comparisons-in-knesset-speech/

*ゼレンスキー大統領エルサレムでのオンラインスピーチ内容(略)

ゼレンスキー大統領は、イスラエル初の女性首相ゴルダ・メイヤーが、ウクライナ、キエフの出身であったというところから始めて、ウクライナとイスラエルの関係が深いというところから始めた。

またロシアのウクライナ侵攻が始まった2月24日は、ドイツでナチ党が結成された日と同じ日だったと述べ、ロシアの目的は単なる侵攻ではなく、殺戮であり、破壊が目的だと述べた。

ナチ党は、「ファイナル・ソルーション」(ユダヤ人問題の最終解決策:ここからガスによる大量虐殺が本格化する)を決行したが、今、ロシアは、防衛のためにそのファイナル・ソルーションを決行しようとしていると、ホロコーストとの関連づけの中で語った。

また、先に被害を受けたバビ・ヤール(ホロコースト時代の集団銃殺の穴)や、ウマン(ユダヤ教聖地)も攻撃されているとして、ロシアの攻撃とイスラエルが無関係ではないとアピールした。

その上で、イスラエルはなぜ助けてくれないのかとつめよった。それは無関心か。無関心は殺戮と同じだと述べ、仲介は、国家間ではありうるが、善と悪の間での仲裁は間違っていると述べた。

また、イスラエルには優秀な迎撃ミサイルがあり、防衛ではトップの座にあるとし、なぜウクライナを助けないのか。80年前、ウクライナには、義なる異邦人がいて、ユダヤ人を助けたものだったと語った。

イスラエルの皆さん、あなたがたには、今どうするのかの選択がせまられている、と締めくくった。

www.timesofisrael.com/full-text-ukraine-president-zelenskys-speech-to-israeli-lawmakers/

なお、イスラエルは、ウクライナ国内に、野戦病院を設立中で、昨日、17トンの高度な医療機器がウクライナ国内に運び込まれた。病院は23日に、活動を開始する予定で、すでにイスラエルの旗も掲げられている。

この野戦病院については、プーチン大統領から、攻撃しないとの約束を取り付けているとのこと。確かに武器は供与してはいないが、中立を維持しているがゆえに、イスラエルにしかできない支援だとイスラエルは言っている。

www.timesofisrael.com/israeli-flag-raised-at-field-hospital-in-ukraine-as-gear-teams-begin-to-arrive/

テルアビブ市が大型スクリーンで親ウクライナラリー

政府の立場は上記のような流れだが、一方で、テルアビブでは、市が、大型スクリーンにゼレンスキー大統領のメッセージを映し出しての親ウクライナラリーを行った。

参加した人々は、「ホロコーストで“Never Again”というけど、今も続いている」「イスラエルにはウクライナからもロシアからも移住している。」などと反戦、親ウクライナの思いを表明している。

国家としては、中立の立場を維持しながらも、国民は、ウクライナを支持するという、両方の顔を出し続けているということである。

3月21日:ウクライナ情勢まとめ

ロシアのウクライナへの侵攻から25日。ロシア軍の攻撃は、一般民衆にも普通に向けられており、特にマリウポリでは、約400人が避難していた芸術学校が砲撃を受け、相当な死者が出たもようである。

BBCによると、マリウポリでは、町の90%が廃墟と化したとのこと。人道回廊で避難できた人もいるが、市内には、まだ30万人が、食料や水、電力がないままとりのこされているとみられる。

報道によると、ロシアは、マリウポリの市民1000人以上を、ロシアへ連れ去ったとのこと。ロシアに入った難民は、おそらくプロパガンダに使われるとみられている。

そのマリウポリでは、完全包囲の中、ロシアがウクライナに降伏、明け渡しを呼びかけてたが、本日、ウクライナはこれを拒否した。

キエフでの攻撃も続いているほか、ロシア軍が、超音速ミサイルも使うようになっている。国連によると、国外へ出たウクライナ人、国内で家を失ったウクライナ人は、1000万人を超えると発表した。これは全市民の4人に1人ということである。

難民は、ポーランドに205万人、ルーマニアに52万人、モルドバに36万人などで、ロシアにも18万人が避難している。(NHK)

www3.nhk.or.jp/news/html/20220321/k10013540641000.html

こうした中、18日、バイデン大統領は、中国の習近平国家主席とオンライン会談した。中国は、ロシア経済や、武力維持の鍵を握ると見られる国である。中国が、ロシアに武器支援しないと言ったとの情報もあるが、明確ではない。

バイデン大統領は、24日、ブリュッセルで開催されるNATO首脳会談のため、ヨーロッパ入りする。その後25-26日、ウクライナの隣国ポーランドを訪問すると発表している。

石のひとりごと

プーチン大統領の恐れのなさ、したたかさに恐怖を覚える。真っ黒になった建物が立ち並ぶマリウポリなどの様子を見ていると、目的はただただ破壊だけだというゼレンスキー大統領の言い分も理解できる。

住居だけでなく、人々の暮らしを完全に破壊しているのが、今のプーチン大統領である。家族を離れ離れにし、生活を破壊し、遺体が散乱していてもそれを正当化する。

また、自国のロシア人も多くが息子を軍に奪われ、ロシア軍兵士たちも極寒の中、食糧もなく無理やり戦わされている。

だんだん、命のためには、ウクライナ側が、降参とまではいかないまでも降参もいたしかたないのではないかとも思ってしまうが、それこそが、プーチン大統領が、市民を殺戮している目標なのかもしれないし、もしそうなれば、今後、力で支配する新たな世界のルールにもなってしまうわけである。

このとんでもないジレンマの中、世界中だけでなく、ロシア市民の多くも戦争に反対しているのに、だれもこのプーチン大統領一人を倒すことができないでいる。

まったく普通の状況ではない。戦争だけでは理解できない。見通しが立たない。霊的な戦いと思わざるを得ない。

私たちの戦いの武器は、肉の物ではなく、神の御前で、要塞をも破るほどに力のあるものです。(第二コリント10:4)

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。