シリアの内戦が始まってから5年半。死者は最悪、50万人、シリア国内外の難民1000万人以上とも言われるが、もはや正確には数えられない状況になっている。
シリア最大の都市で今は包囲されている町アレッポでは先週、化学兵器(塩素ガス)によるとみられる症状で、多数の市民らが、治療を受けているもようが報じられた。
犯行はシリア軍とみられてているが、アサド大統領とロシアは、反政府勢力による犯行だと反論している。
*アレッポでは現在も30万人が包囲網の中にいるとみられている。
www.bbc.com/news/world-middle-east-37291182
このような中、またイスラムのハッジの初日でもある土曜、ジュネーブで、徹夜会談を行っていたケリー米国務長官と、ラブロフ・ロシア外相が、シリアの解決策について、合意したと発表した。
シリアへ本格的に介入し始めたトルコもこれに賛同しているという。
しかし、停戦にむけての合意は、今にはじまったわけではなく、これまでの何度も行われて来たのだが、すべて失敗に終わっている。
今回は、シリアのアサド大統領も合意しているという点が、注目と期待をよんでいるが、反政府勢力側の合意については不明で、まだ先行きは、相変わらず不透明。今後の流れとしては以下の通り。
①12日月曜より、アサド大統領のシリア軍は空爆を停止する(ロシアの説得)。反政府勢力も、戦闘を中止し、ISIS アル・シャム(元ヌスラ戦線)から分離する。(アメリカの説得)
②停戦期間を1週間とし、その間に、アレッポなど包囲されている町へ緊急人道支援を行う。
③停戦が1週間続くことを確認後、アメリカとロシアは、共同で、ISIS、アル・シャム(元ヌスラ戦線)などの過激派組織を攻撃、撃滅し、内戦を終わらせる。これが実現すれば、初の米露共同軍事作戦となる。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4852759,00.html
この発表の直後、アレッポとイドリブで大規模な空爆があり、これまでに100人が死亡したと伝えられている。どの組織による犯行かはまだ不明。この日はハッジ初日であったが、死に満ちた悲しいイスラム例祭の始まりとなった。
www.bbc.com/news/world-middle-east-37328945
今回の米露合意案によると、結局、アサド大統領の権限は維持されることになっている点や、ロシアとともにシリア政府軍に加担するイランの声が不明である点などが指摘されている。
<イスラエル・ゴラン高原への影響>
イスラエルとシリアの間には、国連が定めた非武装地帯があり、その中にある廃墟の町、クネイトラに、UNDOF(国連兵力引き離し監視軍)が駐留していた。
しかし、この地域では、今では、アルカイダから発生し自立していった反政府勢力の一派、アル・シャムス(かつてのヌスラ戦線)が優勢となり、アサド大統領のシリア軍と激しい戦闘になることもある。
時々流れ弾がイスラエル領内に着弾し、イスラエル軍は、そのたびにシリア政府軍に反撃を行っている。
先週には、イスラエル領内15キロの地点に流れ弾が着弾。被害はなかったが、イスラエル軍は、ただちにクネイトラ付近のシリア政府軍に反撃を行った。流れ弾が、これほど領内深くまで飛んで来たのは初めてだった。
www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Report-Mortar-lands-in-Golan-Height-no-injuries-reported-467375
今後、上記のような停戦にむけた動きの中で、逆に戦闘が激しくなり、ゴラン高原にも戦闘が波及し、イスラエルにも影響が及んで来る可能性がある。主が国境を守ってくださるように。
<石のひとりごと:シリアの化学兵器はなくなっていたはずでは!?>
シリアで化学兵器が使われていることは、もはや疑いのない事実のようである。しかし、シリアは2013年夏、ロシアの説得に応じて化学兵器はすべて、国連に報告、排除したはずだった。国連もこれを確認したのであった。
しかし、中東では十分予測されたことではあるが、シリアは当時、持っていた化学兵器をすべて申告したわけではなく、国際社会はそれを見抜けなかったということである。
2013年の当時、オバマ大統領は、アサド政権を打倒するため、陸海空軍を動員する総攻撃を準備していた。しかし、シリアが化学兵器を全部提出すると言った事を受けて、直前になって、攻撃を中止するという経過があった。
この時に、もしアメリカがシリアを一掃するという道を選んだ場合、どうなっていたかは推測する由もないが、攻撃しなかったことで、シリアの混乱は解決不能なほどの様相になったこともまた確かなことである。
アメリカという大国を導く大統領の影響力は相当大きい。もうすぐアメリカで大統領選挙が行われることになるが、両候補を見るにつけ、なんとも恐ろしい先行きを感じる。