シリア暫定政権の国家再建への歩み:イスラエルへの影響は 2024.12.17

Abu Mohammed al-Golani, addresses a crowd at the capital’s landmark Umayyad Mosque, on December 8, 2024. (Aref Tammawi/AFP)

シリア暫定政権の国家再建への歩み

アサド政権を転覆させた、シリアの反政府勢力HTS(ハイアット・タフリル・アル・シャムス(シャーム解放機構))は、元アルカイダ傘下のイスラム主義勢力ヌスラ戦線であった。

このため、アルカイダから脱退した今もまだ、アメリカはじめ、国際社会からは、テロ組織指定を受けているままである。

また、シリア国内には、強者のイスラム聖戦主義者ISIL(イラク・レバントのイスラム国)もおり、今後、再び内乱になっていく可能性も、大いにありうる。

実際、イスラエルが、アサド政権軍事拠点を破壊する背後で、アメリカは、12月16日(月)、シリア内ISへの攻撃を行い、戦闘員少なくとも12人が死亡したとのこと。

国際社会は、今、固唾を飲んで、シリアがどうなっていくのか、新政権を担うHTSの動きを見守っている。

これまでに伝えられているところによると、HTSは、暫定政権を立ち上げ、モハンマド・アル・バシル氏(41)を暫定首相に指名した。

A photograph provided by Hayat Tahrir al-Sham

その後、アル・バシル暫定首相と、HTSの指導者アル・シャラア(43)(当初はアブ・モハンマド・アル・ジョラニと名乗っていたが、今は本名のモハンマド・アル・シャラアと名乗るようになった)も、今では、声明を出す時には、軍服から民間服に着替えている。

過激派らしい声明ではなく、キリスト教を含め、さまざまな宗派や宗教の違いを乗り越えるシリアを立ち上げると表明している。アサド政権以前のシリアの国旗を正式な国旗に戻す動きも見せている。

以下は、ウマヤド・モスクで人々に語りかけるアル・バシル暫定首相。ネクタイ姿で、国際社会に過激派ではないことをアピールしているともみられている。

シリアでは、お伝えしているように、反政府勢力が真っ先にしたことは、アサド政権が、反体制派を拘束し、残酷に拷問、処刑していたサイドナヤ刑務所の解放だった。解放された刑務所からは、アメリカ人も保護されている。

今、シリア各地では、アサド政権の崩壊を喜ばない人はいないほどの喜びになっている。13年間、どれほどシリア人たちが苦しんでいたのか、世界は知らなかったということのようである。

こうした中、まずトルコとカタールが、新政権と連絡をとり、ダマスカスに大使館を再開することになった。

また国連と、イギリスなどヨーロッパの外交官たちが、ダマスカスを訪問することになっている。アル・シャラ氏は、シリア再建に向けて、国際社会のシリアへの経済制裁を解除することを求めると言っている。

www.nytimes.com/2024/12/16/world/middleeast/syria-al-shara-al-assad.html

イスラエルへの影響は?:シリアのドルーズ族・イスラエルへの併合を求める声も

シリアは、新政権がキリスト教を含むさまざまな宗派、宗教、また民族的にもドルーズが国境を超えて居住するなど、非常に多様な国である。イスラム主義のHTSが、多様性を受け入れる国にすると言っても、そう簡単には、それを期待することは難しい。

ネタニヤフ首相は、シリアに干渉するつもりはないと強調。あくまでもイスラエルの治安を守るためだとして、シリアとの間の緩衝地帯に軍2部隊を駐留させている他、地域で最も高地のヘルモン山も制覇しており、この冬は、極寒の中でも山頂に軍を駐留させる準備を進めている。

こうした中、ゴラン高原のイスラエル側とシリア側に分かれて住んでいるドルーズ族も、アサド政権崩壊を祝い、これからどうなるのかとの話になっている。

ドルーズ族は、シリア、レバノン、トルコ、またイスラエルにも一部が住む、国のない民族である。

マジダル・シャムスの向こうに見える緩衝地帯 December 9, 2024. (Diana Bletter/Times of Israel)

イスラエルにいるドルーズ族は、ゴラン高原のイスラエル側、マジダル・シャムス含む3つの町に約3万人が住んでいる。

この人々は、国境をはさんで、すぐ向こうのシリア側(緩衝地帯)のドルーズ族の村に親族がいる。国境を超えて、花嫁がシリアに渡っていく様子も伝えられていた。

これまでは、親族であっても、国境を自由に行き来できなかったが、今、アサド

マジダル・シャムスに掲げられた新シリア国旗 Majdal Shams on December 9, 2024. (Lindy Barnett)

政権が崩壊し、イスラエルその地域を占領する状態になっている。

ドルーズたちは今、この親族を引き裂いていた国境がなくなるのではないかとの希望を持っている。

www.timesofisrael.com/in-war-struck-majdal-shams-assads-fall-sparks-hope-for-israels-druze/

先週、ゴラン高原のシリア側にいるドルーズ族の村ハダールの住民たちが、コミュニティミーティングらしき中で、「選択するとしたら、より少ない悪を選択するべきだ」として、イスラム主義政権より、イスラエルに合併してもらった方がマシだと言っている様子が世界に報じられた。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/fearing-islamist-rebels-syrian-druze-village-calls-to-be-annexed-to-israel-calling-it-the-lesser-evil/

このドルーズ族に関する報道が出た後、イスラエル軍の指揮官たちが、クネイトラで、今はイスラエル軍の管理下にある緩衝地帯にある、7つの村々の指導者と会談し、安全を保証すると伝えた。

ハレヴィ参謀総長が表明したように、イスラエル軍は、シリアに干渉するつもりはなく、住民を傷つけるつもりもないということである。

www.i24news.tv/en/news/middle-east/levant-turkey/artc-idf-meets-syrian-druze-leaders-after-call-to-join-israel

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。