目次
シリア反政府勢力がアレッポとハマを制覇・ホムスへ前進
11月30日(土)、シリアとトルコの国境に近い、イドリブ県で、反政府勢力が立ち上がり、ロシア軍とイラン軍の援軍を送る中、シリア政府軍を撃破して、3日(水)には、シリア第二の都市、アレッポを制覇した。
イギリスのシリア人権監視団体によると、この戦闘で、311人(反政府勢力183人、政府軍100人、民間人28人)が死亡した。
反政府勢力は、続いて南部へ向かい、4日(水)には、ハマと制覇。アサド大統領の銅像が倒されている。住民の歓迎を受ける様子が伝えられていた。
5日(木)には、さらに40キロ南、シリア第3の都市、ホムスに向かっている。これを防ぐために、ロシア軍が、ホムスに続く道路を激しく空爆しているとのこと。
アレッポ、ハマに続いてホムスも失えば、ダマスカスにいるアサド政権は、地中海へのアクセスを失い、沿岸ラタキアや、タルススにある海軍と空軍基地を失うことになる。アサド政権は、急速に崩壊の危機にある。
www.bbc.com/news/articles/c2ex7ek9pyeo
予想外の速度で、アサド政権が、反政府勢力に敗北している原因として、考えられることは、これまで、アサド政権を支えていたロシアが、ウクライナとの戦争で、シリアを守りきれなくなっていることが考えられる。
加えて、イスラエルとの戦闘でヒズボラが、機能不全に近い状態になったこと。またここ数年、イスラエルは、シリア領内のイラン関連施設の破壊を大胆に行っており、首都ダマスカスとその空港にも攻撃が及び、アサド政権が、かなり弱体化していたことが考えられる。
イスラエルへの影響と対策:シリア国境に壁・シリアにある化学兵器注視
こうなると、ゴラン高原の国境を超えて、シリア政府軍やシリア人がイスラエルになだれ込んでくる可能性がある。
イスラエル軍は、ゴラン高原の国境に、対戦車塹壕を掘るとともに、壁を設立する様子が伝えられている。ヨルダンもまた、戦火が及んでくることへの対処を始めている。
また、イスラエルの懸念は、シリア領内にある化学兵器である。これが、イランはじめ、反イスラエル勢力の手に渡って、イスラエルに向けて使われることは、絶対に避けなければならない。イスラエルは、情勢を見極めており、必要であれば、シリア内にあるうちに、これを破壊することも示唆している。
しかし、もし化学兵器を爆破したら、シリアにいる人々がその影響を受けることになるだろう。イスラエルは動きを注視している。
www.timesofisrael.com/idf-bolsters-forces-on-syria-border-as-rebels-appear-set-to-capture-homs/
www.ynetnews.com/article/b1yexu1v1l?minutetv=true
www.jpost.com/middle-east/article-831951
イランは共通の敵?反政府勢力(HTS)がイスラエルのイラン攻撃支持を表明
こうした中、今、シリアで立ち上がっている反政府勢力は、イスラエルに対し、イランは共通の敵だとして、イランへの攻撃を支持すると言っている。
今、シリアで急進的にアレッポなどを制覇している組織は、HTS(ハヤット・タハリール・アル・シャムス)と呼ばれる組織で、指導者は、アブ・ムハンマド・アル・ジュラニ(42)である。以下は、CNNによるアル・ジュラニへのインタビュー
以下は、Times of Israelが、電話インタビューした記事からの要約である。
HTSは、アルカイダのシリア支部として設立された、シリア人による、スンニ派のジハード系組織である。イドリブ県では、国連に人権侵害も指摘されており、アメリカは、アル・ジュラニに賞金をつけて指名手配している。
しかし、HTSは、アルカイダとは2016年に決別し、穏健派であると主張している。
また、アル・ジュラニは、海外が指摘するような過激派は、シリア人ではなく、海外から持ち込まれたものだと主張。
今回アレッポなどを制覇したことについても、イスラム主義を持ち込むことが目的ではなく、ただ、住民をアサド政権やイランの支配から解放することだと言っている。
アル・ジェラニは、アサド政権が崩壊した後は、シリアを民主国家にするビジョンを語っている。確かにHTSがアレッポを制覇すると、住民たちはこれを歓迎し、その後、パン屋などが回復する様子も伝えられている。
アル・ジェラニは、「敵は、アサド政権と、ヒズボラ、イランだ」と述べ、イスラエルを含むそれ以外の組織に敵対するつもりはないと言っている。また、イスラエルがヒズボラを弱体化したことに、高い評価も表明している。
こうしたシリア人による反政府勢力には、まずFSA(自由シリア軍)があるが、こちらは、トルコの支援を受け、その宿敵であるクルド人とも戦っている。
しかし、アル・ジェラニは、HTSは、トルコの支援も受けていないと述べ、ただシリア人のためにだけ戦っていると言っている。イスラエルはクルド人とは協力する立場である。
アル・ジェラニがイスラエルとコンタクトをとっているかどうかについては、返事はなかったが、イスラエルはこれを否定している。
しかし、アル・ジェラニは、シリア領内にいるイランが、イスラエルを攻撃する準備はしているので、イスラエルはこれを攻撃すべきだと言っている。
こうした中、NYTは、最新の動きとして、イランが、軍指導者たちをシリアから脱出させる動きがあると報告している。テヘランから飛行機で脱出する者、ラタキアから船で脱出する者もいるとのこと。今後の動きに注目したい。
www.nytimes.com/2024/12/06/world/middleeast/iran-syria-evacuation.html
*シリアのアサド政権と反政府勢力の対立について
シリアは、1946年にフランスの支配からシリア・アラブ共和国として独立。その後も動乱が続いたが、1970年からは、バアス党のハーフィズ・アル・アサド大統領が治める国となっていた。
イスラエルとは、その後、1973年に、水問題をきっかけに、ヨム・キプール戦争に発展。以後、シリアとイスラエルは、ゴラン高原をはさんで睨み合う関係となった。2000年に、ハーフィズ・アル・アサド大統領が死亡した後は、次男のバッシャール・アサド大統領が就任した。
それから約10年後の2011年、中東では、反政府運動が次々に伝播していく「アラブの春」が発生し、シリアのアサド政権も崩壊直前となっていた。これを助けたのが、ロシアであった。
ロシアの支援で、アサド政権は一気にまきかえすこととなり、シリア北部のアレッポを中心とした地域にいた反政府勢力を鎮圧した。
2014年には、イスラム国(スンニ派テロ組織)が出てきたが、ロシアとイラン、イラン傀儡のヒズボラ(シーア派テロ組織)も戦闘に出て、アサド政権は危機を乗り切った。しかし、これで、シリアのアサド大統領は、ロシアとイラン、ヒズボラに頭が上がらなくなる。
それから約10年、イランは、アサド政権の元、シリア領地を通過して、レバノンのヒズボラへの軍事支援を続けた。
イスラエルは、これを阻止するため、シリア国内にあるイラン関連地点や、武器輸送経路への攻撃と破壊をここ何年も行なってきた。この1―2年は、首都ダマスカスとその空港をも遠慮なく攻撃するようになっていた。シリアへの打撃は、すでに積み上がっていたといえる。
石のひとりごと
なんともややこしい感じだが、HTSとイスラエルは協力できるのか否か。
今のところ、イスラエルのメディアは、懐疑的な様子でアル・ディラニについての記事を出している。まだまだ様子を見ないといけないだろう。
ヒズボラと停戦になったはいいが、また新たな問題の登場である。
個人的には、地図上で、シリア南部にいるアメリカがどうなるかが気になった。
トランプ次期大統領は、この部隊を撤退させてしまうかもしれない。そうなったら、ロシアとイランを含む部隊がイスラエルになだれ込む、ゴグ・マゴグの戦争も可能になってしまうのではないだろかと思ったりする。。