アサド政権が崩壊したことで、2024年12月26日、シリア在住のユダヤ人、バクフー・シャントーブさん(74)が、15年ぶりに、ダマスカスに近い、ジョバルにある、紀元前720年から守られてきたとされる、伝統的なシナゴーグ跡を訪問することができた。
このシナゴーグは、預言者エリヤが、アハブ王から逃げる際に、隠れた洞窟の上にあるとの言い伝えから、エリヤフ・ハナビ・シナゴーグと呼ばれている。
後継者エリシャが建てたとの言い伝えもあり、2700年前の紀元前720年から、巡礼地として守られてきたとされる、伝統的なシナゴーグである。
本当であれば、アッシリアが攻めてきたころからであり、イエス・キリスト誕生より700年以上前から守られてきたということになる。
www.timesofisrael.com/syrias-destroyed-ancient-synagogue-is-still-intact/
またこのシナゴーグには、中世にまでさかのぼるトーラーの巻物があり、シリア内乱の混乱の中、2013年に、反政府勢力などが持ち出し、行方不明になったトーラーもあるといったニュースがあった。
www.timesofisrael.com/torah-scrolls-disappear-from-damascus-synagogue-in-fog-of-syria-war/
しかし、一部は在米シリア系ユダヤ人たちが保護していたようである。写真は、2000年1月に、その人々が発表したジョバル・シナゴーグのトーラーの巻物。
エルサレムポストによると、アサド政権が倒れたことを受け、ユダヤ人たちの間では、現在、ジョバルのシナゴーグの再建とともに、トーラーを戻そうとする試みもあり、関係者が、近くシリアを訪問する予定とのこと。
www.jpost.com/diaspora/article-833788
*シリアのユダヤ人の歴史(Times of Israelより)
シリアのユダヤ人社会は、3000年近く前のエリヤの時代までさかのぼる。それから1800年近く後に十字軍が攻めてきたので、この地域にいたユダヤ人約5万人がダマスカスに逃げ込んだ。
その約400年後の1942年には、スペインでユダヤ人の大迫害が発生したので、この時もユダヤ人がいっせいに、ユダヤ人社会があったダマスカスにやってきた。このシナゴーグは、この歴史をすべて目撃してきたといえる。
それから、20世紀初頭には、ユダヤ人社会は、10万人になっていた。しかし、1948年にイスラエルが建国されると、アラブ諸国にいたユダヤ人が危なくなったため、シリアからもユダヤ人たちが出て行き、ユダヤ人社会は急速に小さくなった。
しかし、残留したユダヤ人たちは、アサド政権下で、移動は禁じられたものの、このシナゴーグを中心に、自由にユダヤ教の生活を続けることができた。
周辺のイスラム教徒たちとも問題にはならなかったという。
その後、イスラエルとエジプト、ヨルダンとイスラエルとの和平がすすむと、シリアでもユダヤ人の移動制限が緩和されたことから、さらに多くのユダヤ人たちが、シリアからイスラエルなど国外へ出て行った。
2011年、シリアが内戦に入ると、反政府勢力が、このシナゴーグがあるジョバル地域を制覇し、ユダヤ人たちは、このシナゴーグに到達できなくなった。内戦で、2013年には、シナゴーグは、その3分の2」が破壊された。
2018年に、アサド政権がジョバルを奪回したが、その後もその地域への立ち入りを禁止したため、ユダヤ人は15年にわたって、この大事なシナゴーグに到達できなかったのであった。
この時代に、シャントーブさんの兄弟12人も全員、シリアを離れたとのこと。今は9人のみで、ほとんどが高齢者になっている。ゼロになる日もそう遠くないと言われていた。
今後、このシナゴーグが再建されていくのかどうか、注目される。