イスラエル北部のゴラン高原には、イスラエルとシリアの間に緩衝地帯があり、クネイトラという場所にUNDOF(国連兵力引き離し監視軍)が駐留していた。
しかし2014年、反政府勢力の一つ、アルヌスラが、クネイトラのUNDOFを襲撃して占領するに至っている。つまり、イスラエルのすぐ隣に、アルヌスラや他の反政府勢力が張り合っているという形である。
時々、流れ弾がイスラエル領内に着弾し、イスラエル軍は、その責任は政府にありとして、一発反撃を入れるといったやりとりも時々発生している。しかし、これまでのところ、この地域で、イスラエルとアルヌスラの間に大きな紛争は発生していない。
むしろ、イスラエルは、国境で、多くの重傷を負ったシリア人を、イスラエル国内の病院で治療し、おちついたところでシリアへ返すという人道支援を行っている。その中にはアルヌスラ戦闘員も含まれていると考えられている。
最近では、まだ勢力は少ないものの、ISISもこの地域に入り込んでいることから、ISISを治療している可能性も否定できない。イスラエル軍報道官のピーター・ラーナー氏は、治療があくまでも医療的立場で行っているものであり、相手がだれであれ、こちらは関与しないとの立場を強調している。
ともあれ、そうした医療支援が実は、イスラエルとアルヌスラの間に交わされた密約ではないかとの見方もある。
こうした状況の中、7月29日、アルヌスラが、アルカイダから離脱したと発表した。アルカイダも「イスラムの兄弟愛は組織にしばられるものではない。」として、これを認めるとの以意向を明らかにしている。
アルヌスラの指導者アブ・モハンマド・アル・ジュラニは、世界にむけての初めてのビデオ・メッセージの中で、「アメリカやロシアがシリア人を攻撃の口実を与えないようにすることが目的と語り、新しく出発する組織はあれゆる外国との関係をもたないと言っている。
なお、アルヌスラは、ISISがアルカイダから分裂した後、ISISとの合流を拒否して、アルカイダに加わったという経過がある。
www.bbc.com/news/world-middle-east-36916606
ハアレツ紙の記者は、アルヌスラがアルカイダからも独立することで、サウジアラビアにテロでない反政府勢力として認められ、和平会議への出席の他、支援金も受けられるようになるのではないかとも書いている。
とはいえ、イスラエルにとっては、隣にいるのが、アルカイダでろうが、アルヌスラであろうが、ほとんど関知せず、というところか。
<クネイトラ周辺のシリア難民を助けるイスラエル人ビジネスマン>
クネイトラを含む緩衝地帯には、シリア難民20万人がどこにも行けないまま、非常に苦しい生活を強いられている。イスラエルのすぐ隣に食料すらない人々がいることに耐えられないというイスラエル人ビジネスマンがいる。
モティ・カハナさんは、アメリカ系イスラエル人でビジネスで成功し、その資金をシリア難民の救出につぎ込んでいる。
多くのシリア人の知人を通じて、主にトルコでシリア難民への支援活動を行っていたが、2年前から、クネイトラのある緩衝地帯に閉じ込められているシリア人たちへの支援を行っている。
具体的には、食料や医薬品を国境まで届け、そこからは、イスラエル軍が極秘のルート(上記負傷者の治療も含め、イスラエル軍は、この地域になんらかのコンタクトを持っている)で難民に届けているという。つまり、支援がイスラエルの旗印の元で送り届けられるということである。
モティさんは、地域のシリア人から直接リクエストを受けて、物資を届けるのだが、イスラエル軍に引き渡して以降は、確認のしようがないという。しかし、なんらかの形で連絡があるとみえ、こうした支援活動が続けられている。
モティさんは、イスラエルから車で1時間もかからないすぐ隣で、人々が食料もなく、野宿している。これを放っておいては、やがて他からの支援を受けるようになる。そうなれば、この地域は、イスラエルに敵対する地域になってしまうと主張する。
カハナさんは、シリア難民が、ヨーロッパなどでひどいしうちを受けていることについて、「シリア人はドイツになど行きたいとは思っていない。シリアにいられるなら、シリアにいるはずだ。」と主張する。
カハナさんの目標は、シリア領内のどこかに、市民のための安全地帯を設けること。そこから、新しい国づくりがはじまればと考えているという。
カハナさんはまだ40代ぐらいと思われるが、シリア難民のために、財産をなげうってしまうため、妻や子供たちが困るほどだという。これほどシリア人のために、熱心になっているイスラエル人がいることを世界は知るべきであろう。
付け加えれば、危険であるにも関わらず、トルコやヨルダンの難民キャンプで支援活動を行うイスラエルの若者たちが決行いると聞いている。