ゴラン高原-クネイトラで戦闘

6日朝、アサド政権のシリア政府軍が、ゴラン高原のシリアとイスラエルとの国境、クネイトラを戦車などを使って攻撃、クネイトラのシリア側を反政府勢力から奪還した。

シリアとイスラエルの間には地雷が多数埋められた広大な草原が広がっている。戦闘により、この草原が広範囲に燃えて、イスラエル側にまで至った。消防隊が出動し、消火にあたったという。

この間、流れ弾とみられる砲弾が2発イスラエルにも着弾したが、被害はなかった。午後には戦闘は収まり、夕方から夜になっても落ち着いている。

この間、シリア難民数十人が、クネイトラのイスラエル側に来て、難民としての受け入れを要請したが、状況が落ち着いていることから、イスラエル軍は、難民らを元のクネイトラのシリア側へ帰らせた。

*クネイトラ

クネイトラは、1974年に、シリアとイスラエルの停戦を守るために設けられた非武装地帯にあり、シリアとイスラエルの間を唯一越境できる検問所が置かれている。そのためクネイトラには、シリア側とイスラエル側があり、間にUNDOF(国連引き離し監視・多国籍軍)が駐留して、両者を監視している。

今回、シリア軍が反政府勢力から奪還したのは、無論シリア側のみ。しかし、戦闘地域はイスラエル軍の駐屯地から70mしか離れていなかった。

<イスラエルの対応>

クネイトラは、シリア政府軍、反政府勢力双方にとって重要な要所ではない。今回の攻撃は、たんに象徴的なもので、ここからさらにイスラエルを攻撃してくるといった見通しは今のところない。

しかし、イスラエル軍は周辺地域を軍事地域として今週末立ち入り禁止とし、防衛体制を強化。医療チームも待機させて、万が一に備えている。

付近の住民は、あまりにも近いと困惑しながらも、様子を見るしかなく、まだ余裕の表情。軍が立ち入り禁止にするまでは、クネイトラが見える展望に見物の人々が集まっていた。

クネイトラは、イスラエルからもよく見えるため、シリア軍兵士や反政府勢力の戦闘員、戦車が野原を縦横に走り回る様子がテレビでも報じられた。

<UNDOFのオーストリア軍、撤退へ>

UNDOFは、監視軍であって武器の使用は認められていない。そのため現時点でのゴラン高原での駐留は非常に危険である。UNDOF約1000人からなる多国籍軍だが、このうち最大人数で、全体の3分の1を占めるオーストリア軍が撤退すると発表した。

フィリピン軍は、今回の戦闘で1人が負傷。最近、シリアの反政府勢力に兵士を誘拐されるなどの事件に巻き込まれたりしたが、まだ撤退は決めていない。日本の自衛隊は、昨年中に全員引き上げている。

UNDOFが引き上げてしまうことは、イスラエルにとっては非常に危険。ゴラン高原を足場に、アルカイダなどのテロ組織がイスラエルを攻撃してくる状況をつくってしまうからである。

イスラエルは、オーストリア軍の撤退を遺憾と発表。国連は、オーストリア軍に変わる軍の派遣を検討中である。

<シリア反政府軍がレバノンのヒズボラ要所を攻撃>

5日に、レバノンとの国境の町クサールをシリア政府軍が奪回したことで政府軍が急に勢いを盛り返した。それはヒズボラの地上軍が、介入したからである。解放されたクサールに入ったBBCによると、シリア軍兵士と一緒にヒズボラ戦闘員がいるという。

このため、反政府勢力の怒りは、シリア政府だけでなく、ヒズボラにも向けられている。先週、レバノン領内のヒズボラの拠点が砲撃されたが、今日も、国境近くのヒズボラ拠点にむけて激しい砲撃が行われたもようである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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