北部情勢が緊張する中、3日、ゴラン高原のドルーズの町マジダル・シャムスと、国境をはさんで向かい側、シリア領内にあるドルーズの町ハダールで自爆テロが発生し、9人が死亡。これに続く銃撃の流れ弾で、イスラエル側、マジダル・シャムスのドルーズ1人が負傷した。
これを受けて、ハダールにいる家族を助けようと、マジダル・シャムスの住民10人ほどが、国境フェンスを超えて、シリア側へ行こうとした。イスラエル軍があわてて連れ戻したという。
ハダールはシリア政府側の拠点のひとつである。そのため、今回、ハダールで、反政府勢力のアル・シャムス(アル・ヌスラ)が自爆テロ、ならびに戦闘を展開したのである。
マジダル・シャムス住民は、これまで、自分はシリア人だと主張し、暴力には出ないまでも、静かにイスラエルに反抗する態度を続けていた。しかし、シリアが内戦となり、信頼していたアサド政権の残虐な行動が報じられる中、複雑な立場におかれるようになっていた。今は、家族を救えるのはイスラエル軍しかない。
マジダル・シャムスの指導者は、「イスラエルにシリアを攻撃してほしいとは要求しない。しかし、IDFは、ヘルモン山から、監視して必要ならシリアへ入らずに攻撃もできることを知っている。ハダールを守ってほしい。」とイスラエルに要請を出した。
これを受けて、イスラエル軍は、「イスラエルはドルーズの人々を守る。」約束する声明を出した。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5038041,00.html
*ハダールとマジダル・シャムス:シャウティング・ヒルの悲劇
ハダールとマジダル・シャムスは、どちらもドルーズの村だが、1967年の六日戦争で、シリアとイスラエルに分断され、行き来ができなくなった。このため、分断された家族は、かつて谷をはさんで叫びあって安否を確かめるしかなくなった。マジダル・シャムスには、「シャウティング・ヒル(叫ぶ丘)」と呼ばれれるスポットがある。この様子は映画のドラマにもなっている。
今は、電話やインターネットで連絡がとれるので叫ぶ必要はない。また必要であれば、第三国で家族が顔を合わせることも可能である。しかし、イスラエルとシリアに国交がないため、今も家族は分断されたままである。
このため、今回、向かい側のハダールで自爆テロと聞き、マジダル・シャムスのドルーズたちは、家族を助けようと、国境を超えてハダールへ助けに行こうとしたのである。
<複雑な立場のイスラエル>
この事件について、イスラエルは若干複雑である。今回、ハダールで自爆テロを決行したゴラン高原の反政府勢力アル・シャムスと、水面下で取引をしているとみられるからである。
イスラエルに隣接するゴラン高原周辺は、シリア政府軍ではなく、反政府勢力アル・シャムスが優勢である。このため、地域の治安を守る為、水面下で、彼らと取引をしたとみられるのである。
その取引とは、シリア人負傷者(戦闘員含む)を一時的に引き取ってイスラエルで治療するかわりに、イスラエルには手出ししないよう約束させたとも言われているのである。*負傷者は、治療が一段楽すればシリアへ返還される。
Times of Israel によると、2013年以来、イスラエルが治療したシリア人は3100人に上るという。同紙は、この10月にもろばに乗せられて、ヘルモン山のイスラエル側へ搬送されてきた負傷者についての記事を出している。
www.timesofisrael.com/arriving-on-donkeys-syrian-war-wounded-seek-israeli-help/
今回、イスラエルは、ドルーズを守るために、ハダールの住民を守ると約束したが、それは、アル・シャムスを攻撃するということであり、約束を破るということにもなりうるのである。ドルーズを守るか、イスラエル市民を守るか。難しい状況である。
なお。シリアでは、ISISの拠点ラッカが陥落し、支配域はかなり小さくなったが、今も自爆テロで、難民を75人も殺害するなど、あいかわらず危険な存在である。また、ISISが撤退した空白に、イランが入り込んでいるとの情報もある。
イスラエル軍は、日々、様々な方法を駆使して、情報収集を行っている。エージェントたちが、必要な情報を得ることができるようにと祈る。
www.timesofisrael.com/druze-break-into-syria-from-israel-idf-brings-them-back/