エジプトで、数百万規模の反ムルシデモがはじまって4日目の3日夜、最後通告の期限時間を過ぎたことを受けて、エジプト軍がムルシ大統領を拘束、同政権によって出された憲法は、無効であると公式の発表を出した。
期限時間直前にムルシ大統領から、野党も含む連立政権への呼びかけが出されたが、野党は応じなかった。最終的には軍事クーデターのような形となり、ムルシ政権は発足から1年で終焉を迎えた。
国際社会の間では、「軍がエジプトを支配するつもりではないか」との懸念が広がった。しかし、エジプト軍は、今回の介入は、エジプト市民の声を反映するものであり、軍事クーデターではないと主張している。
上記公式発表には、反ムルシ派の代表として、元IAEA(国際原子力機関)のエルバラダイ氏、コプト教(キリスト教)代表司祭なども共に公式の発表を行った。
<歓喜と混乱のタハリル広場>
発表が出されると、カイロのタハリル広場に集まっていた100万人以上の反ムルシの群衆は、喜びの大歓声となり、花火が次々に打ち上げられ、一気に祝祭ムードとなった。
同じカイロ市内では親ムルシ派の大群衆もデモを行っていた。上記発表が出された直後に、衝突がはじまるのではないかと懸念されたが、今のところ大きな衝突にはなっていない。
しかし、タハリル広場では、これまでに少なくとも8人が死亡。デモに参加していた100人近い女性がレイプなど性的な被害を受けている。カイロ市内全域は、現在軍が駐留し、警戒にあたっているが、今も一触即発状態である。
<これからの流れ>
エジプト軍は、これからの流れとして、軍以外の政治家や専門家などによる暫定評議会を立ち上げてまずは憲法を制定、その後早急に大統領選挙を行うという”ロードマップ”(計画)を発表した。
<これからの注目点>
今後エジプトがどうなっていくのかは、専門家にも予測不可能だという。その中でも注目点は以下の通り。
1.エジプトは分裂するか
エジプトでの1年前の選挙で、ムルシ大統領は51%と獲得していた。親ムルシ派もまだまだ大群衆である。
エジプトは今、イスラム国家になるのか、世俗の国になるのかというアイデンティテイの問題でまっぷたつに分裂している。問題がアイデンティティであり、宗教がからんでいるため、エジプトがさらに分裂していく可能性がある。
2.民主主義は成り立つのか
ムルシ大統領は、不正に大統領になったのではなく、民主的な選挙で過半数を得て大統領になっている。それを事実上軍が、失脚させたというパターンができてしまったため、今後いかに民主的に選挙が行われても、同じことの繰り返しとなる可能性がある。
3.スエズ運河は開き続けているか
エジプトにあるスエズ運河はアジアとヨーロッパとの交易にはかかせない航路である。エジプトの混乱がさらに悪化した場合、スエズ運河が閉鎖される可能性が出てくる。
すると、原油の配給が滞り、ガソリンなどの価格が跳ね上がる。ヨーロッパとの輸出入が困難になる。
*市内半島にエジプト軍が駐留:イスラエルが合意
エジプト情勢が悪化する最中、エジプト軍がシナイ半島の治安を守るための軍隊を派遣、駐留を開始した。イスラエルはこれに合意している。
<アメリカの対応>
前回、ムバラク大統領に対する大規模デモが発生したとき、オバマ大統領は、親米だったムバラク氏をさっさ見捨てて退陣を要求。これがきっかけとなり、アラブの春が広がったとの批判を受けた。
そのため、今回は「どちらの側にもつかない」との立場を明確にし、直接の介入をさけているもようである。