イラン問題:アメリカとの取り組み:ヨシ・コーヘン・モサド長官訪米予定 2021.2.6

共にサウジアラビアを訪問したネタニヤフ首相とヨシ・コーヘン・モサド長官 出展:GPO

アメリカとイスラエルのイラン問題取り組み

様々な角度から、緊張するイラン情勢だが、今回のバイデン大統領の外交演説において、イラン問題が直接語られることはなかった。

しかし、バイデン政権にとって、イランとの核合意に戻る可能性を探るということは、就任にあたって公約していたことで、イスラエルはこの件について、相当神経をとがらせている。

バイデン大統領は、もしイランが、核合意の規定に戻るなら、アメリカも合意に戻ると言っているが、実際には、イランは、ウランの濃縮を20%にまで引き上げるなど、すでに合意からは違反しており、これを戻すことは難しい。

まただいたい、アメリカとイランは、トランプ政権下での厳しい経済制裁、スレイマニ総司令官暗殺などもあいまって関係は最悪といってもよいだろう。イランは、もしアメリカが合意に戻りたいなら、急いだ方がよい。イランはいつまでも待たないと言っているほか、経済制裁の緩和などを条件付けて、逆にアメリカの弱みに付け込んだかのようなきに出ている。

一方、イスラエルは、アメリカが核合意に戻って、イランへの経済制裁を緩和するようなことがあれば、イランが一気に核兵器保有に近づくと懸念するイスラエルは、慎重にことの動きを見守っている。

これまでに、ツァヒ・ハネグビ元諜報機関長官や、コハビイスラエル軍参謀総長が、もしアメリカがイランとの合意に至った場合、イスラエルがイラン核施設を攻撃するとの意思表示を表明している。中東の戦争にまで発展しかねない問題である。

アメリカとイスラエルはそれぞれ、イラン問題にとりくむ人材を任命している。イスラエル側のイラン担当として指名されているヨシ・コーヘン・モサド(諜報機関)長官は、今月後半にも訪米する計画が進められている。

1)アメリカのイラン担当:ロバート・マレー氏

ロバート・マレー氏
出展:wikipedia

バイデン大統領は、先月の就任前から、この件に関する動きを始めている。バイデン大統領は、イランとの交渉役に、ベテラン外交官のロバート・マレー氏を指名した。マレー氏は、ケリー当時国務長官とともに、2015年のイランとの核合意、JCPOAを成立させたチームの一員である・

この指名が発表されると、共和党、親イスラエル派らからは、イランに対し弱腰すぎるとの批判が噴出していた。しかし、マレー氏は、クリントン政権時代にも中東問題に関わっていた他、近年では、世界の紛争に関する国際危機管理グループの主任も務めていた人物である。

今後、マレー氏は、ブリンケン国務長官の元で、イラン問題に関わっていくことになる。

www.reuters.com/article/us-usa-iran-envoy-idUSKBN29X2XQ

2)イスラエルのイラン担当:ヨシ・コーヘン氏:2月後半ワシントン訪問予定

ヨシ・コーヘン氏
(モサド長官)
出展:GPO

ヨシ・コーヘン氏は、イスラエルの諜報機関モサドの長官である。表にはあまり出ていないが、アブラハム合意成立の陰には、コーヘン氏の働きがあったとも言われている。

ヨシ・コーヘン氏は、アメリカを訪問。ジェイク・スリヴァン国家治安顧問、ウイリアム・バーンズCIA長官と、もしかしたら、バイデン大統領本人にも会えるかもしれないとの見通しである。

この他、ガンツ防衛相と、コハビ参謀総長が、テルアビブで、アメリカ軍中央司令官のケネス・マッケンジー氏と会談し、イスラエルの防衛事情を伝えるなどの動きもあった。

アブラハム合意を有効活用せよ:イスラエル・UAE・アメリカエキスパートからの提言

1月末、イスラエルとUAEの防衛エキスパートに、アメリカのシンクタンクも加わって、バイデン大統領に、中東への介入について、以下のように9項目の提言を出した。アブラハム合意を有効に利用して、イランをけん制してほしいというものである。

3者は、イランについて何かを決める際には、イスラエルと、イスラエルと国交を開始したアラブ諸国との緊密に連携するよう要請している。

また、中東全域に駐留する米軍撤退への懸念を払拭すること、地域の軍事協力体制を構築することを提案している。

加えて、アブラハム合意による関係を使って、中東、北アフリカの貧困国におけるワクチン対策に協力することや、湾岸アラブ諸国とイスラエルのビジネスや民間事業を促進して友好関係を強化していくことを提案した。これにより、イランの脅威と、ISISのような過激組織の出現を抑制できるとしている。

*提唱する9項目

①アブラハム合意で一致した中東、北アフリカ諸国を連携し、地域の貧困諸国へのワクチン提供の計画をすすめる。

②イラン対策において、アメリカの中東での友好国とよく連携する。
③中東から米軍が撤退する懸念を払拭する宣言を出す。

④地域の平和推進との位置付けで、アラブ諸国とイスラエルの和平を推進する。
⑤中東和平の仕切り直しを行い、イスラエルとパレスチナ二国家を目指す対話を復活させる。

⑥NATO、イスラエルとアラブ諸国とテロ抑制において協力し、現地治安勢力を訓練して、ISISのような過激派の動きをけん制する。

⑦イエメン、シリア、リビア、イラクの紛争地域の人道支援に努める。

⑧イスラエルと湾岸諸国のビジネスや民間事業を促進して互いの関係を深めるよう働きかける。
⑨イスラエルと国交を開始したアラブ諸国とアメリカ、イスラエルとの民間レベルでの対話を促進する。

* INSSの第14回国際カンファレンス 1月26−28日

www.timesofisrael.com/uae-bahrain-we-need-unified-voice-with-israel-on-irans-missiles-nukes/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。