イランは攻撃再考か?:焦点はヒズボラとの大規模戦争へ 2024.8.9

Sayed Hassan Nasrallah, Secretary-General of Shia Islamist political party Hezbollah, is seen on a giant screen giving a speech to his supporters during a rally in Beirut southern suburb on Ashura Day, on the 10th day of the month of Muharram, the first month of the Islamic calendar. Muharram is considered a month of mourning and remembrance for Shiite Muslims around the world, in which they commemorate the martyrdom of the grandson of the Islamic prophet Mohammad, Husayn ibn Ali, who was killed in the 7th century Battle of Karbala.

テヘランでハマス政治部門指導者ハニエが暗殺されてから1週間が過ぎた。イランとの戦争勃発への懸念が逼迫する中、今のところまだ、大きな戦闘にはなっていない。

7日、OIC(Organization of Islamic Cooperation イスラム協力機構)は、テヘランでのハニエ暗殺は、イスラエルに責任があるとし、国連安保理に介入を求めたものの、イスラエルへのイランの報復攻撃への支持にまでは至らなかった。

in Tel Aviv, July 20, 2024. (Ariel Hermoni/Defense Ministry)

イスラエルのメディアは、アメリカが何らかの形で、イランに強力な圧力をかけており、もしかしたらイランが、イスラエルへの総攻撃はおもいとどまるかもしれないとしている。

しかし、一方でヒズボラが、イランなしでも攻撃してくる可能性があると準備を進めているとの状況にある。

www.timesofisrael.com/saudi-arabia-says-haniyeh-killing-blatant-violation-of-irans-sovereignty/

OIC(イスラム協力機構)緊急会合:イスラエル非難もイラン報復攻撃には言及せず

イランは、中東57イスラム諸国からなるIOC(イスラム協力機構)に対し、テヘランでのハニエ暗殺についての緊急会合を要請を出していた。

このため、7日、関係諸国の外相たちがサウジアラビアのジッダに集まってこの問題を協議した。

その共同声明では、テヘランでのハニエ暗殺は、パレスチナを違法統治するイスラエルにすべて責任があり、テヘランで暗殺を実行したことは、イランの自治権侵害にあたるとして、国連安保理に介入を要請するとした。

しかし、イランが期待していた、イスラエルへの報復攻撃への支持は、宣言にもりこまれていなかった。

www.timesofisrael.com/saudi-arabia-says-haniyeh-killing-blatant-violation-of-irans-sovereignty/

アメリカがイランを強力に抑止か

イランとイスラエルが戦争になれば、中東を巻き込む事態になるため、アメリカは、これを防ぐため、空母を含む部隊をペルシャ湾や地中海にも派遣し続けている。最新のニュースでは、F22戦闘機も配備したとのこと。

バイデン政権は、イランで殺されたのは、国際テロ組織ハマス指導者のイシュマエル・ハニエであり、イランがイスラエルを攻撃する正当な理由は何もない(表向き)と言っている。

また、イランがイスラエルを直接攻撃したら、アメリカがイランを攻撃することを明確に伝えた。そうなれば、イランへのリスクは計り知れないと伝えたという。

www.timesofisrael.com/liveblog_entry/us-official-warns-of-quite-significant-consequences-if-iran-attacks-israel/

また、昨日、イランのペデシュキアン大統領が、イランのイスラム最高指導者ハメネイ師にイスラエルを攻撃することを思いとどまるよう、申告したとの報道もあった。

イラン系メディアからの情報によると、イランのペデシュキアン大統領は、イスラエルへの攻撃が、イランの経済やインフラを麻痺させ、国を崩壊させる可能性があると申告したという。これに対するハメネイ師の反応は不明。

www.jpost.com/breaking-news/article-813784

その後、イランは、イスラエルを国レベルに攻撃するのではなく、ハニエを殺害した個人やエージェントの捜索に入った可能性もあるとのニュースも出ている。

ヒズボラの攻撃懸念:ギャラント防衛相がアラビア語でレバノン市民に警告

Defense Minster Yoav Gallant speaks to reservists during a drill in northern Israel, August 7, 2024 (Ariel Hermoni/Defense Ministry)

まだ油断はならないものの、イランの攻撃の可能性は若干和らいだといえるかもしれない。しかし、今問題となっていることは、ヒズボラが、イランなしでもイスラエルへの攻撃を開始するかもしれないという点である。

先月27日、ヒズボラが発射したイラン製ロケット弾が、イスラエル北部マジダル・シャムスに着弾し、ドルーズ族の子供12人が死亡。

その反撃で、イスラエルが、ヒズボラの高官ファド・シュクルを暗殺した。こちらは、直接対決の図式である。

その後も、北部国境周辺からナハリヤにいたるまでの北部地域では、毎日、サイレンが鳴り、ヒズボラのミサイルが飛来し、迎撃の影響もあり死傷者が出ている。

ヒズボラは、イスラエルに向けて15万発ものミサイルを準備済みであり、このミサイルの雨がやってきたら、イスラエルの迎撃ミサイルでは間に合わず、市民の死傷者の数は計り知れない。

これを防ぐため、イスラエル軍は、レバノンへの強力な攻撃を開始する準備を整えており、もし実施された場合、レバノンという国そのものが想像を絶する破壊を受けることになると、警告し続けている。

状況が危機的になる中、イスラエル軍のギャラント防衛相は、9日、Xにおいて、レバノン市民へのメッセージをアラビア語で発信した。

その中で、ギャラント防衛相は、2006年の第二次レバノン戦争(34日間)でナスララ党首が、レバノンに招いた破壊に触れ、「イスラエルは、北部国境の両側の平和、繁栄、安定を望んでいる。

ヒズボラが国境地域の平穏を脅かすことは受け入れられない。ヒズボラが侵略を続ければ、イスラエルは全力で戦う。火で遊ぶ者は、破壊を免れないことを知るべきだ」と述べた。

緊張する北部情勢を受けて、ネタニヤフ首相を含む治安閣議が、テルアビブ、キリヤのイスラエル軍本部で行われた。ネタニヤフ首相含む指導者たちへの暗殺や攻撃が懸念されたためか、閣議は地下の「ピット」と呼ばれる部屋で行われた。この部屋を使用する訓練も兼ねていたともいわれている。

www.timesofisrael.com/security-cabinet-convenes-as-israel-warns-of-destruction-if-hezbollah-attacks/

北部・全国病院の準備体制:多数負傷者に備え

ヒズボラとの戦争が始まるとはいえ、市民生活は続いている。北部の人々は、ミサイル攻撃はすでに経験済みなのである。その中で、最も準備を進めているのが、病院である。多数の負傷者に対応することを予測して、かなり詳細にわたった準備を完了している。

北部の病院は「砂漠の島」と名づけた作戦を準備している。これは、戦争がほぼ警告なしに始まる(警告は15秒前との計算)という前提で、病院がどう動くのかという計画と準備である。

なぜ砂漠かというと、戦争が始まれば、突然、交通が遮断され、サイバー攻撃で携帯による連絡も取れなくなる可能性を前提とする。

医療機器や医薬品、輸血用血液など物資の準備は言うまでもなく、職員がどのように病院に到達するのか、連絡はどう取るのかなども予測、計画されている。

配備している救急車は、通常370台だが、今は700台に増やした。10月7日以降、500台を購入していたという。輸血関係部署によると、1万回分の輸血を準備しているほか、1日で5000回分の血液を新たに確保できる体制も整えたとのこと。

www3.nhk.or.jp/news/html/20240808/k10014541421000.html

重点は、外科、神経外科、心臓手術におかれている。北部病院は、緊急事態に備えて、10月7日以来、入院患者数を最小限にしているとのこと。職員の配置や休息のシステムも計画されている。

ハイファにあるランバンホスピタルは、緊急時、広い地下駐車場が、病院に早変わりする構造になっている。ミサイルから守られるだけでなく、核兵器からも守られる設備である。

www.haaretz.com/israel-news/2024-08-08/ty-article/.premium/blood-and-generators-how-israels-healthcare-system-is-preparing-for-war-with-hezbollah/00000191-3123-d1b4-a399-7da714850000

石のひとりごと:本気で危機に備えるイスラエル

イランがイスラエルへの大規模な攻撃を控えるかどうか、まだ決まったわけではない。しかし、イランにとって国の崩壊になるほどの大惨事になるかもしれないというメッセージはイランに伝わっているかもしれない。

しかし、イランは直接出なくても、ヒズボラにやらせればいいわけである。イスラエルをとりまく危機は今も、尋常ではない。国の存続と国民の命を守るためのイスラエルの準備は大変なレベルになっている。

日本は、今、南海トラフの大地震の可能性に直面している。領土広範囲が影響され、死者は32万人に上るとも推測されている。大地震はもしではなく、いつ発生するのかという問題であること、また警告はほとんどないという点では、イスラエルが直面している危機と少し通じる部分があるかもしれない。

しかし、日本の準備は、イスラエルの1万分の1だろうか。特に病院は、それぞれの間に連絡があるとは思えず、国や自衛隊との連携も十分あるかどうかは疑問しかない。

イスラエルでは、国も国民も皆が、国がなくなっては生きていけないという共通の危機感がある。恐れに支配されず、だれかに指示されなくても、それぞれができる限りの準備を行い、心の準備もしている。その上で、最終的には、全知全能、創造主である、イスラエルの神に目を向けるのである。

私たちも見習いたいところである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。