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ベイルートとテヘランでの暗殺事件・その後
レバノンの首都ベイルートで30日、イスラエル軍は、イスラエル北部のドルーズの町で子供たち12人がロケット弾で殺されたことへの反撃として、ヒズボラの指名手配高官ファド・シュクルが暗殺された。
その数時間後の31日夜中、イランの首都テヘランで、ハマスの政治部門最高指導者イシュマエル・ハニエが暗殺された。これについて、イスラエルは沈黙を続けている。
中東での全面戦争になると懸念される中、8月1日現在、イラン高官らの情報として、イスラム最高指導者ハメネイ師は、31日の時点で、すでにイスラエルへの直接攻撃を指示するとともに、戦闘と防衛の準備指示を出していたとの記事が出ている。
www.nytimes.com/2024/07/31/world/middleeast/iran-orders-attack-israel.html
一方、イスラエルでもネタニヤフ首相が、大規模攻撃に準備するよう、国民にメッセージを発信。大手航空会社は、イスラエル便をキャンセルしており、状況は極めて、大規模な戦争に向かう気配になりつつある。
この2件の暗殺の背景には、イスラエルの非常に深い分析と賭けがあったと言われている。その賭けが当たれば、このまま大きな戦争にはならず、状況は緩和する。イスラエルは、このままガザのハマス無力化への作業(戦闘)を継続することになる。
一方、賭けが外れた場合、イランとアメリカも巻き込む中東での大戦争に発展する可能性が出てくる。
今、すべては、これからイランがどう出てくるかにかかっていると言われている。
レバノンとイランでの暗殺事件に関するイスラエルの賭け
1)ヒズボラ、ハマス、フーシ派へ牽制
今回、ヒズボラの拠点であるレバノンの首都ベイルート、イランの首都テヘランという、最も警戒が高いとみられる地点で、暗殺が行われた。
2件の暗殺の結果が示していることは、イスラエルの諜報能力が、今もまだ非常にすぐれていること、また非常に焦点のあたった攻撃能力があるということである。
その上で、イスラエルを攻撃し続けているヒズボラ、ハマス、フーシ派など、すべてのイラン傀儡テロ組織に対して、イスラエルは、そのすべての背後にいる大ボス、イランとの戦闘も辞さないと示した点である。
また、ベイルートでのヒズボラ高官ファド・シャクルは、イスラエル北部で子供たち12人をロケット弾で殺害したことへの報復であり、イスラエル市民を殺害することがどれほどの代価になるかを示した形であった。しかし、それ以上の意味もあった。
シャクルは、1983年に、ベイルートの米海兵隊宿舎を襲撃して、米兵241人を殺した作戦の指揮官であった。アメリカは、シュクル逮捕に500万ドルの懸賞金を出していた。イスラエルは、シャクルの暗殺の前にアメリカにも連絡をしていたと考えられている。
イスラエルが、暗殺を認める声明を出したのは、ヒズボラが反撃した場合、アメリカが黙っていないという形を作ったということである。イランがイスラエルを攻撃しない限り、ヒズボラが、単独でイスラエルへの反撃をするのは、かなりハードルが高いといえる。
2)イランの核兵器完成の前という時間
イラン国内で、重要人物が暗殺されるのは、これに始まったことではない。しかし、今回は、イランの首都テヘランで、しかもその新大統領の就任式において、来客のハニエが暗殺されるという、イランにとっては、非常に大きな屈辱となった。
ハニエは、通常はカタールにいる他、最近ではトルコも訪問していた。しかし、それらの国々ではなく、あえてテヘランで暗殺されたということである。
これは、イスラエルが暗殺したとすれば、カタールであれば、薄いながらも続いている湾岸諸国との関係に影響する可能性があり、トルコであれば、EUとの関係に問題が出てくることへの配慮もあったと考えられる。
イランの現政権にとっては、このまま何もしないわけにはいかないだろう。しかし、イランにとって、今はまだイスラエルとの本格的な戦争に突入する時期ではないと考えられる事情もある。
イランは、1週間から10日以内で、核兵器を完成できると言われているが、それを搭載する特殊なミサイルなどの開発については、あと1年以上はかかるとみられている。
核兵器が使用可能状態であれば、北朝鮮のように、アメリカもそう易々とイランを攻撃することはできない。しかし、核兵器がない間は、アメリカがイスラエルの側に立って攻撃してくる可能性がある。このため、これまでにもさまざまなイスラエルからの攻撃があったが、我慢我慢で、大きな反撃や戦闘を避ける様相であった。
この4月、イランは、イスラエルに向けて、さまざまなミサイルやドローンを300発以上発射したが、イスラエルの迎撃システムにアメリカやヨルダンまでが協力して、それらをほぼすべて迎撃した。将来の戦争に向けて、もしかしたらイランがお試しをしていた可能性も考えられなくもない。
この、いわば“待ち時間”の間、イランは、ハマスやヒズボラを使って、イスラエル南北の国境への攻撃でイスラエル市民を多数殺害して麻痺させてきた。
また、ハマスに人質を返させず、イスラエル人最大10万人以上を国内避難民にすることで、イスラエル国内では、反政府の勢いが高まり、分断の様相がエスカレートしている。イランは、イスラエルを攻撃しないで、イスラエルが自ら分裂、消滅していくのを眺める立場にあった。
しかし、今、その状況が一変。ここまでの屈辱を受けて、反撃しないイラン政権、また反撃しても、勝てなかった場合、今の政権をイラン国民がそのまま受け入れるとは考えにくく、崩壊する可能性が出てきている。では今、イスラエルに反撃をするのか? ボールは今、イランの手にある状態となった。
www.ynetnews.com/article/b1bw2ypta
イラン・ハメネイ師はイスラエル攻撃を指示か:ネタニヤフ首相は市民に警告
こうした中、ニューヨークタイムスが伝えたところによると、イランの高官らの情報として、ハメネイ師が、テヘランでハニエが暗殺された日の朝、すでに、イスラエル攻撃と、イラン国内には、攻撃と防衛の準備を進めるよう、指示したもようと伝えた、
www.timesofisrael.com/khamenei-said-to-order-direct-strike-on-israel-after-haniyeh-killed-in-tehran/
同じ日の夕刻、ネタニヤフ首相は、31日朝、3時間にわたる安全保障閣僚会議を行った後、国民にむけて、「困難な日々が予想される」と呼びかけた。
ネタニヤフ首相は、「あらゆるシナリオに備えており、イスラエルへの脅威には、非常に重い代償が伴うことになる。我々は団結し、断固として立ち上がる。」と述べた。
www.timesofisrael.com/netanyahu-challenging-days-ahead-israel-will-exact-heavy-price-for-any-attack/
アメリカとロシア:国際社会の反応
アメリカは、テヘランでのハニエ暗殺については、聞かされていなかったと主張し、その関与は認めていない。
しかし、オースティン米国防相は、緩和に向けた努力を優先するとしながらも、4月のイランのミサイル攻撃の時のことを挙げ、イスラエルが攻撃されたら、アメリカは必ずイスラエルの防衛に立つと表明した。
一方、ロシアは、外務省報道官が、ハニエを暗殺をした者は、地域がこの危機に陥ることを察していたと非難。また中東の政治的解決を独占しようとするアメリカの欲望がこの危機を招いたと言っている。
国連では、31日、この件に関する緊急の安保理が開催された。イランが、2件の暗殺をテロ行為だと強く訴えたのに対し、ロシアと中国は、同じく2件の暗殺事件を非難した。
一方、アメリカと、イギリス、フランスは、イランが、(テロ組織を使って)地域を不安定化させる要因を作っているとイランの方を非難した。結局、いつものごとく、安保理は何の声明も出せないで終わった。
大手航空会社がイスラエル乗り入れを停止
どちらに転ぶのか、この数日の間、世界は固唾を飲んで、見守ることになる。
危険を回避するためか、複数の航空会社が、ここ数日の間のイスラエルへの乗り入れ便をキャンセルしている。
一時フライトキャンセルを発表したのは、ユナイテッド航空、ブリティッシュ航空、デルタ航空は一部。ルフトハンザは、いったんキプロスを経由し、安全確認してからテルアビブに乗り入れると言っていた。
最新ニュースでは、キプロスからテルアビブには行かず、ミュンヘンへ帰ったとのこと。
イスラエルのエルアル航空は、これまでと同様の運行を続ける。なお、31日の時点では、ベン・グリオン空港はまだ通常の様相であったとのこと。
www.ynetnews.com/travel/article/sy8vtwufr
なお、レバノンのベイルート入りする便も多くがキャンセルとなっている。
石のひとりごと
情報が多く、なかなかまとめるまでに時間がかかる。しかし、ニュースはどんどん進む。大きな戦争になり、大勢の救われてない人々が死ぬことに対し、今主にとりなす時である。
また、イスラエルに対する非難が高まる傾向にあり、オリンピックに出場している88人のイスラエル人選手団の警備は最大限になっているという。88人の選手とその関係者、応援でパリに来ているイスラエル人たちの心身、霊が守られるように。