アメリカは、イスラエルにとって最大の敵対国イランとも対立路線を強めている。
<核合意延長も交渉期限は120日:トランプ大統領>
トランプ大統領は、昨年10月、2015年にオバマ大統領が筆頭となりイランと交わした核合意は、悪い取引だったとして、アメリカは、次回の合意延長には署名せず、厳しい経済制裁の再開を示唆していた。
アメリカ議会は、2015年に交わされたイランとの合意について、3ヶ月ごとに見直しをすることになっている。昨年10月から3ヶ月後を1月11日に迎え、世界の注目が集まった。
予想通り、トランプ大統領は、これを延長すると発表した。ただし、次回120日後までに、合意内容に変更がなければ、次回は延長しないという最後通告つきであった。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5070019,00.html
*2015年イランとの国際合意
2015年のイランとの核合意とは、「イランは核(兵器)開発を停止するかわりに、課されていた経済封鎖を大幅に緩和する。」というもので、オバマ前米大統領が筆頭となり、ロシア、中国、イギリス、フランス、ドイツという世界6超大国とEUが交わした合意である。
しかし、この合意では、イランに核開発を10年保留にすると約束させただけで、開発開発再開の施設類は、そのまま温存された形となっている。その状態で経済制裁が緩和されて資金が流入するようになっているのである。
期限切れの10年が来れば、イランは、大手をふって、核開発を始めることが可能となる。その上、この合意は、通常兵器、つまり核兵器以外の兵器の開発には触れていなかった。
このため、経済制裁緩和で大量の外貨がイランに入るようになった今、イランは、ミサイル開発を行っており、弾道ミサイルの発射実験まで行っている。
トランプ大統領が出てくるまで、この合意は危険だと叫んでいたのはイスラエルだけであった。
www.bbc.com/news/world-middle-east-33521655
<イランへの経済制裁再開への必要性と回避の条件:トランプ大統領>
トランプ大統領は、公式の発表の際、イランが、ヒズボラやハマスなどのテロ組織を支援していること。武器支援の他、10万人以上のテロリストを育成して、中東全体を不安定にしていると指摘した。
また、イランが核兵器以外の危険な武器を開発していることをあげ、これまでに弾道ミサイル開発にかかわっているといられる100人以上を制裁措置に置いたと語った。
さらに、アメリカはイランの14の組織や人物を新たに制裁措置におくという。その中には、ハメネイ最高指導者に関係する裁判官も含まれている。
トランプ大統領は、国際社会との合意により、イラン経済に回復した金額は1000億ドル(12兆円)、うち現金は18億ドル(2000億円)にのぼると指摘。それらが、国民のためでなく、武器開発に使われていると訴えた。(以下に述べるが、12月末からイラン国民の反体制デモが発生した)
これらのことから、トランプ大統領は、次の4点をあげ、イランに関する3点が実施されないならば、次回3ヶ月後に、アメリカはイランとの国際合意から離脱し、イランへの経済制裁を再開すると宣言した。その4点とは以下のとおり。
①国際監視組織(IAEAなど)の要請に応じ、ただちに全核施設の査察に応じること。
②核兵器の開発に近づくことすらしないと約束すること。
③核開発保留の期限を10年とせず、永遠に放棄すること。
これらをイランが承服しないなら、アメリカは、国際合意から離脱し、経済制裁を再開する。
④(アメリカ自身について)アメリカは法律にて、長距離ミサイルの開発と核兵器開発とを別扱いしないということを法律に盛り込む。
*長距離ミサイルの最終目標は、弾頭に核を積み込み、遠距離の敵国を攻撃することにある。近年、長距離弾道ミサイルと核兵器開発は平行して行なわれている。アメリカは、北朝鮮の核弾頭つき弾道ミサイルの懸念に直面している。
www.timesofisrael.com/full-text-of-trumps-statement-on-iran-nuclear-deal/
トランプ大統領の言っていることは、イスラエルの言い分を代弁したかのような内容であり、まさに「裸の王様」的に、真実を網羅しているといえる。
しかし、いったん国際合意になってしまっている以上、アメリカの合意離脱はよほどうまくやらないと、逆にイランに核開発再開に口実を与えることになる。
実際、昨年10月にトランプ大統領が離脱を示唆すると、イランのハメネイ最高指導者は、「そうなれば、イランも離脱する。イランは核開発を行う。」と言っていた。
国際社会、特にヨーロッパは、イランとの合意の意地を主張している。したがって、アメリカが合意から離脱すれば、アメリカは、いよいよ国際社会から孤立することになるだろう。そのアメリカの支援を受けているイスラエルも今以上の憎しみをこうむることになる。
とはいえ、アメリカがイランの核問題にどう出るかは、北朝鮮問題にも大きく影響することになる。トランプ大統領、世界を背負って、相当な知恵を必要とする立場に立たされている。(自ら招いたともいえるが。。。)
<イランの反応:合意内容に変化はありえない>
トランプ大統領の上記公式発言に対し、イランのザリフ外相は、イラン国営放送を通じて、「合意のいかなる変更も受け入れない。」と発表。”イランと同様”、アメリカは約束を守るべきだと語った。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5070225,00.html
イランのロウハニ大統領は、アメリカが、今回も合意を延長したことを評価し、イランの勝利だと語った。また、弾道ミサイルの開発については、「核開発ができなくなっているイランにとって、弾道ミサイルは、不安定な中東で生き延びるための唯一の方策だ。」として、ミサイル開発は続けると語った。
www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/240631
また、アメリカが、イランの裁判官を制裁対象にしたことについて、報復すると発している。
<イスラエルの反応>
イスラエルのネタニヤフ首相は、フランスのマクロン大統領に電話をかけ、「トランプ大統領の訴えを真剣に受け止め、イランとの核合意の見直しをおこなうよう、訴えた。
特にマクロン大統領に電話したのは、トランプ大統領の発表の前に、核合意に変更はないと主張していたのが、同大統領であったからである。トランプ大統領は上記演説にて、ヨーロッパ諸国に対し、アメリカとともに、イランとの合意を見直すよう呼びかけていた。
<イランの反体制デモ:今回も沈静化>
イランでは、12月28日、イラン第二の都市マシュハドで反政府デモが発生した。デモは数日の間に、北西部各地の都市に広がり、やがては、テヘラン大学にまで広がった。
BBCによると、デモの規模は、都市によって、数十人から数千人で、2009年に発生した反政府デモほどの規模にはならなかったが、それ以来では最大。また、今回は、最高指導者ハメネイ師への非難まで出てきたことが注目されている。
今回のデモ隊は、最初は食物の価格高騰など、経済問題だった。イランのロウハニ大統領は、国際社会のイランへの経済制裁緩和を獲得し、経済の改善を約束していたが、今に至るまで、イランの経済は回復せず、教育を受けている若者でも仕事がない状況が続いている。(15−29歳の失業率は、公式の統計によると24%)
デモ隊の叫びは、やがて、「レバノンではない。ガザではない。私はイラン人だ。」と、内政よりも、シリアやイエメンの内戦に介入し、ヒズボラやハマスを支援する政府への怒りに変わっていった。
やがて非難の的はロウハニ大統領から、ハメネイ最高指導者へと拡大していった。警察が対処していたが、やがてイラン革命軍が出動し、デモ隊と衝突して全国で、少なくとも21人が死亡。1000人以上が逮捕された。うち90人が大学生だという。1人は獄中で自殺した。
1月に入ると、大規模な親政府デモが発生した。反政府デモの参加者の様相は、ごく普通の人々だが、こちらは、男性の多くはターバン姿、女性たちはみな黒のヒジャブ姿で、イスラム教とそのものといった様相である。
反政府デモ隊が叫んでいたのは、「ロウハニに死を」であったが、親政府デモ隊は、「アメリカに死を。イスラエルとともに滅びよ。」であった。この親政府モが発生して4日目の1月7日、反政府デモは沈静化した。
以後、反政府デモの写真はネット上、ほとんど出なくなった。顔がわかると逮捕されるような恐怖の日々に戻ったとみられる。この後、イラン政府は、小学生への敵国の言語であるとして英語教育を禁止すると発表。ソーシャルメディアの監視とコントロールを強化すると伝えられている。
www.timesofisrael.com/anti-government-protests-break-out-in-iran-over-economic-woes/
イランの人々は高学歴であり、民主国家を望んでいると思われる。しかし、強力なイスラム政権が、国をがっちりと支配しており、デモは発生するのだが、毎回取り押さえられている。しかし、可能性は十分あるとアメリカとイスラエルは期待するところである。
トランプ大統領は、今回のデモ隊を応援し、適切な時にアメリカが支援するなどと日々ツイッターに書き込んだ。イスラエルのネタニヤフ首相は、イランの人々の自由への挑戦に成功を祈るとのコメントを発表した。
これに対し、イランは、このデモは、イスラエルとCIA(アメリカ情報局)が仕組んだものだなどと反発した。
edition.cnn.com/2017/12/30/politics/donald-trump-iran-protests/index.html
<自然災害にみまわれるイランとアメリカ>
緊張が続くイランとアメリカだが、双方とも自然災害に見舞われている。イランでは、昨年11月12日、マグニチュード7.3の地震が、イランとイラクの国境付近で発生。530人が死亡した。この余震とみられる地震が今年1月11日、同じ地域で8回、記録された。
www.aljazeera.com/news/2017/11/iran-iraq-earthquake-happened-171113064624001.html
アメリカでは、昨年から、巨大なハリケーンや、山火事など、深刻な災難が続いているが、1月11日、カリフォルニアで、激しい雨の後に地滑りが発生し、少なくとも17人が死亡した。
www.bbc.co.uk/newsround/42632376
<石のひとりごと>
イランとはペルシャのことである。かつて、バビロンによって祖国を追われたユダヤ人を今のイスラエルの地に帰還させたのは、ユダヤ人を支配していたいわば、敵ともいえる、ペルシャの王であった。(エズラ記1:1−4)
まさかそのペルシャの王から突然、祖国への帰還を命じられるとは、当時だれも考えていなかっただろう。神のなさることは、私たちにはとうてい信じ得ないことが多いのである。
バルフォア宣言しかり。イスラエルはイスラエルだけで独立するのではなく、異邦の国々が用いられて、それが可能になるというのがパターンのようである。
聖書には、世の終わりにエルサレムにもう一度ユダヤ人の神殿が建てられると預言されているが、ひょっとして、まったくの予想外に現在のペルシャであるイランがそれを可能にするのでは!?と、状況が不可能になればなるほど、期待してしまうところである。