イランからガザへ:優先順位は人質解放とネタニヤフ首相に変化? 2025.6.30

イスラエル軍の激しいガザへの攻撃再開:イスラエル兵も1人戦死

現状はどうかはまだ明らかではないが、イランではまだハメネイ政権が健在ぶりを強調している。しかし、イスラエルは、イランをかなり弱体化したとみている。

イランとの停戦が発効された後、イスラエル軍は、ガザでの戦闘拡大を再開した。

イスラエルは、5月末より、2ヶ月以内に、ガザ全域の 75%を支配下に置くことを目標に、ガザへの戦闘を拡大していた。

戦死者をできるだけ出さない中で、人質の捜索を行うこと、また、トンネルの破壊、ハマスなどテロリスト拠点、武器の破壊を行うためである。すでに、目標はかなり達成に近づいているとみられる。

6月29日(日)には、イスラエルは、ガザ北部のジャバリアから、ガザ市も含む広範囲の地域に対し、警告を発し、その後、その地域のテロリスト関連への攻撃を実施した。

この戦闘で、破壊された家屋も複数あり、少なくとも6人が死亡したとのこと。

しかし、ハマスによると、この日の戦闘では、ガザ全土5か所でも空爆があり、この日だけで、子供3人を含む17人が死亡したと伝えている。

しかし、この日、イスラエル兵1人も、ジャバリアで、仕掛けられた爆弾が爆発した際に死亡した。死亡したのは、イスラエル・ナタン・ローゼンフェルド軍曹(20)。

ナタンさんは、11年前に家族と一緒にイギリスから移住していた人である。ナタンさんの妹は、兄だけでなく、ボーイフレンドを10月7日にハマスによって殺害されていた。

ガザでは、24日(火)、イスラエル兵7人が死亡していた。イスラエル軍戦死者は、6月に入ってからだけで20人。ガザでの地上戦が始まってからの戦死者は441人となった。

www.timesofisrael.com/idf-soldier-killed-in-combat-in-northern-gaza/

3週間ぶり・テルアビブでの人質解放デモに数千人“勇気ある決断を”

テルアビブでは、6月28日(土)安息日明けの夜、イランとの停戦発効により、集会人数制限がない状態での人質解放と戦争終結を訴えるデモが行われた。3週間ぶりのデモで、参加者は数千人に上っていた。

ガザには、まだ人質が50人おり、このうち生存者は20人と推測されている。トランプ大統領は、27日(金)に、イランに続いて、ガザでも停戦が来週中にも実現すると表明している。

イランに勝利したような様相にある今、有利な立場で、交渉ができるとの期待から、デモ隊は、政府が、勇気ある決断を行い、ハマスとの交渉で全員を解放させるよう、訴えた。

www.timesofisrael.com/make-a-brave-decision-thousands-in-tel-aviv-demand-pm-seal-gaza-hostage-release-deal/

ネタニヤフ首相が優先度をハマス殲滅から人質解放へ移行か

ネタニヤフ首相は、6月29日(日)、イランへの攻撃を終えた今、中東が変化の可能性にあるとして、アブラハム合意拡大とともに、まずはガザにいる人質を解放する必要があると表明した。

この発言により、ネタニヤフ首相のガザでの優先順位が、ハマス殲滅から人質解放に変わったと注目されている。

その背景には、トランプ大統領が、イランとは停戦になったのだから、次はガザだと交渉への圧力がかけられているとみられているが、ガザでの支配域もかなり目標に達していることもあるのではないかと思う。

www.timesofisrael.com/pm-iran-war-opened-broad-regional-possibilities-first-we-need-to-free-the-hostages/

なお、「アブラハム合意」拡大について、今特に可能性として上っているのは、サウジアラビアとシリアである。

ガザ周辺住民7地域に帰還許可

こうした中、イランからの支援が滞ることで、ハマスがもはや、危機的な存在でなくなったと見ているのか、イスラエル政府は、ガザ周辺の13地域のうち、7地域の住民は、ただちに帰還してもよいと発表した。

ナハル・オズを含むこれらの地域では、復興工事が進められている。その後数ヶ月後には、さらに帰還許可が広がることになるという。

良いニュースのように聞こえるが、要するに、7地域の住民がホテルなどに滞在している避難の支援を停止するということである。これらの地域の住民は、もし帰宅しない場合、7月31日以降、支援が受けられなくなる。

最悪の被害を受けたキブツの一つ、ニール・オズでは、復興の3億5000万シェケル(約150億円)かかるとみられており、国がどの程度支援するか、まだ明らかになっておらず、住民はまだ帰還できるみこみはなっていない。

www.timesofisrael.com/state-approves-immediate-return-home-of-7-of-13-worst-hit-gaza-border-communities/

石のひとりごと

10月7日事件から、もう1年8ヶ月。イスラエル人たちの人質になっている同胞へのこの継続した想いには、感動させられる。

背後で極左や、陰謀論めいた何かがあるとも言われてはいるが、それだけで数千人は集まらないだろう。

真摯に、人質家族を想い、また戦争に行っている息子たちの帰還を願う親たちとも思いを共有する人もいるだろう。

国(1000万人)が小さいからかもしれないが、他人でも同胞だというだけで、痛みを共有するイスラエル人たちである。

ガザ情勢はまだまだ非常に厳しいが、なんとか、人質解放に向かってくれればと思う。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。