サウジアラビアの石油施設攻撃に続いて、核合意離脱措置第4弾と、イランがひるむ様子はないが、イラクとレバノンでは、反政府デモから、その政府に影響を及ぼしているイランに対する敵対を表明する大規模なデモが、イラクとレバノンで拡大、継続中である。
イスラエルは、基本的に他国へは干渉しない方針だが、この流れがイランにどう影響してくるのか注目している。
<イラク市民:反政府・反イランデモ>
イラクでは、10月に入ってから、経済悪化を改善できない政府に対する市民デモが始まった。デモ隊は、サダム・フセイン後の政府になってから経済悪化が改善しないことや、イラク人ではない勢力に牛耳られているとして反発しているのである。
最初のデモの波で149人が死亡。警察との暴力が発生すると、反政府デモは徐々に拡大し、11月1日からは、首都バグダッドのタクリル広場に20万人が集まる大きなデモとなった。警察は催涙弾を使うなど暴力的な衝突となり、最初にデモが始まってから250人以上が死亡。9000人以上が負傷したとのこと。
www.bbc.com/news/world-middle-east-50280498
さらにこの反政府デモは、イラク政府を支援しているイランにも向かった。4日、群衆は、バグダッドの南、カルバラのイラン大使館を襲撃。「カルバラは自由だ。イランは出て行け」と叫んだ。この衝突で少なくとも3人が死亡した。
イラクのマフディ首相は、新しい選挙後に辞任することを提案したが、群衆は、今の政府全部をまるまる排斥することを求めているとのこと。
イラクの群衆は、シーア派でもあるので、シーア派だからといって、皆イランを支援しているわけではないということである。
www.bbc.com/news/world-middle-east-50287644
<レバノンの反政府でハリリ首相辞任>
10月17日、レバノン政府が、たばこと、ソーシャルネットワークのワッツアップに税金をかけようとしたことがきっかけとなり、ベイルートでデモがはじまった。政府はこれをすぐにキャンセルしたが、デモは、大群衆となってその後も続き、10月29日、ハリリ首相が辞任に追い込まれた。
市民の怒りは、今回の税金のことだけではない。イラクと同様、レバノン経済は、改善するどころか、国の借金は今やGDPの150%にまで膨れ上がっていること、また政府内にはびこる汚職に市民の怒りが爆発したということである。
レバノンは、クリスチャンとイスラム教(スンニ派とシーア派)が半々の国。そのために長い内戦が続き、1989年に、大統領はクリスチャン、首相はスンニ派、議会はシーア派と定められた。
しかし、これが逆に、それぞれの政治家が国よりもそれぞれの宗派を庇護する傾向にあるため、国の分裂と汚職を生む結果になっているのである。
デモ隊は、イラクと同様、国家体制まるまるの変革を求めて、ベイルートの主要道路を閉鎖するなどして、今もまだ続いている。それぞれがそれぞれの訴えをして混乱が続いている。しかし、今後、アウン大統領が、新しい首相と政府を任命するのを待つ状態だが、実際にはまるまるの変革は難しいとみられている。
選択肢としては、結局新しい政府に再びハリリ首相が戻ってくるパターン。またアウン大統領が指示するヒズボラが時期政府を牛耳るパターン。もしくは、まったく新しい政府への移行である。しかし、今のところ、3番目のパターンは難しいとみられている。
www.aljazeera.com/news/2019/10/lebanon-eyes-hezbollah-allies-hariri-resignation-191031171809685.html
*イスラエルとの関連
イスラエルとしては、このデモで、ヒズボラが弱体化することを期待している。またレバノン経済の回復をEUが行い、ヒズボラの活動の制限をその条件とするよう要請しているという情報もある。
しかし、一方で、アウン大統領とヒズボラが、市民の目をそらすために、逆に、イスラエルを攻撃してくる可能性もある。この場合のイスラエルの対処は事情に難しいものになると懸念されている。
イスラエルがヒズボラの攻撃を受けると、一気に反撃を余儀なくされるが、そうなると多数の市民に犠牲が出て、世界からは、イスラエルが悪の根源呼ばわりになるからである。
ヒズボラは弱体化するか否か。まだ先は全く見えない。イスラエル軍は、レバノンの動きを注意深く見守っている。
www.timesofisrael.com/wary-of-hezbollah-israel-unsure-if-lebanon-turmoil-an-opportunity-or-threat/