9月10日、オバマ大統領は、イスラム国絶滅に向けて、シリアにまで空爆範囲を広げるとの方針を明らかにした。
アメリカは8月からすでにイラク国内にいるイスラム国に対し、150回以上に及ぶ空爆を行っているが、それをシリアにまで拡大してイスラム国を絶滅させるという、いわば宣戦布告である。
しかし、シリアは混乱を極めている。シリアでは、アルカイダを筆頭とする様々な反政府勢力がイスラム国と戦っている。その敵であるアサド大統領のシリア軍もイスラム国と戦っている。
つまり、アメリカがシリア領内でイスラム国を空爆した場合、アルカイダとシリア軍(これに協力するヒズボラやイラン)という、いずれもアメリカが敵対して来た組織たちも益を得てしまうことになる。
泥沼に入らないよう、これまで通り、アメリカの地上軍がイラクやシリアに入る事はない。あくまでも、地元のイラク軍やクルド軍、(アルカイダやシリア軍は支援しないで)シリアの穏健派反政府勢力を、援護空爆と軍事訓練などで支援する形で、長期戦になるとの展望だ。
またアメリカは、シリアやイラク難民を受け入れている国々に対し、5億ドル(550億円)を支援する。
こうしたオバマ政権の方策に対し、アメリカ議会からは、「空爆だけでは効果は期待できず、結局無駄骨になる」、「5億ドルも税金から払う義務はない」、など様々な批判も出ている。
かつて、アルカイダ攻撃に立ち上がったジョージ・ブッシュ元米代大統領は「戦争」ということばを使い、後に批判をあびた。相手はテロ組織という、いわば犯罪組織なので、「戦争」はふさわしくないからである。
ケリー国務長官は「イスラム「国」という言葉は誤解を招く。イスラム国は国ではなくテロ組織。これは、主要な対テロ作戦である。」と強調した。
<対イスラム国・連合グループ形成>
今回、アメリカが大きな動きに出る直前、イラクでアバディ首相を中心とする新政権が発足した。アメリカはこの政権を支援してイラクの安定化を実現したいと考えている。アバディ首相もこれを歓迎している。
現在、ケリー国務長官が、サウジアラビアなど中東を歴訪し、イスラム国絶滅作戦への協力を要請している。
イスラムの聖地メッカとメディナを持つサウジアラビアが、連合グループ側にいることには大きな意味がある。これはイスラムの”錦の御旗”をかかげているようなもので、連合側が官軍、イスラム国は賊軍、というわけである。
またNATO軍(欧米)中心で、イスラム国と戦ったのでは、キリスト教対イスラム教という図式になってしまう。地元アラブ諸国に協力するという形にしなければならない。
12日、ケリー国務長官は、サウジアラビアを訪問。同国を筆頭に、湾岸9カ国が対イスラム国作戦に協力すると表明した。
ただし、アラブ諸国も地上軍をイラクやシリアに派遣せず、主に戦闘員訓練や資金面の他、アメリカの空軍が領空を通過するのを認めることなどが主要な協力となる。
13日、ケリー氏はトルコ入りして、エルドアン大統領と会談中である。トルコは、シリアと国境を接する重要な国だが、今のところ、この連合に名前を連ねることを拒否している。トルコ南部の領空通過も受け入れない構えである。
理由は、6月にイラクのトルコ大使館が襲撃され、トルコ人外交官ら49人が、イスラム国に拉致されたままとなっており、彼らに危険が及ぶことを恐れているのではないかと考えられている。
また、ロシアは国連抜きでのこうした動きには協力できないと表明した。
<イランも連合グループに入る。。。かも>
複雑なのはイラン。イランはこれまでアメリカを「大きなサタン(小さなサタンはイスラエル)」と呼んで憎んで来た国である。今でも核開発をめぐって、アメリカとは、基本的に敵対する関係にある。
しかしイランは、シーア派なので、スンニ派のイスラム国が隣国イラクで台頭することはどうしても押さえたい。今月初頭、イランの最高指導者ハメネイ師は、アメリカに協力してもよいと表明した。
今後、イランが、アメリカと連合グループにどうかかわってくるかが注目される。
<世界が動くほどイスラム国の何が危険なのか?>
オバマ大統領は戦争をできるだけ回避しようとする大統領である。昨年、シリアを攻撃を直前になって回避している。それが今になって、シリアも含めて攻撃するという。何がそんなに危険なのか。
イスラム国(ISIS)は、いわば、”イスラムのリバイバル””アラーへの立ち返り”のような勢いと思ってもらったらよい。
イスラム国は、その大きさも支持系統も明確ではないのだが、自然に加入する者が増やされており、アメリカ中央情報局(CIA)は、13日、イスラム国メンバーは3万1000人と、当初の予測1万人の3倍になっていると発表した。このうち15000人が外国人で、2000人が欧米人、アメリカ人は12人とCNNは伝えている。
イスラム国の最高指導者アブ・バクル・バグダディは、神からの預言者、カリフとしてますます霊的な影響力を持ち始めている。各地で信者はアラーのため、アブバクルのため、財産と命を差し出すとの誓いをしている。11才の子供までがそれを告白するに至っている。
www.youtube.com/watch?v=bsCZzpmbEcs 6分程度のイスラム国のメンバー取材映像 5回シリーズ
イスラム国は今、サウジアラビアのメッカとメディナを解放しようと呼びかけている。サウジアラビアでは、なんと国民の 92%は、イスラム国の主張はイスラムの教えにかなっていると答えている。サウジアラビア各地にイスラム国支部がすでにあるのだという。http://www.inss.org.il/index.aspx?id=4538&articleid=7636
またイスラム国はソーシャルメディアを効果的に利用し、職を失って悶々としている世界中の若者たちを感化し続けている。13日、イギリスに続いてオーストラリアも、テロ警戒態勢のレベルを上げたと発表した。
サウジアラビアはアメリカに対し、「もし今イスラム国に対処しなければ、1ヶ月以内にまずヨーロッパ。次にアメリカが攻撃されるだろう。」と警告した。こうした事態を受けて、戦争には腰の重かったオバマ大統領が、「アメリカを守るため」として立ち上がったのである。
しかし、またおそらく、イラクと中東全体の油田を守るという目的もあるだろう。ただし、アメリカ自身は、シェールガスがあるので、昔ほど中東の石油に頼っているわけではない。
<イスラエルの立場>
イスラエルは、ゴラン高原をはさんでシリアとは国境を接している。イスラエルも、イスラエルもまた当事者国の一つである。ネタニヤフ首相は、オバマ大統領の方針を全面的にバックアップするとの意向を発表した。
しかし、イスラエルはガザとの戦後処理が終わっておらず、西岸地区の土地を一部国有化しようとしたこともあり、世界の国々からボイコットされる立場である。いろいろとややこしくなるので、イスラエルがこの連合グループに入ることはない。
しかし、イスラエルは、中東の真ん中でイスラム過激派と戦ってきたいわばこの道のプロ。直接グループに入っていなくても、背後で、アメリカに情報を提供し、協力するとみられている。こうした世界の一致をチャンスと分析する専門家もいる。
*ゴラン高原で拉致されたUNDOFのフィジー軍兵士43人無事解放
ゴラン高原のシリア側は、2週間前からアルカイダ系アル・ヌスラが支配するようになっているが、そのときの戦闘で拉致されていたUNDOFのフィジー軍兵士ら43人が無事にイスラエル側へ解放された。