イスラエル軍と米軍がシリア各地の危険地点を空爆:IDFゴラン高原シリアとの緩衝地帯制圧 2024.12.9

Prime Minister Benjamin Netanyahu, right, tours Mount Bental on Israel's border with Syria along with military officers and Defense Minister Israel Katz, left, on December 8, 2024. (Kobi Gideon/GPO)

シリアを制圧した反政府勢力、その主要な勢力であるHTSの指導者アル・ジェラニは、今の所、イスラエルに寛大な姿勢を見せている。

しかし、HTSは、今は決別したとはいえ、元アルカイダで、聖戦主義組織である。初めは寛大な姿勢でも、いつ過激なイスラム主義に転じる可能性は小さくない。

また、反政府勢力は、HTSの他にも少なくとも3組織がシリアで支配域を持っている。それらがどう出てくるかもわからない。今はシリアから出ていったイランが、今後どう出てくるもわからない。あらゆる点で、楽観は禁物である。

イスラエル軍がシリア各地の武器庫など危険地点を攻撃:化学兵器関連も

今後の混乱が予想される中、イスラエル空軍は、12月7日(土)夜から8日(日)にかけて、戦闘機数十機で、シリア各地にある戦略兵器保管地など10か所を空爆し、武力の無力化を図った。

アサド政権が保有していた、危険な兵器が、テロ組織の手に渡ることを避けるためとしている。破壊した兵器は、最新のミサイル、誘導ミサイル、防空システム、兵器製造工場で、化学兵器関連の施設も攻撃していた。

攻撃した地域は、ダマスカス郊外のメゼ空軍基地の他、安全保障施設、政府研究センターを空爆。隣接する関税本部、軍事情報局にも大きな被害が出て、軍事機密情報や、イラン科学者によるミサイル開発情報も失われたとみられる。

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南部では、ダラア県とスゥエイダ県で空爆が報告されており。スウェイダ郊外のハルカラ空軍基地も攻撃されていた。これらの空爆は、非常に焦点のあたったものであり、死傷者が出たという報告はない。

また、8日(日)には、米軍が、戦闘機でシリア中部のIS(イスラム国)関係の拠点75か所以上を空爆し、組織のメンバーが死亡している。

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イスラエルがシリアとの緩衝地帯から周辺シリア領内を制圧:住民には警告後

イスラエル軍はまた、イスラエルとシリアの間にある緩衝地帯(ピンクの部分)からシリア軍が撤退したことを受けて、その地域の制圧にも踏み切った。

制圧した地域は、一部、緩衝地帯周辺のシリア領内も含まれている。

この地域は、ヘルモン山を含む高台で、シリアやレバノンも見下ろす位置にあり、戦略的にも非常に重要な地域である。しかし、イスラエルは、この制圧は、シリア国内に混乱に伴う、一時的な措置であること、またシリア反政府具勢力HTSとは無関係であることも強調している。

なお、この地域では、UNDOF(国連兵力引き離し隊)がイスラエルとシリアの停戦を監視しているが、イスラエルは、UNDOFとの連携を図っており、衝突は発生していない。また、イスラエル軍は、この地域に住む住民たちに、家から出ないよう警告してから、作戦に踏み切っていた。死傷者は報告されていない。

イスラエル軍のハレヴィ参謀総長は、IDF精鋭、ゴラン旅団の新兵たちへの演説の中で、イスラエルは、今、ヨルダン川西岸地区、ガザ、レバノン、そしてシリアという4局面での戦闘に直面することになったと語った。

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*シリア緩衝地帯

シリア緩衝地帯は、1973年の第四次中東戦争(ヨム・キプール戦争)後、1974年に締結された合意により,ゴラン高原のイスラエルとシリアの国境を挟む形で制定された地域である。

この時、PKO(国連平和維持活動)の枠組みで、UNDOF(国連兵力引き離し隊)を設立され、ポーランド、オーストリア、カナダ、スロバキア、インド、日本が兵力を出して運営されてきた。

日本の自衛隊は、1996年から最大3人で、後方支援の運送を担当したが、現地の治安悪化が著しく、隊員の無事を確保できなくなったことから、17年後の2013年に撤退している。

ネタニヤフ首相がゴラン高原ベンタル山から世界にメッセージ

ネタニヤフ首相は8日(日)、カッツ国防相とともに、シリアとの国境を見下ろすベンタル山を視察。そこから世界に向けて、英語でメッセージを発した。

ネタニヤフ首相は、シリアのアサド政権が崩壊し、イスラエルがこの緩衝地帯を制圧したことは、中東に新たなチャンスとともに、新たな危機ももたらす、歴史的な日だと語る。

ネタニヤフ首相は、「これは、イスラエルが、アサド政権の主な支持基盤であったヒズボラとイランに打撃を与えた結果であり、先制的な独裁政治に不満を持つ人々の連鎖反応の突破口になった。

しかし、これは同時に、私たちは、起こりうる全てに事に対応しなければならないということでもある。その一つは、1974年に成立し、50年続いてきた、イスラエルとシリアの合意が、昨夜、崩壊したという点である。

シリア軍は、駐屯地から離脱した。そのため、その場所に入って、過激な組織が入ってこないようにするよう指示した。イスラエルの国境線のすぐ外側だからである。これは、よい代替策が出てくるまでの一時的な方策である。私たちは国境の向こうにいる、すべてのシリアの人々、ドルーズ人、クルド人、クリスチャン、そして、平和に生きたいと願うイスラム教徒にも、手を差し伸べるつもりだ。

今状況を見ている。隣人として、平和な関係が築けるような政権が、シリアに出てくることを願っている。しかし、そうならないなら、イスラエルの国とその国境を守るためには、あらゆる事をしていくことになる。」と語った。

石のひとりごと

イスラエルの戦闘の前線は、4方向になった。しかし、シリア人分析家ハゼム・アルガブラ氏は、中東でイスラエルは今、最も恐れられる勢力になったと言っていた。

イスラエルがハマスとヒズボラを、撃退し、今やイランをもシリアから追放する勢いにあるためである。中東は、やはり、実質の力がものを言う地域だと思う。

今後、ハマスとの交渉も、イスラエルに有利に動いていく可能性もささやかれている。また、イスラエルの最大の期待は、この反政府勢力の動きが、イラン国内に連鎖していくことである。今後、イランがどう出てくるのかが、焦点である。

中東はとにかく予想外だらけである。すべての専門家が、「自分の分析どおりにはいかないかもしれないが」と強調する時代に入っている。

私は一心に知恵を知り、昼も夜も眠らずに、地上で行われる人の仕事を見ようとしたとき、すべては神のみわざであることがわかった。

人は日の下で行われるみわざを見きわめることはできない。人は労苦して捜し求めても、見いだすことはない。知恵ある者が知っていると思っても、見きわめることはできない。(伝道の書8:16-17)

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。