イスラエル軍と協力するクリスチャン医療支援隊 2018.7.11

シリア南部での戦闘で難民がゴラン高原にまでせまったきたが、イスラエルは難民を領内に受け入れず、シリア領内でとどまるよう支援することを決めた。その上で、イスラエルとの国境付近に来た難民には、医療を提供する他、人道支援物資の搬入を行なっている。

イスラエル軍と協力し、シリア側で、医療活動をしているのは、AFI(Frontier Alliance International)と呼ばれる国際クリスチャン団体である。

AFIの医師、看護師らは、明確にイエスの名を全面に出しながら、自らの危険をかえりみず、難民たちの中に入って医療活動を行っている。献金だけでなく、実際に現場で働く彼らの働きは、イスラエル軍にも非常に高く評価されている。以下はシリアとの国境取材より。

<キブツ・アロネイ・ハバッシュ>

シリアとの国境に面するキブツ・アロネイ・ハバッシュは、シリア南部から逃れてきた難民たちのキャンプから500メートルしか離れていない。

しかし、両者の間には、非武装地帯があり、こちらかもむこうからも出入りはできない。キブツから、キャンプが見渡せる高台までは、ジープが必要であった。

高台からは眼下にフェンスがあり、そこから何もない緩衝地帯が数百メートルあり、その先に難民たちのテントがばらばらと見えた。10日前に、シリア南部からこの地域についたというモハンマド・ハリリさん(29)は、電話で記者団に対し、できれば、イスラエルに入りたいと言っていた。

<イスラエル軍の良き隣人作戦>

イスラエル軍は2013年から、シリア人で重症の負傷者を市民か武装勢力かの判別なしに、極秘で国内に搬入し、治療後、シリアに送り返すという人道支援を続けている。イスラエル軍医療部隊で医師のトメル・コラー少佐によると、これまでに子供1000人を含む負傷者3500人を治療したという。

2016年からは、医療ケアに加えて食料、医療物資などの人道支援物資も搬入するようになった。これに加えて、今回新しくこの地域(反政府勢力支配下)に、1万から1万5000人のシリア難民が来たということである。

この2週間、イスラエル軍は、食料、医療物資、ガソリンや発電機など生活のためのあらゆる必需品をほぼ毎晩届けているという。特に先のラマダン中には、多くの肉も支援した。イスラエルへ搬送した負傷者はこの2週間で30人に上っている。

物資の調達は、イスラエル軍だけでなく、イスラエル国内外の様々な支援団体がまかなっている。イスラエル軍は国連からの支援を期待したが、国連からの支援は今にいたるまでないとのこと。

近い将来、アサド政権がこの地方を支配するようになってからも支援を継続できるかどうかはまったく不明だが、できれば支援活動を続けたいというのがイスラエルの方針である。

イスラエルには、自国の防衛を最優先しながらも、苦しむ人々を放っておくべきでないという基本理念がある。

また、この8年ほど、この活動を通じて、シリア人たちの間で、イスラエルは危険な国ではないという概念が定着し始めている。これは長い目でみれば、将来、シリアとイスラエルの友好関係につながっていくと期待しているのである。

<シリア側での医療支援はクリスチャンが協力:AFI(Frontier Alliance International)>

イスラエル軍は、物資の調達をとりついだり、イスラエル側へ入った負傷者を助けることはできるが、非武装地帯へ入り、その先のシリアへ入ることはできない。その役割をになっているのが、AFIというクリスチャンNGOの医療部隊である。

AFIは、国際クリスチャン団体で、明確にイエスの名を全面に出し、聖書のことばに基づいて戦時下にある人々の間で医療を提供している。チームは医師、看護師など、世界中からボランティアで集まったクリスチャンたちである。

この窓口になっているのが、元イスラエル軍司令官退役軍人のマルコ・マレノさん。マレノさんは、クリスチャンたちがただ献金するだけでなく、実際にシリア人の中に入って活動していることに感動していると語った。

マルコさんとともに、イスラエル側で働くAFIの担当者によると、シリアでは最高65歳の看護師も働いているという。セキュリティの問題から、チームの人数や活躍の場所などはいっさい聞くことができなかった。

AFIでは、シリアに限らず、中東など紛争地帯で同様の活動を行っている。献金はネットからも可能で、スタッフになる医療関係者はいつでも応募できる。また映像による現実の紹介も行っている。

HP www.faimission.org/our-three-mandates/

フィルムサイト:”Sheep among wolf” www.faimission.org/film-library/

<ガリラヤ西部ナハリア・メディカルセンターより>

ナハリヤのこの病院は、一般の市民総合病院であるが、すすんだERや脳神経外科、整形外科があるため、市民の治療に加えて、重症のシリア難民の治療にあたってきた。これまでに治療したシリア人は2500人。このうち20%は子供だという。

最近のシリア南部での戦闘が始まってから13人が搬入され、現在、合計40人が入院中である。

顔面、頭頚部専門のエイヤル・セラ医師によると、シリアから搬入されてくる負傷者は、爆弾や機関銃などによる創傷で、相当重症である。また負傷後、治療がなされていないため、イスラエルでは未知の細菌に感染している場合があり、通常の抗生剤が効かないという。

ある患者は、銃弾が耳元から入り、顎を通過して胸につきささっていた。銃弾は入るときより、出るときに組織を破壊するという。この男性は顔半分がふきとんでなくなっていた。

セラ医師が、治療後として示す写真をみると、なくなっていた顔が再構築されていた。患者自身の足などの組織を使って顔を作り上げたのである。鼻は、3Dプリンターで作成したものを埋め込んだとのこと。

このように人間の形を失っていたような負傷者を人間の形に戻し、義足などで再び歩けるまでに回復させるのがこの病院の方針である。ただし、患者自身がそれぞ望むならばである。中には拒否する者もいる。

長時間かけて治療しても、シリア人たちは、まもなくシリアに戻っていく。セラ医師によると、その後については知るよしもないという。中には死亡したとの連絡を受けることもある。

イスラエルで治療を受けたのちに、回復を待たずにシリアへ戻り、また片手がふきとんで、戻ってきた少年がいた。手に持っていた手榴弾が爆発したのである。少年は、「あなたの国の子供たちは、コンピューターゲームをするのだろうが、僕たちはこれしか知らないんだ。」と怒って言ったという。

敵である人々を治療することについて、セラ医師は、

<イスラエルで治療を受けているシリア人の声>

顔面などに負傷して入院中のシリア人2人に話を聞いた。

ダマスカス近郊でシリア兵の銃弾を顔面に受けたグータさんは2年前にイスラエルに搬入され、破壊された顔面の再構築治療を受けている。シリアからイスラエルまでは極秘に馬に乗せられて3時間かかってたどりついたという。

イスラエルで治療を受けた人から話をきいていたので、恐怖はなかったという。グータさんは、15日おきに、シリアにいる家族と赤十字を通じて連絡をとれている。

クネイトラ周辺でやはり顔面に銃弾を受け、そのときに両手も失ったナウラスさん(22)は、今年6月2日にイスラエルに搬入された。イスラエルでよい治療を受けていると言っている。今両手の整形手術を待っているところだという。

グータさんは、シリアでは死というものが日常になっていると話す。シリアには、戦争とは関係ないマフィアのようなものもいて、あるとき、グータさんの友人を誘拐して父親に身代金を要求した。すると父親は、息子は5人いるから1人ぐらい殺しても良いといったそうである。

グータさんは、「はやくアサド政権が排斥され、シリア人がシリアに平和に暮らせるようになってほしい。イスラエルとよい関係になり、両国に行き来ができるようになってほしい。」と語った。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。