イスラエル全土で黙祷:10月7日犠牲者と人質になっている人々を覚えて 2023.11.8

November 7, 2023. (Ido Meirovich)

10月7日から30日;イスラエル全国で覚える

イスラエルでは7日、午前11時、ハマスに殺害された1400人と、人質242人を覚え、全国で1分間の黙祷が捧げられた。サイレンはならなかった。

その後、全国のイスラエル人たちは各地で、半旗のもと、国家「ハティクバ(希望の歌)」を歌った。

忘れてならないことは、これが過去のことではなく、今現在進行中のことであるということである。

エルサレムの戦没者記念ヘルツェルの丘では、これまでに戦死した兵士や警察官、国のために死んだ様々な働きについていて死亡した349人の名前が刻まれる式典が行われた。

この他、各地でそれぞれの地域や大学などでも記念式典が行われた。夜になると、テルアビブで、管弦楽団による追悼式も行われた。エルサレムでは、旧市街の城壁に人質となっている人々の顔写真が映し出された他、嘆きの壁で、1400のキャンドルが灯され、追悼の祈りが捧げられた。

www.timesofisrael.com/israel-observes-national-day-of-mourning-one-month-after-october-7-massacre/

www.timesofisrael.com/israel-marks-one-month-since-hamas-massacre-with-vigils-memorials-protests/

エルサレムのグレートシナゴーグでは、ユダヤ人とクリスチャンのリーダーたちが共に神に祈る時をもった。この祈り会を計画したラビ・トゥーリー・ウエイツは、「この戦いは霊的な戦いだ」として祈りの重要性を語っている。

この祈り会には、世界30カ国からやく1000のキリスト教会が、イスラエルのために祈ると申し出て、多くはオンラインでこの祈り会に参加したという。この中で、前議員で、第三神殿推進派でもあるラビ・ヤフダ・グリック氏が、詩篇29:9から祈るように呼びかけた。

息子が、ハマスの人質になっているレイチェル・ゴールドバーグさんは、「落ち込む時は詩篇を読んで励まされている。ユダヤ人とクリスチャンが共に祈ってくれていることに感謝する」と語った。

www.timesofisrael.com/israel-observes-national-day-of-mourning-one-month-after-october-7-massacre/

10月7日に何があったのか:最新の情報

1)ハマスの予想外の大規模侵入

10月7日朝6時半ごろ、ガザから5000発ともみられるロケット弾が発射されるとともに、ハマス約3000人が、国境を打ち破って複数地点からイスラエル領内に侵入した。

以下はハマス侵入の様子(イスラエル放送局KAN)

国境は、ハイテクの防護壁(10億ドルとも言われている)で守られていたが、もののみごとに突破され、ブルドーザーで壁が破壊されて、武装した本格的なハマス戦闘員だけでなく、普通の私服状態の若者もが侵入に参加していたことがわかる。

しかし、この時にハマスが見せた動きは、予想を超えるハイレベルな軍事行動で、イスラエルには予想外であった。なぜハマスにこれだけのことが可能であったのかについては、イランが背景にいるとしても、これまでのハマスとは思えないほどの動きだったとイスラエル軍関係者は語っている。

The Guardianの記事によると、ハマスが、3000人近い侵入者たちに、当日どのように指令を受け、動いていたかが記されている。それによると、指示はガザ全体に流れていたという。まずは100人単位の大隊と、その下に20-30人の小隊があった。その下に12人前後のグループに分かれてイスラエル院たちを襲撃していた。

この記事によると、武装ハマス300人に対し、1100人以上の民間人が加わっていたとのこと。逮捕者によると、見る人すべてを殺すよう、命じられていたという。

www.theguardian.com/world/2023/nov/07/secret-hamas-attack-orders-israel-gaza-7-october

2)ハマスの残虐きわまりない殺戮

侵入したハマスば、国境近くで開催されていた音楽フェスティバルで260人を殺害した他、国境のキブツなどに侵入して、銃撃と放火、乳児から高齢者、兵士たちの首や四肢の切断、女性はレイプされた上に殺されていた。

死者は1400人、人質は241人とされているが、まだ身元が明らかになっていない遺体や、遺体のすすなどがあり、数字は変動している。

キブツ・べエリ:イスラエル人120人死亡/約1000人、戦闘でハマス少なくとも103人死亡
オファキム:イスラエル人40人以上死亡
クファル・アザ:イスラエル人120人以上死亡
キブツ・ニール・オズ:イスラエル人100人以上死亡、不明、拉致
キブツ・ナハル・オズ:イスラエル人100人以上死亡 20人以上不明
スデロット:イスラエル市民、警察官数十人死亡
ネティブ・ハアサラ:イスラエル人20人以上死亡
ホリット:イスラエル人13人以上死亡
キスフィム:イスラエル人16人以上死亡
キブツ・レイム:イスラエル人複数人死亡
ヤクヒニ:イスラエル人4人死亡
ニール・イツハク:イスラエル人3人死亡
アルミム:外国人20人以上死亡
ニリム:イスラエル人5人以上死亡
エイン・ハシロシャ:イスラエル人4人以上死亡 *他にもイスラエル人は兵士が死亡した地域がある。

ハマスの攻撃では、この地域に住んでいるベドウイン族の村も襲撃を受け、アラブ人17人が死亡していた。

www.nytimes.com/2023/10/29/world/middleeast/israel-hamas-arab-bedouins.html

一方で、ハマスを撃退して死者が出なかった地域も5地域あった。

www.ynetnews.com/magazine/article/ryreaqmgt

以下はイスラエル軍が公表した侵入後の家屋の様子

以下のサイトでは、ガザ周辺でなんとか生き延びて襲撃を目撃した人の証言が日本語で読める。

www.october7.org/ja

以下のサイトでは、イスラエル、パレスチナ双方の犠牲者たちの写真がそのまま上げられている。戦争のリアルである。

apnews.com/article/israel-gaza-hamas-war-palestinians-photo-gallery-0d3960dc03ddd8b4fe3d81111cf177a0

以下のサイトでは、ハマスの襲撃を受けた地域とその中で、死亡、人質、不明となった人の情報を見ることができる。

oct7map.com

考古学者が遺体捜索に協力

被災した家屋や車は、かなり燃え尽くされており、中にまだ遺体が残されている可能性があるという。10月7日以来、ZAKAと呼ばれるユダヤ教徒のボランティア団体が、今もまだ捜索を続けている。心理的にもかなり厳しい仕事であることは言うまでもないことである。

その作業にイスラエル考古学庁から考古学者15人が派遣され、15人分の遺体の識別に貢献したという。

www.timesofisrael.com/trained-to-analyze-ancient-carnage-archaeologists-locate-victims-among-kibbutz-ashes/

人質241人:テルアビブで4日大規模ラリー

ハマスに人質になったのは、246人。このうち市民4人と兵士1人が釈放されたことから、現在241人。この中には2014年以来、拉致されたままの2人も含まれる。このうち少なくとも30人は乳幼児である。18歳、20歳の息子と娘を人質に取られている父親など、考えるだけでも心が痛む。

人質の家族たちは、エルサレムの国会前でラリーを行った他、テルアビブでは、4日、数千人が捕虜の奪回を訴えるデモを行った。

このラリーでは政府にとにかく拉致された家族を一刻も早く取り戻すよう訴えるものである。何よりも捕虜を取り戻すことを最優先する声がある中で、人質は無事取り戻してほしいが、ハマスとの戦闘は続けてほしいという人もいる。

イスラエル人に及ぼした影響:Black Shabbth

10月7日のハマスによる虐殺は、ユダヤ人たちにホロコースト以来という言葉を使わせるほどに、恐ろしいものであり、「ブラックシャバット(暗黒の安息日)」と呼ばれている。

ユダヤ人たちにとって、ホロコーストは、当時ヨーロッパにいたユダヤ人970万人ほどの600万人、3人に2人が、残虐きわまりない方法で殺された時代のことは、本当に特別であり、他とくらべることは、これまでになかったことである。

また世界で急増する反ユダヤ主義は、ユダヤ人たちのこころに底しれない恐怖をもたらしている。友人Mさんは、仕事の関係で、今ギリシャにいるが、町では絶対にヘブライ語は使わないと言っていた。

ホロコーストはヒトラー首相就任12年という一つの時代にわたる苦難であったことから、今回のブラックシャバットとを比べることには、議論もあるが、類似点はいくつかあることから、ユダヤ人に独特の恐怖をもたらしている。

類似点として上げられているのは、長時間隠れていたこと、子供女性に関わらず、計り知れない残酷な殺し方、焼け焦げた遺体などである。また、何百人もが、突然消えてしまい。どうなったのかわからないままになっているという不確実性。

また世界で反ユダヤ主義、反イスラエル主義が暴力にまでなっているという点。それでも国連は何もできないという点。世界からの拒絶を実感させられていることもあげられる。

しかし、その中で、最も問題として上げられているのが、ナチスもイスラム原理主義も、ただユダヤ人、またはイスラエルというだけで、抹殺の対象にしているという点である。

www.jpost.com/opinion/article-770704

神経科学者のタルマ・シンドラー教授によると、イスラエル人は今、急性のストレスを経験しているという。無気力や、集中力の欠如。霧の中を歩いているような感覚である。睡眠障害、悪夢、感情の不安定などである。

しかし、80-90%の人々は回復するとみられ、回復しなかった人はPTSDを発症する可能性があある。シンドラー教授は、多くの人が、避難民を助けるボランティアに出ているが、それが回復につながる助けにもなるという。

ホロコーストを通って生き延びたユダヤ人たちが、専用難民キャンプで、互いに自分の役割を果たしながら、立ち上がっていったことにもつながるかもしれない。

www.timesofisrael.com/something-changes-in-our-brains-as-we-react-to-the-traumas-on-and-since-oct-7/

石のひとりごと

ガザでは、パレスチナ人1万人以上が死んでいるという人がいるかもしれない。その人々のことも無論、祈らなければならない。

しかし、ユダヤ人にとっては、この人の手による虐殺ということが、特別の意味を持っているということも知っておく必要がある。

またホロコーストは、プーチン大統領もウクライナ侵攻の時に引き合いに出している。決してユダヤ人の過去のことで終わることではない。今の世界にも大きな影響を及ぼしている。

イスラエル国立ホロコースト記念館ヤド・ヴァシェムでは、ヴァーチャルツアーを通じて、2000年以上前にもさかのぼる反ユダヤ主義について、またユダヤ人たちがそれとどう向き合ってきたのかを学ぶことができる。ぜひご参加を。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。